醜怪なるモノ
今回はそこそこグロ要素多めです。
苦手な人はご注意お願いします。
「な………あ………」
私は視線の先にあるものを見て驚愕する。
真っ二つに切り裂かれたトロールが切断面も露にして
それぞれ立っていた。
その周辺に散らばっていたトロールだったものも蠢き始めている。
「チッ、こいつらアンデッドか!!」
冒険者のリーダーは即座に判断し、陣形を整える。
アンデッド?アンデッドってゾンビとかああいうのだよね!?
この世界はそんなのまでいるの!?
「アンデッド?」
マリスがリーダーの言葉に眉を顰める。
「あれ、アンデッドなんかじゃないよ。死体から魔力が感じられない
アンデッドは術者が魔力で死体を操る術式だから絶対にどこか魔力経路がある
けど、あれには………」
マリスは表情を硬くしながら言葉を続ける。
その様子からは普段の飄々と姿は微塵も感じられない。
「おっちゃん達、逃げて!!
そいつは明らかにヤバい!!」
マリスが冒険者達に撤退を促そうとする。
「馬鹿を言え!!トロールがアンデッドになったからって何だってんだ!!
しかもレベルは22のままじゃねーか
こんな事で逃げたらいい笑いものだぜ!!」
マリスの忠告も空しく、冒険者達はトロールだったものに戦いを挑む。
だけど………
「な、何だコイツは!!」
冒険者達が肉薄する寸前、トロールの切断面から触手の様なものが伸びてきて
他のトロールの肉片に取りついて行き、1か所に集まっていく。
「な、何だ?何が起ころうとしてやがる」
集まった肉片たちは歪な変化を遂げ………一塊になり
巨大なトロールの姿を形作っていく。
「これは………間違いなくアンデッドじゃないわ
それよりもっとおぞましい………何かよ」
フィルが絞り出すような声で呟く。
その呟きに呼応する様に、トロールの肉塊から頭の様なものが生えてくる。
眼球は無い、むしろ五感があるかも怪しい姿だ。
見るのもおぞましい、醜悪な姿の怪物がそこにいた。
「チッ、テメエ等、ビビってんじゃねぇ!!
木偶の棒のトロールがいくら集まろうと木偶の棒でしかねぇんだ!!
とっととぶっ倒してやるぞ!!」
リーダーの掛け声とともに冒険者達は異形のトロールに攻撃を仕掛ける。
あれは不味い、お爺ちゃんに鍛えられ、今まで何度も救ってくれた
私の勘が激しく警鐘を鳴らす。
あれは、『ここで倒さないとヤバい』と。
「みんな、加勢するよ!!
あれはなんかヤバい気がする、放置する訳には………」
「来るんじゃねぇ!!こいつらは俺らの獲物だ!!
横槍入れやがったらテメエ等からぶっ殺してやる!!」
私の言葉が聞こえたのかリーダーが怒号で私達の援護を拒否する。
あの人、この状況でまだそんな事を言うつもり?
「状況が分からないの!?未知の敵相手に横槍云々
言ってる場合じゃないでしょ!!」
「うるせぇ!!テメェ達低レベルのクソガキどもが
偉そうに抜かしてんじゃねぇ!!
何が未知の敵だ!!所詮トロールはトロ―ル
、俺達の敵であるはずがねぇ!!」
怒号を発しながらも、味方が作り出した隙をついてリーダーが
異形のトロールの腕を切り落とす。
「へん、見たかクソガキ共!!
ベテラン冒険者を舐めんじゃ………」
リーダーの得意げな顔がすぐに曇る。
切り落とした筈の腕が目を離した隙に再生していたからだ。
「なん………」
絶句するのも無理はない、正直あり得ない再生速度だ。
むしろ復元ってレベルだね、時間が逆行してるって言っても不思議じゃないよ。
「クソッ、そんな再生が何時までも続くわきゃねぇんだ
こいつの再生速度が追っつかなくなるまで切り刻んで………」
「ザーダ、危ねぇ!!」
グサッ!!
その瞬間、リーダーの胸板を切り落とした腕が貫通する
「な………あ………」
「ザーダ!!」
他冒険者がリーダーの名前を叫ぶ、それと同時にリーダーが吐血し
貫かれた胸板から鮮血が噴き出す。
コイツ、切り落とした腕も動かせるの!?
胸板を貫かれたリーダーは、そのまま意識を………
「な……なん………だ、これ…は?」
失わず、胸板を貫かれた状態で辺りを見回している。
あまりの光景に絶句する、腕は確実にリーダーの胸板を貫き、明らかに
致死量の出血をしてるのにリーダーは死んでいないのだ。
「へっ………俺、どうなって………」
自分の身に起きたあまりの事態に困惑するリーダー、しかしそれを尻目に
腕から生えてきた複数の触手がリーダーの全身に絡みつく。
「な………なんだ!?」
腕はリーダーの体を完全に拘束すると本体へと触手を伸ばし
異形のトロールの体に戻っていく。
「ま、待て………まさか!!」
「ッ!!マリス、リーゼ!!
あの触手を!!」
異形のトロールが何をしようとしているか理解できた私は
即座にリーゼとマリスに指示を出す。
「了解しました」
「うん!!」
リーゼは腕に向かい、マリスはその場で魔法の火球を数個発生させる。
………が、それを妨害する様にリーゼに腕から生えた触手が襲い掛かる。
「クッ!!」
進路を塞がれたリーゼは力任せに戦斧を振り、触手を薙ぎ払う。
その隙間を縫うようにしてマリスが火球を発射するも、奥から新たな触手が
生えてきて壁となって火球を防ぐ。
その間もリーダーと異形のトロールの距離は縮まって行き………
「う………嘘だろおい、待て、待て、待て!!」
リーダーと異形のトロール接触する、そしてそのまま
ゆっくりとリーダーの体が切り落とされた腕ごと異形のトロールに埋没していく。
「お、おい………待て、待ってくれ!!
誰か、誰か助けろ!!お前等、クソガキ共、早く!!
何でだ!!こんな死に方は嫌だ!!」
リーダーの悲痛な叫びも空しく、異形のトロールに埋没し………
「あ………」
ついに頭まで埋没し、完全に取り込まれる。
「何だよ………なんだあれ!?」
あまりの異様な光景に、他冒険者達の足が止まる。
「じょ、冗談じゃねぇぞ!!
俺ぁトロールを倒すだけの仕事だって聞いたから参加したんだ!!
あんなバケモンと戦うなんて御免だ!!」
1人の冒険者がそう言って武器を放り出し逃げ出す。
「い、嫌だ………あんな死に方なんて御免だ!!」
「クソッ、こんなのに付き合ってられるか!!」
堰を切った様に他冒険者が蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
「あっ、ちょっと!!」
思わず止めようとするもあっという間に冒険者達は遠ざかっていく。
………その場に残されたのは私達と、異形のトロールのみになった。
幸い奴との距離は開いていて、向こうは私達の事をまだ認識できていない。
「さて、どうしよっかレンお姉ちゃん
マリスとしては撤退をお勧めしたいとこだけど」
思いつめた表情でマリスは私に問いかける。
冷静に考えてそれが最善手だ、このまま私達が戦ってもさっきのリーダーみたく
取り込まれる可能性が高い。けど………
「リーゼ、フィルとマリスを連れてここから逃げて
そしてそのまま帝都に戻って状況を説明してマイーダさんに指示を貰って」
「マスター!?」
私の提案にみんなは驚いてこちらを向く。
そりゃそうだよね、私だって同じ事言われたら同じ反応するよ。
「何言ってるのレン!!逃げるなら貴方も逃げなきゃ意味ないじゃない!!」
フィルが非難めいた口調で私を責める。
うん、フィルならそう言うと思ったよ。
「そだね………それは十分に分かってる
けど、頭おかしいと思うだろうけど私の勘はここで逃げたら終わりって
さっきから叫んでるんだよ」
そう言って私はトロールに向かって構える。
「確証は無いし勝算なんて見えもしない、けど私はずっとこの勘を信じて
生きて来たしこの勘に何度も救われてきた。だから私はここで
逃げる訳は行かないんだ。
………ここで逃げたら、私は私でなくなるから」
自分でも何言ってるんだと思う、無茶苦茶もいい所だ。
だからこそ、みんなを巻き込む訳にはいかない。
「これは只の私の我儘、こんな支離滅裂な事を言ってる女に
付き合う理由なんてない
だからこそ、みんなを巻き込む訳には………」
パァン!!
不意に、右頬に痛みが走る。
驚いて前を見る、そこには涙目のフィルが怒りの表情で私を睨みつけていた。
………ああ、私はフィルに頬を張られたのか。
「レン、貴方が私達を気づかう気持ちはとても嬉しい
けど、そこでどうして一緒に戦ってくれって言わないのよ!!」
フィルは憤怒やるかたない勢いで私に怒鳴る。
「私は最初に言ったわよね、『レンとなら喜んで地獄へもついて行く』って
レンは冗談に取ったかもしれないけど、私は本気なの
なら、レンが戦うって言った以上、私の選択肢は1つかあり得ない」
フィルは涙を拭い、決意を秘めた表情で私を見据える。
その表情は、出会った頃に『私と一緒に冒険者になる』と言ってくれた
時のままだった。
「まぁ、確かにマリスは撤退をお勧めしたけどさ
正直に言うと、こんなトラブルを前に撤退なんかしたくは無いんだよね」
頭の後ろで腕を組み、まるで楽しい遊びを始めるような口調でマリスは言う。
「無理無茶無謀、大いに結構!!
それらが生み出してくれる感覚を求めて、マリスはここにいるんだよね!!」
マリスはそう言いながら私の横に並びにやりと笑う。
「先に科白を取られてしまいましたが、我もマスターの赴く先なら
どんな所でも付き従うのが我の務めであり、喜びであります」
リーゼは私に背中を向けて立ち、戦斧を取り出して構える。
まるで、私を守る盾になるかのように。
「マスター、我に『あれを倒せ』とご命令ください
さすればあの程度のモノなど、二度と甦る事が無い程に引き裂き
我が炎で灰燼と化しましょう」
そう言って振り返り、微笑んで見せる。
………何なんだろうね、ホント。
出会ってまだ1週間ぐらいしか経ってないのに、なんでみんな
そこまで覚悟完了してるのやら。
全く…この世界に来てからこっち、いい出会いをしまくってるね。
なら、それに応えなきゃいけないか!!
「全く、私みたいなのに付き合ってると早死にするよって言ってるのに
みんな、付き合いいいんだから」
ぱん!!と気合を入れる為に顔を叩く。
………目尻に浮かんだ涙をごまかす為に。
「んじゃ、気張りましょうか
みんな、コイツを何とかして生きて帰るよ!!」
私の仲間がそれぞれ頷く。
それが、死闘への開始の合図だった。




