冒険者達の戦い方
「さてさて、トロールの出没視点ってこの辺りって話だけど………」
ギルドを出発してから約1時間後、私達はダナンさんが指示した
場所周辺に到着した。
「地図でも見たけどこんな街道近くなんてね………
今まで被害が出なかったのが不思議なくらいだわ」
周辺を見てフィルが呟く。
シェリンの町から帝国各地に繋がる要の道だ、恐らく物資の輸送も頻繁だよね
それらがトロールの目に留まらなかったのは幸いなんだろうけど………
「とは言え、それがずっと続く訳がない
早急に排除しないといけないのは確かだね」
「つくづく、あの冒険者達は下衆な事してたわね
正義の味方を気取りたい訳じゃないけど、ホント気分悪いわね」
「そうは言いながらも義憤に駆られてるフィルっていい子だよね
私はそこまで怒れないから羨ましいかな」
そんな言葉が思わず口に出てしまう、確かにあのおっさん達の行動に
憤りは感じるけど、お爺ちゃんとの鍛錬のお陰で物事を冷静に見渡してしまう
癖がついちゃってるんだよね、私。
だから、現実的な考え寄りになってしまってどうしても
フィルみたいに怒ることは出来ないんだよね。
今回の件だって大局的に見たら眉を顰める行為だけど、冒険者の立場からしたら
危険な仕事をするんだからもっと報酬を寄こせと言うのは当然だと思う。
まぁ、正直順序は逆だとは思うけどね。
そんな事を思いながら何気なくフィルを見ると………真っ赤になって俯いてる!?
「そ、そんな………私は………(ゴニョゴニョ」
あれ?もしかしてフィル照れてる?
………普段は神秘的な雰囲気なのに強気だけど、こういう表情もするんだ
リーゼに乗った時の涙目フィルも可愛かったけど、こんな表情も
年相応で可愛いよね、一応私より年上だけど。
けど、そんな表情をマリスに見られたらからかわれるよ?
そう思ってマリスの方を見ると、フィルの様子には目もくれず
何か真剣な表情で考え込んでる。
「どうしたのマリス、何か真剣な顔で考え込んでるけど」
私の声掛けにマリスは顔を上げる。
「ああ、ごめんレンお姉ちゃん
ちょっと腑に落ちない点が多々あって考えこんじゃってたよ」
「腑に落ちない点?」
どうしたんだろう、何か怪しいとこでもあったのかな?
「うん、トロールって確かに好戦的であまり知能は高くないんだけど
低いって程でも無いんだよね。
人間だけじゃなく他種族を喰い殺したり、孕ませて繁殖したりはするんだけど
あくまでそれは自分たちの安全が確保されてる時なんだよね」
「ん?どういう事?」
「つまり人を襲う時って大抵自分の住処の近くで獲物が単独
もしくは少数でいる時のみなんだ。
普通ならこんな人間の町近くには絶対に近づかないんだよ、見つかったら
討伐されるのが分かり切ってるからね、実際冒険者が差し向けられてるし」
成程、その位の知恵は持ってる訳だね。
「だからマリスは腑に落ちなかったの?」
「そだね、考え過ぎだとは思うけどレンお姉ちゃんの『最悪の事態を想定して』
って言葉でそんな違和感を感じたんだよ」
何と言うか、マリスが私の言葉をそんな感じで受け止めてくれてたとはね。
お爺ちゃんの受け売りの言葉だったけど、真剣に受けてくれたのは嬉しいかな。
「ありがとマリス、真剣に受け止めてくれて」
「マリスは楽天家だからね~、そうやって釘を刺してくれるのは有難いよ
あはははは」
そう言ってマリスは笑う、けど心なしか頬が赤いね。
となればこれは照れ隠しの笑いかもね。
「マスター、左前方から人間とトロールの戦闘を確認しました
恐らくは目標かと思われますが、如何致しますか?」
周囲を見回していたリーゼが左前方を指し示す、どうやら目標を見つけた様だ。
とは言えその方向を見ても何も見えない、ドラゴンだから見えるのかな?
「私達じゃ確認できないけど、ひとまず行ってみようか
リーゼ、先導お願い」
「了解しました、マスター」
………
………………
………………………
数分後、私達はリーゼの言っていた場所に到着する。
そこでは言葉通り、さっきの冒険者とトロールの戦闘が繰り広げられていた。
数が5対5、丁度同数だね。
しかしあれがトロールね、確かにマリスの言う通り冒険者達より一回り大きいし
何かダルダルなお腹で不潔な感じだね、アレと戦うのはちょっと嫌かも。
「お~、やってるやってる
さてさて、あのおっちゃん達のお手並み拝見と」
ついて早々マリスはドカッと胡坐をかき、持っていた
クッキーらしきものを食べ始める。
観戦する気満々だね、と言うかそんな物いつの間に持ってきてたの………
「まぁ、冒険者の戦闘に横槍を入れるのはご法度らしいし
のんびり見学してたらいいんじゃない?」
そう言いながらフィルも座り込んで観戦する。
まぁそうなんだけど不測の事態って油断した時に起こるからねぇ。
「マスター、ご心配は無用かと
あの人間達はトロールより遥かにレベルは上です、あそこまで差があれば
負ける要素は無いかと」
そうなの?レベルが見えないからその辺りは良く分かんないんだけど。
「人間達の平均レベルは32、トロール達の平均レベルは22です
そこまでの差があれば一方的な蹂躙になるでしょう」
リーゼはそう言って戦闘に視線を移す、その視線を追ってみると
確かに冒険者達が優勢に戦いを繰り広げていた。
うん、確かに優勢なんだけども………
「んん?」
えーっと………なにこれ。
トロール達は先頭に立っている冒険者に次々に襲い掛かるも
冒険者は避けようともせず攻撃をすべて受けてる。
うん、受けるのはいい。恐らく防具が優秀なんだろう、冒険者に
ダメージが入ってる様子はない。
けど……受けるにしたって受け流しもせず真っ向から受け止めてるってどうよ。
しかもそれでダメージが入らないって何?
さらに言えば明らかに避けれそうな攻撃も真っ向から受け止めてる。
そんでもってトロール側も同じように足を地につけて戦ってるし………
あっちはあっちで受けた傷が徐々に治ってる、あれが再生能力って奴かな。
とは言え偉く泥仕合みたいな戦い方してるね………
何?これってプロレス?
「え~っと………フィル、ちょっと質問いいかな?」
「ん?どうしたのレン」
「あの冒険者達の戦い方ってさ、あれがここでの主流なの?」
「多分………私も冒険者の戦いは見た事ないけど
聖騎士達の戦い方もあんな感じだったわ」
えぇぇ………いや足を付けての戦いってのも否定はしないけどさ
それでも避けるなり受け流す動作もしないって何なの?
「あっはっはっは、確かにレンお姉ちゃんの戦い方見てると
何で避けないんだろうって思えて来るけど
残念ながら『レベルを上げて装備と能力で圧倒する』って言うのがこの世界の
戦闘の主流なんだよね~」
成程ね、身体能力が相手より上回っていれば避ける必要もない、か。
確かにそれはそれで理にはかなってる、けど………少なくとも私には無理かな
多分攻撃受けたら致命傷だし、私にはレベルもステータスもないしね。
「マスター、そろそろ決着が着きそうです
結果は予想通りかと」
リーゼの言葉で私は戦場に視線を戻す、そこには瀕死のトロールが
1匹立っているのみで、正に今トドメを刺される瞬間だった。
「はん!!再生能力だけの木偶の坊が俺達に勝とうなんざ甘ぇんだよ!!」
リーダーらしき冒険者はそう言い放つと剣を上段に構え、トロールを唐竹割で
真っ二つにする。
「グオアアァァァ………」
真っ二つにされたトロールはそれでも即死せず、冒険者に手を伸ばし………
血飛沫をまき散らしながら大きな音を立てて倒れた。
うわ~あれで即死じゃないんだトロールって、黒光りする奴より
生命力高いんじゃないかな………
私が若干引きながら周囲を見渡すと残り4匹のトロールも原形を留めない状態で
転がってる、これ今が昼じゃなければ完全にホラー映画だよ。
隣でフィルも青い顔をしてる。うん、さすがにこの光景はきついよね。
「いや~お見事、流石言うだけはあるね~おっちゃん達」
こんな凄惨な光景にも拘らずマリスはいつもの調子で冒険者達に拍手を送ってる。
………マリスってホント精神タフだよね。
「ああ?てめぇ等か………
チッ、俺らの邪魔した挙句監視にまできやがったか」
冒険者達は私達に敵意も隠さず吐き捨てる、逆恨みもいいとこなんだけど………
「悪いけど、これも仕事だからね~
恨むんなら冒険者ギルドにヨロシク~」
「チッ!!」
軽口を続けるマリスを忌々しそうに舌打ちして視線を外す冒険者のリーダー。
流石に筋が違う事は認識してる様で私達を睨みながらも
それ以上は文句を言うつもりはないようだ。
「おら、さっさとこいつらの魔晶石を回収するぞ
少しでも稼ぎを上乗せしねぇと気が済まねぇ」
リーダーは他冒険者達に指示を出し、トロールの解体を始める。
………いくら魔物とは言え人型のモノを解体する光景は気分のいい物じゃないね。
いつかは慣れなきゃいけないとは思うけど、無理に我慢することもないか。
「どうやら普通に終わりそうだし帰ろうか
正直、あまり見ていたい光景じゃないしね」
「………賛成、暫くお肉食べられなくなりそう」
「レンお姉ちゃんもフィルミールお姉ちゃんも冒険者なんだから
早く慣れなきゃだめだよ~、あはははは」
「マスターはこう言うのが苦手なのですね、でしたら私がブレスで………」
「あ~、ありがとリーゼ
けど今はダメだよ、他の冒険者さん達も丸焦げになるからね」
リーゼ、人化状態でもブレス吐けるのね。
それは兎も角目の前のグロい光景から早く離れたい。
そう思って私は背を向けて歩き出そうとした瞬間………
――――――めて!!
「………ん?」
不意にどこからから声が聞こえ、足を止める。
「リーゼ、何か言った?」
「いえ、何も言ってませんが」
隣にいたリーゼに聞くもリーゼは首を振る。
ん~幻聴かな、けどどこかで聞いた声の様な気がするけど。
何処で聞いたっけと思案し始めたその時………
ゾクッ!!
いきなり背筋に氷の棒を差し込まれたような強烈な悪寒が襲い掛かる。
なに……これ!?
私は反射的に振り返り、背後を確認する。
「うわああああああああ!!な、なんだこりゃああああぁぁ!!」
冒険者達の絶叫が木霊する、そしてその先には………
半分に切り裂かれたはずの、トロールが立っていた。
※冒険者達の戦い方について補足
文字描写ではわかりにくいかもですが、レトロ気味なターン制RPGを想像して
貰えれば理解しやすいかもです。
いわゆる「レベルを上げて物理で殴れ」ですね。




