強欲は為に成らず
「だ~か~ら、それっぽっちじゃ俺達は動けねぇっ言ってんだ
アンタたちの為に命賭けるんだからその辺りを考慮してくれても
いいんじゃねぇかなって言ってんだよ」
ギルドに到着すると、そこの受付カウンターらしい所に冒険者が
数人固まってギルド員と何か話していた。
「で、ですから、ギルド決まりとして依頼書以上の金額は
お渡ししちゃいけないってなってるんですよ~
そんな事すれば僕がギルドマスターに怒られちゃいますよ~」
「だから、それはお前がちょちょいっと誤魔化せばいいだけだろ?
そうすればすぐにでもトロール退治して来てやるし
お前にとっても好都合しかねぇじゃねぇか」
「何で好都合なんですかぁ~、あ、貴方達が素直に依頼に取り掛かってくれれば
僕がそんな事をする必要なんて無いじゃ………」
「ああん!?俺達が悪いってか!?」
「ひぃぃ!!こ、声を荒げないでください~」
………何というか、ドンピシャなタイミングだねぇ。
アイシャちゃんの言った通り、このままだと無茶な要求を通されそうだね。
ギルド員さんも気弱そうでいまいち頼りにならなそうだし………
ま、取り合えず割り込んで話をしますかね。
「すみません!!帝都からトロール退治の依頼を受けたものですが
責任者の方はいませんか!!」
「あ!?」
「ふぇ?」
自分に注意を向けさせるためにわざと大きな声で来訪を告げる。
目論見通り冒険者達は会話を中断させ、一斉にこちらに向く。
「あぁ?何だと思ったら小娘どもじゃねぇか
ここはてめぇらの遊び場じゃねぇんだ、さっさと消えな」
冒険者の1人が私達を睨みつけながら鬱陶しそうな声色で
帰れとばかりに手を振る。
「悪いけど、マリス達が用があるのはおっちゃん達じゃないんだよね~
お兄さんがギルドの責任者なのかな?」
強面ぞろいの冒険者達を歯牙にもかけない様子でマリスがギルド員らしい
男の人に声をかける。
「なっ!?このクソガキ………」
「申し訳ありませんが、私達はイヴェンス帝国冒険者ギルドの
ギルドマスターの依頼で来ています
緊急の事態でなければ、先に責任者とお話しさせて頂きたいのですが」
マリスの態度に激高しそうになった冒険者達に、対人モードになった
フィルが依頼書をチラつかせながら言い放つ。
「なん………だと………」
私にはなんて書いてるか読めない依頼書だけど、冒険者達はそれを見て
様相を変え始める。
「偽物だと思うのでしたら、貴方に真贋を見定めて貰って宜しいでしょうか?」
「えっ!?ええ………分かりました」
フィルは流れるような優雅な仕草でギルド員に依頼書を手渡す。
こうして見るとほんっとフィルって神秘的だよね、中身は結構人間臭いけど。
「た………確かに、ギルドマスターの印があります
という事は貴方達が………」
「うん、このギルドの要請で派遣された冒険者って事かな
可憐な美少女揃いで吃驚したかな?あははははは」
マリスの言葉にその場にいた全員が驚愕の表情で私達を見る。
………まぁ、少なくとも強そうには見えないよね、私達。
「え、えっと………君たちが僕の要請でマスターが派遣してきた冒険者なの?
悪いけどとてもそんな風には………」
「まぁ私達の姿からしてそうは見えないよね
けど………リーゼ、ちょっと武器を出してくれないかな?」
「了解です、マスター」
リーゼは指輪を顔の前に掲げるとすぐに巨大な戦斧が手の内に現れ
持つと同時に柄で床を鳴らすと同時にギルド内が軽く振動する。
相変わらず重そうだよね、その戦斧。
「なっ、あ………」
呆気に取られる男達、まぁこの絵面のインパクトは凄いよね。
「この通り、レベルは低めだけどギルドマスターが認めるくらいの
力はあるよ、それでも信じられないならリーゼと模擬戦でも
した方がいいかな?」
「い、いや………十分だよ、うん
それじゃ君達がトロール退治を引き継ぐって事でいいのかな?」
「なっ、ちょっと待て!!そりゃ一体どういうことだ!!」
「ひぅ!?」
話を始めようかと言うときに冒険者………もうおっさんでいいか
おっさん達が割り込んでくる。
「ど、どどういう事かと言われても、貴方達が何時まで経っても
トロール退治に向かわないから代わりの人が来ただけじゃないですか」
「だから依頼料上げたらすぐに向かうって言ってんだろ!!」
今にもギルド員に掴みかからんとするおっさん。
すかさずフィルが間に割って入り、おっさんを冷たい目線で牽制する。
「それが出来ないからギルドは代わりの私達を寄こしたんです
つまり、ギルドは貴方達が仕事を放棄したとみなした訳です」
「なっ………」
お~お~、おっさん達の身勝手な言い分にフィルがちょっとお怒りだね。
ま、私も同じ気持ちだけど。
「おっちゃん達、ちょ~っと好き勝手しすぎたみたいだねぇ
ま、後は私達に任せてのんびりしてなよ
報酬は無くなって評価も下がるけど、仕方ないよね」
フィルの言葉に追撃してマリスが悪い顔で煽る。
それを見たおっちゃん達は苦虫を噛み潰した顔になっていく。
「クソっ………おい!!
今からトロール退治すればいいんだな!!」
「へっ………は、はい
当方としては退治して貰えれば誰でも構いませんから………」
「ちっ………行くぞお前ら
すぐに片づけて来るから報酬用意しとけよ!!」
捨て台詞まんまなセリフを言い放ち、おっちゃん達はいそいそと
トロール退治に向かう。
………やれやれ、取り合えずひと段階目クリアかな。
「あ、有難うございます。お陰で何とかなりそうです」
ギルド員は私達に向かって深々とお辞儀をする。
「お礼は必要ないよ、私達も仕事だったからね
しかしベテラン冒険者ってあんなのばかりなのかな」
私の呟きにギルド員は苦笑しながら
「あはは………冒険者を長く続けてると自信過剰になる方が多いですからね
尤も、そうじゃない人の方が大多数ですが………」
「まぁ悪目立ちはするよね~」
「あははは………」
マリスの指摘にギルド員は力なく笑った後、居住まいを正し
「自己紹介が遅れました、僕がシュリン冒険者ギルドの支部長
【ダナン=ロークス】と申します」
ギルド員………ダナンさんはそう口にするとぺこりと頭を下げる。
「しかし驚いたよ、まさかギルドマスターが寄こして下さった冒険者が
君達の様な若い女性ばかりのパーティなんて………」
「まぁ、強面の男達と比べて強そうに見えないのは事実だからね
けど、一応それなりに戦えると思うよ、私達」
「ギルドマスターが認めてる以上、僕が疑う余地はないよ
あの人ああ見えて評価はシビアだからね」
そうなんだ、豪快で気のいい肝っ玉母ちゃんな印象なんだけど
仕事に関しては凄く厳しいんだね、マイーダさんって。
「それでレン、これからどうするの?
一応最低限の仕事は果たした訳だけど………」
「そうだね………一応私達の依頼内容も『トロール退治』だし
あの人達を手伝うのは筋なんだろうけど」
「う~ん、それは止めておいた方がいいかな」
私の言葉にダナンさんが難色を示す。
「君達はまだ新人だから知らないかもだけど、基本、他の冒険者が戦ってる
モンスターは手出しをしないって言うのが冒険者内での暗黙のルールなんだよ
そうしないと倒した敵の戦利品で揉める原因になるからね。
尤も、相手から救援を求められたらその限りじゃないけど」
そうなんだ、まぁ分かる話ではあるね。
命がけで戦ってる最中に横入りされて戦利品も持ってかれたら流石に怒るよね。
「けど、そうだね………
悪いけど、あの人達がきちんとトロール退治をしたか見届けてくれないかな。
彼らも報酬欲しさに値上げ交渉してきたから、仕事自体はきちんとやってくれる
とは思うけど、念のためにね」
「あははは、当然だけど信用無くしちゃってるね~、あのおっちゃん達」
ダナンさんの要請内容にマリスが尤もな事を言う。
まぁ、自信過剰になって立場を弁えずにあんな事すればそりゃ信用無くすよね。
「勿論追加依頼って事でほんの少しだけど報酬を上乗せするよ
出来れば引き受けてくれると有り難いんだけどね」
うん、悪くない提案かな。
こちらとしても少しの手間でギルドの信用を得られるのは有難いし、それに………
「みんな、どうしよっか
私としては受けてもいいと思うけど」
「レンが決めたのなら異論は無いわ、2人ともそうでしょ?」
「マリスも賛成だね~、このままのんびり待つのは性に合わないし」
「マスターの意志ならば私はついて行くのみです」
う~ん、賛成してくれるのは有難いけどフィルとリーゼは
もうちょっと考えて欲しいかも………
反証役が欲しいとこだけど、一度フィルと話をしてみようかな。
まぁ、取り敢えずは追加依頼にかかろうかな。
「と言う訳でダナンさん、追加依頼受ける事にするよ
さっきの人達が向かった場所って分かるかな?」
「有難う、助かるよ
確かトロールの出没地点はこの辺りだから………この周辺じゃないかな」
ダナンさんは地図を広げおおよその位置に指を指す。
地図の縮尺からして約4㎞くらい………思ったより町に近い
これは確かに急いで対処すべき依頼だね。
と言うかあのおっさん達この状況で値上げ交渉してたんだ………
いや、この状況だからこそしてたとも考えられるね。
「ん~、先見の明があると言うべきか足元を見てたと言うべきか
けど、あまり褒められた行為じゃあ無いよね、これは」
「今回はアンタと同意見だわ、流石にこれは………」
私と同じ考えに至ったらしく、フィルとマリスは難しい顔をする。
これならダリスさんが様子を見に行ってくれと言うのも納得できる。
もしくは保険も兼ねてるのかも知れないね。
「よし、それじゃ早速現地に向かうよ
何事もなく依頼を完遂してくれればいいけど、最悪の事態は想定してて」
私の言葉に皆は頷くとギルドを後にし、現地へと向かった。




