竜の少女
「そこに腕を通して………そう、それで終わり」
「これが服ですか………何やら違和感しかなく動きにくいのですが
これを身に着けていなければならないのでしょうか?」
リーゼの着付けが終わり、私の制服を着たリーゼが少し不満げに眉を寄せる。
予想はしてたがパツパツもいい所だ、と言うか何か如何わしいお店の
制服みたいな格好になっちゃってる。
………正直見る度に女のプライドが物凄い勢いで削られて行ってる気がする。
けど、これはこれでマズいね。どうにかしてサイズの合う服を手に入れないと。
「あ~、ゴメンリーゼ、少しの間だけ我慢してくれないかな?」
「いえ、お気になさらず。確かに動きにくいですが
何故かマスターに包まれている感覚がありますので、不快ではありません」
いや………何まぁ私が着てた服だしね。
ちょっとフィル、何でそんな羨ましそうな顔してんの?
「色々落ち着いたら着ようと思ってたのに………」
ちょっと、何言ってるんですかフィルミールさん!?
まさかとは思うけど、貴方変態さんじゃないですよね!?
「いや、珍しいデザインの服だから興味持っただけよ、本当よ?」
私の視線に気づき慌てて取り繕うフィル。
本当かどうか怪しい所だけど、まぁいっか。
「しかしホントに凄いカッコになったね、
このまま村に帰ったら別の意味で惨劇が起きないかな?」
マリスのつぶやきに私も心底同意する。
けど、このままリーゼを放って置く訳にもいかないし、どうしたものか。
誰かに一旦報告をしに村へ先行して貰ってその間に何とかするしかないかなぁ。
「え、え~っと、なんか凄い格好の女の子が増えてるんだけど。
ドラゴン………倒しちゃったの?」
声をした方へ振り向く、そこには困惑したラミカの姿があった。
「ラミカ?何で戻ってきたの?」
「いや、村人の避難を手伝ってたら凄い音がしてドラゴンが倒れて行ったのが
見えたから様子を見に来たんだけど………」
成程、リーゼの姿は村からでも確認できてたのね。
「まぁ、色々あって暴れてたドラゴンは大人しくなったんだけど………」
一先ずラミカに説明する。
戦闘内容は兎も角、目の前の女の子が暴れてたドラゴンだという事には
流石に信じることは出来なかったみたいで
「え~っと、疑う様で悪いんだけど貴方がそのドラゴンって証明できるのかな?」
そんな感じにリーゼに聞いていた。
「ドラゴンの証………ですか、ならばこれではどうでしょうか?」
リーゼはそう言うと右手を横に突き出す。
そうすると見る見るうちに手に鱗が生え、ドラゴンの前足に変化する。
ふわ~、リーゼそんなことも出来るんだ、ちょっとカッコいいかも。
「これでも不足ならば竜の姿に戻る事も可能です
ですが、そうしたらマスターから頂いた服と言う物が消し飛びますので
正直これで納得して頂きたいのですが」
「あ~………うん、納得した。これ以上ない程に納得したよ」
流石にあんなのを見せられたらラミカも納得するしかなかったみたい。
「しかしレン達は凄いねぇ、まだ新人冒険者なんでしょ?
それがドラゴンを倒したばかりかこうして人間にしちゃうんだから」
「運がよかっただけだよ、もう1回やれって言われても絶対断るよ私」
「私も二度とこんな事は勘弁願いたいわ」
「マリスはもう1回ぐらいはやってみたいけどね~、あははは」
ラミカの感想に三者三様の答えを返す。
「そうだラミカ、商品に服取り扱ってない?
リーゼって人化した時素っ裸だったから手持ちの服着せたんだけど
見ての通りの状態でね」
「あ~、流石にそのカッコは不味いね。
一応取引用に何着か持ってきてるけどリーゼのサイズあるかなぁ
最悪、マントで包んで凌ぐって手もあるけど」
う~ん、たちまちはその方がいいかな。
早くきちんと服を着せてあげたいとこだけど、無いものは仕方ないしね。
「取り合えず村に戻ろうか、日も暮れて来たし流石に疲れたよ
後は捕まえた男達だけど、リーゼのブレスを受けてたりしてないかな………」
リーゼが逆鱗に触れられたからで凄い事になっちゃったけど、本来の目的は
セコい強盗退治だったんだよね私達。
これで強盗達が消し炭になってたら流石に後味悪いし、なにより
証拠が何もなくて依頼失敗の可能性もあるんだよね。
「捕まえた強盗達なら泡吹いて気絶してたよ
後この近くに逃した奴も気絶したからふん縛って転がしといたよん」
マリスがドヤ顔で私達に報告して来る。
この子何時の間にそんな事してたの………底知れないなぁ。
「ありがとマリス、助かったよ
それとラミカ、悪いけど先に帰って服かマントお願い。代金は私の依頼料から
引いておいてくれると助かるかな」
「毎度あり、と言いたいけど今回はいいよ
みんながこんな事に巻き込まれたのは私の責任でもあるし
迷惑料として取っといて」
「けど、これはラミカのせいじゃ………」
「そう思ってくれたなら、また依頼するときに頑張ってくれると嬉しいかな
当分は護衛にレン達以外を指名する気はないしね」
ラミカはそう言って歯を見せてニカリと笑う。
成程、そう言われたらラミカの依頼は断れない。
いかにも商人らしい言い回しで流石だね。
私達としても所謂お得意様が出来るのと同じだ。
こういう関係は大切にしていきたいね。
「ありがと、それじゃお言葉に甘えさせてもらうよ」
「商談成立だね、末永くヨロシク♪」
私とラミカはどちらからとも無く手を出して握手をする。
うん、この子とならいい付き合いが出来そうだ。
「リーゼもこれから私達と一緒に来るんでしょ?」
「はい、マスターの行く所が我の行く所ですから」
「そっか、それじゃリーゼも宜しくね」
私はリーゼの前に手を出す、だけどリーゼは不思議そうに私の手を見つめる。
「マスター、これは………」
「さっきラミカとしてたの見てなかった?握手だよ
人間はこうやって友好を相手に示すんだよ」
「友好………ですか、マスターは我に友好を示しているというのですか」
「そだよ、そしてリーゼが同じように感じていてくれたなら
この手を握り返してくれると嬉しいかな」
「………わかり、ました」
リーゼは慣れない手つきで私の手をそっと握る。
私はその手を少し揺らし、微笑んでリーゼに問いかけてみる。
「どう?私の気持ちを感じてくれたかな」
「分かりません………ですが、なんだか不思議な気持ちです
ただ手を握っているだけなのに、凄く安心できます」
リーゼはほんの少し握る力を強くした後、私に笑顔を見せてくれる。
………ドラゴンなのに人化したとたんそんな顔を見せるなんて
ちょっとずるいと思う。
「………そっか」
私は少し照れ臭くなり、それだけを言って手を放す。
「いや~、なんだかいい雰囲気で背中がむず痒くなってくるねぇ
フィルミールお姉ちゃん♪」
「私に振らないでよ。けど、これでレンの負担も少しは減りそうだし
良かったんじゃないかしら」
フィルとマリスが私達を見て微笑みながら集まってくる。
何と言うか、まだ1週間も経ってないのに凄い子達と知り合ったよね私。
「それじゃ村に戻ろっか、これ以上は何もないと思うけど
一応周囲を警戒しながらね」
「分かったわ」
私の言葉にフィルが答える。そうして私達の初依頼は終わりを
迎えようとしていた。




