乾坤一擲
ドラゴンとの攻防は続く。
ドラゴンは私の一撃を警戒してか二足歩行のまま主に後ろ足での踏みつぶしで
攻撃して来る。
時折一瞬だけ体勢を低くして前足とのコンビネーションを絡めてくるけど
直ぐに顔を上げてしまう。
回避自体は正直慣れてきたお陰もあって最初の時ほど難儀はしてない。
けど、攻撃に合わせて何度かカウンターを当ててみたけど
どれだけ体重を乗せた一撃を絶妙のタイミングで徹しても
効いた素振りは見せない。
………やっぱり攻撃で倒すのは無理だね。なら、こちらはチャンスを待つだけだ。
私は息を整えドラゴンの攻撃に備える。
―――― 一方、その頃
「アンタ、ほんっとーにレンがそう言ったのね!?」
「こんな時に冗談なんか言わないよ、紛れもなくレンお姉ちゃんの提案だって」
レンがドラゴンに再び向かった後、入れ違い気味こいつが戻ってくる。
数分間とは言えドラゴンと対峙してたのにこいつは傷一つ付かずに帰ってきた。
ホント何者なのこいつ、胡散臭さが際限なく増していくんだけど。
そんな胡散臭い魔導士がどうやらレンからの言伝を受けて来たらしい。
その内容ははっきり言って無茶苦茶もいいとこだった。
「はぁ………何でレンはこんな事を思いついたのかしら
とは言えレンじゃないと無理よね、悔しいけど」
「そだね、ならその無茶苦茶からレンお姉ちゃんを守るのが
フィルミールお姉ちゃんの役目だよ」
「………分かってるわよ、アンタこそしくじったら二度と
一緒に依頼はしないわよ」
「それは勘弁だねぇ、んじゃ気張りますか!!」
そう言いながらこいつは魔法の術式を複数同時に起動させる。
私も人の事言えた義理じゃないけど、ホント何なのコイツ。
この場を凌ぎ切ったら色々問い質さないと、万が一にもレンに
被害が及んでからじゃ遅いんだから。
「レン、貴方の事は私が守る。だから私を………」
私は、誰にも聞かれないような声でそう呟いた。
「………っ、そろそろ痺れを切らしてくれると嬉しいんだけど」
ドラゴンと対峙して数分が経つ。
相変わらずドラゴンは足での攻撃に終始している。
「いい加減誘いに乗ってくれないかなぁ………」
正直、そろそろ体力が限界でもある。
足での攻撃は予測は簡単だけど攻撃範囲が広いので躱す動作が大きくなって
無駄に体力を消耗させられる。
あまり考えたくは無いんだけど、もしかしてこちらの目論見を
読んでいるのかとさえ思えてくる。
「このまま我慢比べは勘弁願いたいんだけど、さて」
そう言いながらも左前足の振り下ろし攻撃を右に飛んで避ける。
その瞬間、ドラゴンの目がぎょろりとこちらを向き目が合う。
ドラゴンの表情なんて良く分からないけど、私に対して
怒りが貯まってそうなのはなんとなく雰囲気で分かる。
まぁ、ドラゴンからしたら今の私は顔の周りをぶんぶんと飛んでる
蠅みたいなもんだろうしね。
となればそろそろやってくれないかな。私を黙らせる方法は1つしかないよ?
通じはしないだろうがそんな意味を込めて意地悪な笑みを作ってみる。
「グゥッ!」
途端にドラゴンの目が鋭くなり、私を睨みつけるような感じになる。
おや、ダメ元でやってみた挑発だけど何か通じたみたい。
さて、この挑発にどう乗ってくるか………
「スウウウウウウゥゥゥゥゥ」
ドラゴンは私への攻撃をやめ、息を吸い始める。
良し、来た!!
私は一目散にマリス達の元へ駆ける。
「レンお姉ちゃん!!」
私の姿を確認するや否やマリスが叫ぶ。
「マリス、準備はいい!?」
「もちろん、いつでもダイジョブだよ!!」
「フィル、お願い!!」
「我が内に宿りし根源の理よ、神意に従い定められし職掌を果たし
彼の者に輝かしき楔を!!」
マリスに伝えた打ち合わせ通り、フィルは魔法を発動させる。
【イラストリアス・ブレッシング】!!
周囲が光に包まれ、私に強化がかかる。
よし、これで準備は出来た。
「マリス、タイミングは任せるよ」
「りょーかいレンお姉ちゃん、いや~、こんな事するなんて初めてだから
ワクワクが止まんないよ!!」
………そう言ってのけるマリスって凄いよね。
付き合いは短いけどホント頼りになる子だよ。
そうこうしている内にドラゴンの口から炎が漏れ出す。
その雰囲気から必ず私達を焼き殺してやろうという意思が伝わる。
………けど、それが最大の隙になるんだよ!!
ドラゴンの口が開き、今にも灼熱の炎が顔を出さんとした瞬間!!
「ぶっ飛べレンお姉ちゃん!!【ガスト・ストライク】!!」
マリスの魔法が発動する瞬間、私は地面を蹴ってジャンプする。
それをマリスが魔法で作り上げた突風が足元から発生し
私の体を弾丸の如く吹っ飛ばす!!
………狙うは、ドラゴンの顎!!
風圧に体が持っていかれそうになるも必死に体勢を維持する
少しでもブレたらその時点で全滅だ。
それが功を奏したのか、私は真っ直ぐドラゴンの顎へ飛び………命中する!!
「!?」
強制的に口を閉じらされたドラゴンが一瞬驚愕の表情をするも、その刹那
ドッッッガアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!
密閉され行き場を無くした炎のエネルギーがドラゴンの口の中で
大爆発を起こす。
その衝撃に私も吹っ飛ばされ、地面に激突する。
「がっ!!」
激突の衝撃に肺の中の空気が全部出るも、意識を失うほどの衝撃じゃない。
フィルの魔法のお陰だ。
「レン!!」
私の名前を叫びながらすぐさまフィルが駆け寄って来る。
「レン、大丈夫!?」
「………うん、フィルの魔法のお陰で助かったよ」
私はフィルに答えながらゆっくり起き上がり、ドラゴンを見る。
これで倒れなかったらもう打つ手は無しだけど………
ドラゴンは爆発の影響で仰け反ったまま動かない、万が一を考えて
動き出すのを警戒するも………
ズウウウウウウゥゥゥゥン………
大きな音と振動を起こし、そのまま仰向けに倒れて行った。
「はぁ~~~~~~っ」
それを確認すると私は大きく息を吐きだし、地面に座り込む。
いやはやホント疲れた、こんなに疲れたのはお爺ちゃんと夏休みに
山でサバイバル鍛錬をぶっ続けでやった時以来だ。
「レン!?」
その様子を見てフィルが慌てるも私は何でもないよと手を振る。
「本当に、ドラゴンを倒したのね………レン」
まだ現実味がないのか若干ぼんやりとした口調でフィルが呟く。
「何とかなって良かったよ
けど、まだ安心はできないよ、直ぐに動き出して暴れる可能性もあるし」
心配性だとは思うが可能性を拭い切れない以上警戒は必要だ。
一先ずドラゴンの様子を見に行く為に立ち上がろうとすると
ニコニコ顔のマリスがやってくる。
「いやはや、中々にスリリングな体験だったねぇ
久々に楽しませてもらったよ、あははははは」
「アンタねぇ………」
心底楽しそうなマリスを見てフィルが呆れる。
けど修羅場を笑い飛ばせるのは一種の才能だ、見習いたいものだね。
「あ、そうそうドラゴンの様子見て来たけど完全に目を回して気絶してたよ
あれなら起きた時には正気に戻ってると思う」
あんな爆発だったのに気絶で済むんだ、つくづく頑丈な生き物だね。
「これからどうする?レン
捕まえた男達だけでも連れて村に帰る?」
あ~そう言えば最初の目的はそうだった。
ドラゴンの印象が強すぎてすっかり忘れてたよ。
ドラゴンの脅威も去ったし、報告に戻らないといけないかな。
けど、このドラゴンは放置でいいんだろうか………
「ん~、多分もう暴れまわる事は無いだろうから大丈夫だとは思うけど
マリスはちょっと話は聞いてみたいかな?」
「話?ドラゴンって話せるの?」
「うん、詳しい説明は省くけどあのドラゴンって【古代竜】なんだよね。
まぁ、文字通り古代から生きてた訳じゃなくて正確には子孫で、ドラゴンの中で
1番の知識と力を持ったいわば王族みたいなものなんだよ。
本来は北の山脈に巣があってこんな人里近くにいる筈無いんだけど………」
そう言ってマリスはドラゴンが倒れている方角を見つめる。
「つまり、何か理由があってここにいるって事なの?」
「多分ね、それが何なのかは想像つかないけど」
「アンタ、それを知ってどうするのよ」
「ん?ただの興味本位だよ、だって興味あるじゃん
滅多に姿を現さない筈の【古代竜】がこんなとこで
100年以上住んでたってさ」
興味本位を隠しもしないマリスにフィルは呆れてジト目で睨みつける。
「まぁ、もう暴れたりしないんでしょ?
なら話すくらいはいいんじゃないかな、私も喋るドラゴンに興味あるし」
「レン、貴方がそう言うならいいけど………」
フィルは小さくため息をつきながらも賛同してくれる。
「んじゃけってーい、いや~未知との邂逅って
幾つになってもワクワクするねぇ~♪」
「幾つになっても、ってアンタまだ子供でしょうに」
「あはははは、そだったね~♪」
そんな会話をしながらテンションの高いマリスを先頭に
私達は気絶しているドラゴンの元へ向かった。




