困惑
「!?」
私の存在に気付いたのか、男達はこちらに振り向く。
目元だけを出した全身黒づくめ、手には大きめのナイフ。
………何かいきなり修羅場っぽい場面なんですが。
正直言って困惑をさらに困惑で上書きする状況は止めてほしい。
聞いて答えてくれそうもない雰囲気だけど、一応聞いてみる。
「え~とすみません、ここは一体………」
私が言葉を放った瞬間、男達の目が鋭くなる。
「!?」
私は反射的に半身を引き、男達を警戒する。
それが合図だったのか、男たちは一斉に私に襲い掛かる。
まずは1人目が体勢を低くしつつ私の胸元に向けてナイフを突いてくる。
………動きは早いけど、正直予備動作が大きい。
私は体を横にして躱し、通り過ぎざまに男の頸椎部分に体重をかけた肘を落とす。
ごりっと嫌な音がして、男はそのままヘッドスライディング。
その隙を狙った2人目が私の背中側からナイフを突きだす。
私は肘打ちで下がった体幹をそのままに、左足を軸足にし後ろ回し蹴りを放つ。
ごぎゃっ!!
正直体のどこかに当たればいいなと思ってたけど、どうも男の体勢が悪く
延髄に当たったみたい、そのまま2人目の男も横薙ぎに倒れ動かなくなる。
「!?」
私の戦闘能力が予想外だったのか、襲い掛かろうとした3人目が一瞬躊躇う。
………動きが甘い、暗殺者みたいな格好してるけど素人?
その隙を逃すはずもなく私は体勢を低くして接近し
踏鳴を入れ鳩尾に肘打ちを打ち込む。
ガッ!と男が言葉にならない悲鳴をあげ体をくの字にする、そうやって下がって
きた顎に向かい掌底を叩き込む。
がごっ!
顎を跳ね上げられ脳を振られた男が白目を剥き気絶する。
「………ふぅ」
周囲を警戒し残敵がいないことを確認すると私は気を抜く。
………真似事とは言えここまでスムーズに体が動くのは少し驚きだった。
「真似事でもいいから体に覚えさせろ」
と言って教えてくれたお爺ちゃんに感謝かな、使う機会があるとは思わなかったけど。
そう思いながら私は残った女の子に目を向けた………
………
………………
………………………
うん、思い出してもよくわからない。
何で私、いきなり森の中に放り込まれて男3人と格闘戦をさせられた挙句
女の子にプロポーズされてるんだろ?
はっきり言って何が何だかさっぱりわからない。
女の子は私に抱き着いたままずっと恋する乙女の表情で見つめてくるし………
このままでいても仕方ないので一先ず女の子に話しかけてみるしかないよね。
「えーっと、ちょっといいですか?」
と、声に出してふと気づく。この人明らかに日本人じゃなかったよね。
なのに日本語で話して通じるわけないよ……。
自分の間抜けさに呆れつつも、とりあえず学校で習った英語をフル動員させて
何とかコミュニケーションを取ろうと声に出そうとした時
「はい、何でしょうか?
私で答えられる事でしたら何でもお聞きになって下さい♪」
と、嬉しそうに日本語じゃない言葉で答えた。
あれ?ちょっと待って、私この子の言葉理解できてる?
耳に聞こえた言葉は確かに日本語じゃないけど、何故か理解できる。
そして彼女の返答も私の言葉を理解してのものだ。
………そろそろ脳がオーバーヒートするかも。
私あまり頭良くないんだけどなぁ。
取り合えず、言葉が通じているのは僥倖かな。
分からない事を色々考えても仕方ない、一先ずはこの子から情報収集をしよう。
………と、その前に。
「すみません、少々離れて貰えないでしょうか?気絶させたとは言えこの男達が
いつ目覚めるか分かりませんので、一先ずこの場を離れましょう」
「あ………そうですね、申し訳ありません」
と言いながら離れてはくれたけど私の右手をつかんだまま離さない。
利き腕じゃないからまぁいいけど自由に動かせないのは落ち着かないなぁ。
まぁ襲われてたっぽいし不安になってるのかな?
「では移動しましょうか、とは言え私はここの地理には詳しくないので
案内して貰えると助かるんですが………」
「分かりました、森を抜けて直ぐに町があります。そこまで御案内致しますね」
女の子はそう言うとにこにこしながら私の手を引きながら歩き始める。
「ふふっ、こうして歩いてると何だかデートしてるみたいですね♪」
………あれ?怖がっている訳じゃない?
そう言えばいきなりプロポーズ宣言されてたっけ。あれもしかして本気だったり?
まさかこの子、私の事を男だと思ってないよね?
――――確かに凹凸が少なめな女っぽくない体型だけど髪は伸ばしてるし
スカートも履いてるんだけどなぁ。
困惑が晴れぬまま私は女の子に引かれて歩き始める。
………
………………
………………………
「あっと、そうだった」
女の子に手を引かれながらある程度森の中を歩き、男達の姿が見えなくなくなった所で
女の子はふと足を止め、こちらをに振り替える。
「えっと………どうしました?」
困惑が抜けきれない私に向かい、女の子は深々と一礼をし
「申し訳ありません、名乗るのが遅れました。
私は【フィルミール=ルクヴルール】と申します。
この度は暴漢から助けていただき、有難うございます
宜しければ、貴方様のお名前をお教え頂けませんでしょうか?」
そう言って顔を上げ、にっこりとほほ笑む。
彼女白い髪が木漏れ日に反射されきらきらと光ってるように見える。
―――何か、すごい神秘的な雰囲気の子だね。
「私は公塚 蓮と申します、えっと、フィルミールさんで宜しいでしょうか?」
彼女の雰囲気に少々気圧されながらも私は名乗り返す。
相手が先に名乗った以上こちらも名乗るのが最低限の礼儀だしね。
この辺りもお爺ちゃんにみっちり叩き込まれましたよ、ええ。
「………キミヅカ様、ですか?」
おっと、言葉が通じるからと言って相手は外国人だったね。
「あ、すみません。ファーストネームは蓮の方です」
「レン様………ですか、素晴らしいお名前ですね♪」
女の子……もといフィルミールさんは私の名前を聞いてうっとりとしている。
名前を褒めて貰ったのは嬉しいけど何か感激してない?
「フィルミールさん?」
一先ず話を進めるためにフィルミールさんに声をかける。
………正直聞きたい事は山ほどあるからね。
「あっ、すみません。感動のあまり少々呆けておりました」
感動って………この人の国では私の名前ってそんな感激するようなものなのかな?
「それで………レン様、如何致しました?」
笑顔を崩さずに私に問いかけてくるフィルミールさん。
今の状況を直ぐにでも聞きたいけど………同年代の女の子に
様呼ばわりされるのがむず痒くって仕方ない。
これが続くのは正直勘弁してほしいので提案をする。
「あの、出会ってすぐに――――」
と、私が言葉を発しようとした瞬間。
「ガアアアアアアアアアアア!!」
耳をつんざくような咆哮が森の中を駆け巡る。
「な、何!?」
私は反射的に咆哮が聞こえた方へ振り向く。
そこには、所々が血で染まった………大きな熊のような動物がいた。