苦闘
「ゴアアアアアアアアアア!!」
暴れまわるドラゴンは私の姿を確認すると威嚇なのか
私に向かって咆哮を上げてくる。
その轟音に思わず耳を塞ごうとして………我慢できなくない音量に気付く。
ん?どう言う事かな?
一瞬不思議に思うも、これがマリスのかけてくれた
魔法の効果の1つだと思い当たる。
成程ね、魔法ってこういう効果もあるんだ。
確かに、何も対策なしにあの咆哮を聞いたら思わず足止めされてしまう
それは戦いにおいて致命的過ぎる隙だ、次の瞬間には確実に死が待っている。
咆哮にたじろがない私を見てドラゴンは四つ足で一気に近づき、
右前足を振り下ろしてくる。
グオウッ!!
恐ろしい風音を上げながら襲い掛かる右前足、だけど流石に予備動作が大きくて
躱すだけなら何とでもなる。
私は敢えて懐に入り込むように回避し、そのままの勢いで体を支えている
左前脚部分に体重を乗せた拳打を打ち込む!!
ガッ!!
いつもと違う手応え、恐らくマリスの魔法が上乗せされてる状態で
威力も向上しているはず、それなのにドラゴンは意に介してる気配はない。
「………まいったね、こりゃ」
予想してたけどこれは倒すのは無理だね、明らかに戦力が違い過ぎる。
同じところを集中して攻撃すれば効果は出てくるかもしれないが
ドラゴンがそれを許してくれるはずもなく………
「うわっとっ!?」
左前足からの攻撃を躱す。
思わず後方に飛び距離を話そうとするもその位置に追撃の右前足が襲い掛かる。
「っ!!」
前方に転がり間一髪躱す、予備動作のお陰で予測はつきやすいけど範囲と速度が
予想以上で躱すだけでも結構しんどい。
「これ、足止めだけって言っても相当厳しくない?」
思わず愚痴りたくなる、とは言えやると決めたからには逃げ出す訳にはいかない。
「レンお姉ちゃん、どいて!!」
マリスの言葉に思わす飛び退く、その射線上にマリスが放った魔法の火が
姿勢を低くしていたドラゴンの顔面に直撃し、盛大に爆発する。
だけど………
「………やっぱり抵抗は抜けないか、レベル低めだからちょっと期待したけど」
爆炎が晴れた後には、無傷のドラゴンの顔が現れる。
「流石古代竜、本来なら戦うこと自体無謀なんだけど」
そう言いながらマリスは魔法を紡ぐ。
「こんなトラブルなんてそうそうありつけないからね
精々楽しませてもらうよ!」
言い放った瞬間、マリスの周囲から火、水、風、土と様々な魔法らしきものが
ドラゴンの顔に着弾し噴煙を上げる、けどやっぱり殆ど効いてない。
「なら!!」
私は魔法の着弾と同時に飛び上がり、噴煙が晴れる前にドラゴンの突き出された
鼻先へと着地する。
「づあっ!!」
ドラゴンの鼻を足場にして踏鳴を入れ、眉間に向かって打撃を徹す!!
ゴグッ!!
手応えあり!!足と同じく岩を叩いてる気分だけど打撃が後ろに徹った
感覚が返ってくる。
恐らく脳の近くだ、そこに衝撃を与えば多少のダメージはある筈。
「グオアアアアアアアアア!!」
痛みを感じたのかドラゴンは頭を振りながら二本足で立ち上がり
その反動で私は振り落とされる。
ダメージはあったみたいだけど、倒すには遠く及ばない。
「うっわ、レンお姉ちゃん無茶苦茶するね」
「レン、やっぱり貴方………」
後方の2人が絶句してる、私もこんな方法で打撃を打ち込もうなんて
思ってなかったよ。
けど、もう1回同じ事は多分出来ない。その証拠にドラゴンは立ったままで
顔を下ろそうとはしていない。
「さて、1回痛打を与えることが出来た訳だけど
これで正気に戻るって都合のいい展開は………」
流石にその考えは甘かった様でドラゴンは憤怒の表情のまま私を見据えている。
そして目が合った瞬間、ドラゴンは仰け反りながら大きく息を吸い込み始める。
「マズい、レンお姉ちゃん、ブレスが来る!!」
ブレス!?ブレスって漫画でドラゴンとかが火を噴くアレ!?
思わずドラゴンの口元を見るとチラチラと火が漏れ始めてる。
「レン、避けて!!」
フィルの言葉に思わず後方確認をしてしまう。後方にフィル達の姿は無く
安堵するもその一瞬の動作が隙を晒してしまう。
私が振り返るとドラゴンは既に大口を開け、その喉奥から
灼熱の炎が牙を見せていた。
「っ!!」
ゾクリ、と体中の血の気が引く感覚が襲い掛かる、これは紛れもない死の予感だ。
あの炎に包まれたら私は跡形もなく燃え尽きる、そんな確信があった。
生き残るためにどうするか………私の勘は左に逃げろと示す。
………何度も私を危機を救ってくれた勘が指し示すなら、私は迷わずそれに従い
左へ飛ぶ、それと同時に憤怒の炎が私を焼き尽くす為に襲い掛かる。
ゴオオオオオオオオオオオオオォォォォォ!!
辺り一面真っ赤に染まる。直撃は避けたものの想像以上の熱に
一瞬意識を持っていかれそうになるが寸での処で堪える。
過度の熱で感覚を失っている体を無理矢理動かし再び左へ飛び、着地も出来ず
無様に転がりながらも少しでもブレスから離れようと藻掻く。
数秒後、赤く染まった周りの景色は元に戻りブレスの放出が止む。
追撃を避ける為に立ち上がろうとするも右腕が動かない、左腕を支点にして
立ち上がり、右腕を見てみると右腕が完全に焼け爛れ、一部が炭化している。
掠っただけでこれ!?まともに喰らってたら丸焦げ処か蒸発コースだ。
幸い右腕以外はただの火傷で済んでいる、結構な痛みはあるが動けない程じゃない。
「レン!!」
「レンお姉ちゃん!!」
本能的に声のする方へ視線を送ると2人が駆け寄って来るのが見える。
マズい、このまま固まってる処に再度ブレスを受けたら全滅だ。
「ダメ!!来ないで!!今ブレスをされたらみんなも………」
「大丈夫!!あのブレスは連射は出来ないよ!!
私が暫く引き付けるからフィルミールお姉ちゃんお願い!!」
「分かってる!!」
それだけ言うとマリスはドラゴンに向かって弾幕を打ち込んだ後
私達から離れる。
フィルは炭化している私の左腕の横で膝を付き、手を胸の前で組み祈り始める。
「大丈夫、この程度の傷なんて絶対に治してみせるから」
フィルの体は青白い光を発し始め、その光が地面に魔法陣を描いていく。
「我が内に宿りし根源の理よ、神意に従い定められし職掌を果たし
彼の者の傷を壊せ」
祝詞のような詠唱が終わると魔法陣から光が浮かび上がり
それに呼応する様に私の周囲が光の柱に包まれる。
【アブソリュート・ヒーリング】!!
フィルが叫び、両手を天にかざし仰ぎ見る。
その瞬間、私の周囲を包んでいた光の柱が収束し、私は光に飲み込まれる。
「っ!!」
思わず目をつぶるも刺すような眩しさは無い、むしろ暖かな光に
包まれてる感じで体の痛みが引いていき、全身の火傷がみるみる消えていく。
一部炭化していた右腕に至っては炭化していた部分が崩れ落ち、そこから
欠損部分が再生してきてる有様だ、自分の体ながらちょっとグロい。
けど、こんな治療まで出来るなんてやっぱりフィルってば
凄い神官なんじゃないかなと再認識する。
数秒後、包み込んでいた光は消え視界が元に戻る。
全身の火傷は消え右腕も十全に動く。よし、これならまだ戦える。
「ありがとフィル、おかげで助かったよ」
「ふふっ………レンの為なら、当然よ」
フィルは少し息を切らせながらも強気な表情で答える。
少し顔色も悪い、まさかさっきの魔法ってとんでもなく消費したりする?
「フィル、大丈夫!?」
「だ、大丈夫よ。急激に魔力を消耗しただけ、1分もすれば落ち着くわ」
フィルの言葉にホッと胸を撫でおろす、けどあんな治癒をが出来る魔法だ
フィルの様子からしても恐らく対価が大きく何度も使うことは出来なさそうだね。
となれば、カスっても致命傷なブレスがある以上持久戦は自殺行為だ
時間稼ぎなんて言ってる場合じゃない。
だからと言って私の攻撃もマリスの魔法も殆ど効いた様子はない、なのに
相手の攻撃は受けたら1発アウトの代物ばかりだ、戦力の差が違い過ぎる。
こういう場合のセオリーは相手の力を利用するカウンターを狙うんだけど………
「攻撃に合わせてカウンターを仕掛けても相手の防御が硬過ぎて
その程度じゃ抜けない、ブレスに至ってはカウンターを狙う事自体が無謀だね
何か方法があれば………」
そう思案しながらマリスの救援に向かうためにそちらへ向く。
マリスは立ち位置と攻撃誘導、そして攻撃の出かかりを潰すことで凌いでいる。
あれは凄いね、完全に戦いのセオリーを分かってる立ち回りだ。
けど出かかりを潰すために魔法を連射してる、あれじゃそんなに保たない。
そう思い私は救援に向かう為一歩踏み出した瞬間、ふとあることに気付く。
「待って、もし可能なら………」
私は急いでマリスの所に行く、マリスは少し息を切らせながらも歯を見せて笑い
「いや~中々スリリングな攻防だ~ねぇ、お陰で寿命が2年ほど縮まったかも♪」
この状況でそんな冗談を言えるのは大した者だ、この子見た目に反して
ずっと器が大きいのかもしれない。
「マリス、疲れてるとこ悪いけど………」
私はドラゴンの攻撃を警戒しながらマリスに思い付いたことを告げる。
「ええ!?いや、出来るかって言えば楽勝だけど、それって
一か八かもいいとこだよ!?」
「けど、現状これ以上にダメージを与える方法は思いつかないよ
マリスは何かいい案ある?」
「………無いね、手持ちの魔法全部試したけど精々攻撃の邪魔をする事が
精一杯だったね」
「ならやってみるしかないよ、マリスはこの事をフィルに伝えて
いつでも出来る様に準備してて」
マリスは一瞬だけ思案に暮れるも直ぐに頷き、フィルの元へと戻って行き
私は再びドラゴンと対峙する。
「さて、第2ラウンド開始と行こうかね!!」




