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~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女  作者: にせぽに~
時越えの詠嘆曲《アリア》
189/209

聖女候補捜索・IV

「これは……王都に戻っておるの」


殿を務めていたゼーレンさんが突如呟く。

リーゼが魔力追跡を始めて2時間くらい経過したけど、相変わらず

リーゼが街道から出る気配はない、それを若干不審に思いながら

追跡を続けていたんだけど……


「王都に戻ってる? それは本当なの?」


ゼーレンさんの前を歩いていたフィルが思わず振り向いて

聞き返してる、私自身も驚いて足を止めてしまい振り向く。


「ぐるっと遠回りはしておるが、この街道を道なりに進めば

 それなりに時間はかかるが王都へ戻る道に合流するんじゃ

 ……尤も、このまま街道を進めばの話じゃがな」


ゼーレンさんは顔を顰め街道の遥か先を眺めながら答える。

行方不明の聖女候補が王都に戻ってるって、どういう事かな?


「リーゼ、ここから先も魔力はずっと街道沿いに続いているの?」


取り合えず先導をしているリーゼに聞いてみる。


「はっきりとは言えませんが、恐らくはここまま続いている可能性が高いかと

 魔力の乱れも確認できませんので、戦闘や非常事態に遭遇していた

 事は無いでしょう、ならば現状維持で安全な道を往くのが

 人間の思考と私は考えますが……」


リーゼは視線をこっちに向けないままそう答える。


「ん~、コイツはちょっと予想外かな

 てっきり攫われたとかそんな感じの事件かと思ってたら、何だか

 順風満帆な旅を満喫してる様だねぇ」


マリスがのほほんとした口調で言い放つ。

確かにこれは予想外だ、もっと緊急性のある依頼かと思ったら

聖女候補に近づけば近づくほどそんな気配はなくなっていってる。

……一体どういう事かな? 正直展開が読めないねこれは。


「ふむ……確かにこれは予想外じゃな

 もしや既に王国に戻って保護されとる可能性も出て来たの」


ゼーレンさんが髭をさすりながら言う、確かにその可能性も出て来たね。

携帯なんて即時連絡手段が無いこの世界ならそんな行き違いなんて

あって当然だ、となると今回の捜索は完全に無駄足って事になるけど……


「ちなみにゼーレンさん、ここから王都に街道を伝って帰ったら

 女性の足でどのくらいかかりそう?」


たちまち現在地を把握しているゼーレンさんに聞いてみる。


「そうじゃな……魔物の襲撃もなしと考えれば半日もあれば戻れるか

 尤も、旅慣れていなければもう少しかかるじゃろうが……」


意外と近いな、となれば自力で戻ってる線も無くは無いんだ。

聖女候補の容姿等は公表されてない、それにこれは推測だけど

秘匿してるって事は一目で聖女候補って分かるような

格好をしてない可能性が高い、ならば誰にも気づかれず

王都に戻ってるって事も考えられなくは無いね。

……そうなると別の問題が出てくるんだけど。

ただの行き違いならいいんだけどね……

嫌な予感が頭によぎりつつも、私達は再びリーゼの後をついて行く―――



………




………………




………………………



「……何だお前達、もう戻って来たのか」


王都の城門前で警護兵のお兄さんに半笑いで話しかけられる。

……結局あの後真っ直ぐ街道を歩いていくことになり

数時間をかけて王都に戻る事になってしまった。


「ええまぁ……ちょっと予想外な事態になりましてね」


徒労感に苛まれながらも愛想笑いをして返事をする。

っとそうだ、ダメ元でちょっと聞いてみようか。


「すみません、ちょっと妙な事を聞くかもしれませんが

 ここ数日の間に神官の女の子が1人で王都に来てませんでしたか?」


流石にそんな分かり易い格好をして戻って来ては無いだろう

それだったらとっくに聖教に帰還の報告がある筈だ。

そんな事を思いつつも警備兵のお兄さんに質問してみる。


「神官の女の子ねぇ……ここ数日で神官の姿を見たのは

 そこの嬢ちゃんぐらいなもんだよ」


警備兵のお兄さんはフィルの姿を顎で指しながら答えてくれる。

やっぱりか、まぁフィルみたいに目立つ格好してる訳は無いとは思ったけど。


「だが……神官の格好じゃなかったが、確か女の子が

 1人で王都に来たのは見かけたな

 普通に身分証を見せて入国税も払ってたから気にも留めなかったんだが

 よくよく考えたら女の子1人で王都の外にいるのは確かに変だな……」


そう言って疑問を浮かべた表情をする警備兵のお兄さん。

確かに妙だね、この世界では1人旅なんて魔物の存在のお陰で

よっぽど腕が立つ冒険者でも無い限り危険すぎる行為だ。

事実今まで私も1人で旅をしてる人なんて見た事は無いし

正直私もフィル達抜きで街の外に出て生きて帰って来られる自信はない。

という事はやっぱり……


「有難う御座います、お仕事頑張って下さいね」


考え込む警備兵のお兄さんにお礼を告げて、私はリーゼを促し

王都の中に入る。


「マスター、魔力の追跡は……」

「続けて、多分目標は王都にいるだろうから

 そのまま聖教に戻ってたらよし、そうじゃなかったら……」

「少し面倒な事になりそうね、全く」


私の言葉にフィルが溜息を吐きながら呟く。

さて、どう事態が転ぶ事になるやら……





「ここは……」


リーゼに先導され王都に入って数十分、私達は大通りを外れ

入り組んだ路地を抜けた先に広がる光景を見ていた。


「嘘でしょ……これが王都の中にある光景なの!?」


フィルが信じられない様子で呟く、まぁそりゃそうだろう。

目の前に広がる光景は華やかで豊かな王都の光景には程遠く

壊れかけた建物の中に半ば野ざらしで座り込んでる人、ボロ布で

覆われた住処らしき物が点在する、所謂スラム街みたいな状態な

光景が目の前に広がっていた。


「……どうやら下民街に来てしまった様じゃの」


周りを見渡しながらゼーレンさんが呟く、そう言えばそんな

身分制度があったんだったね、確か奴隷や犯罪者の身分て言ってたけど……


「ふ~ん、ここがねぇ

 流石にマリスもここに来るのは初めてかな、流石に1人だといろいろ危ないし」


マリスが周囲を見渡しながら呟く。

そりゃそうだろう、こんな所を1人で歩くのは無謀もいいとこだ。

しかし何だね、この世界でもこういう所の雰囲気は一緒と言うか

独特の饐えた臭いが過去の記憶を嫌が応にも思い出させてくれるね。

……全く、胸糞悪いったらありゃしない。


「……信じられない、王都はいわば聖教の1番影響が強い地域なのに

 こんな場所があるなんて」


フィルは未だ目の前の光景が信じられないのか、口を両手で塞いだまま

驚愕の表情で言う、まぁ潔癖症気味のフィルには

この光景はきついものがあるだろう。


「残念な事に、人が多く集まる場所と言う所は得てしてこう言う所が出来るんじゃ

 帝国も、そしてファアル連邦も探せばこういう所は簡単に見つかる

 悲しい事にの」


そんなフィルに諭すような口調でゼーレンさんが言う。

けどフィルはその言葉も聞こえていないのか、表情を変えないまま

目の前の光景を眺め続ける。


「……しかし何だね、こんな所に魔力が続いていたとはね

 リーゼ、疑う訳じゃないけど見間違いとかじゃないよね?」

「それはあり得ません、マスター達には見えないでしょうが

 追ってきた魔力の残滓は少しづつ濃くなっておりまので

 その聖女候補とやらは間違いなくこの場に来ております」


リーゼは僅かに不満そうに答えてくれる。

はぁ……正直こんなとこに足を踏み入れたくは無いけど行くしかないか。

異世界に来ても人の負の部分を次々と見せられるとはね、まぁ世界が違うとはいえ

同じ人間が形成している社会なんだから当然なんだけど。


「そっか、気を悪くする様な事言ってゴメンねリーゼ

 そのまま追跡を続けてくれる?」

「了解です、残滓自体はもう目を凝らさずとも視認できますので

 ここからは我も戦闘に参加できます」


それは良かった、ある意味こういう所は町の外より危険度が高い。

周囲を警戒できる頭数が増えるのは有難いね。


「分かったよ、それじゃリーゼも周囲を警戒お願い

 みんなも分かってると思うけど油断せずに行くよ」


私の言葉にみんなは頷き、下民街の奥へと歩を進め始めた。

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