【スキル】
「んで、フィルミールお姉ちゃんの方はどうだったの?
ゼーレンお爺ちゃんに弟子入りしたんでしょ?」
マリスがフィルに問いかける。
……フィルの為に話題を変えたのかな?
「弟子入りなんてして無いわよ、そもそもあの武器は弓じゃないんだし
とは言えそうね…一応標的の狙い方とか、味方に当てない為の
コツみたいなのは教えてくれたわ
……やたらニコニコしてたのが癪に障ったけど」
フィルが少しだけうんざりした表情で答える、その表情を見ただけで
ゼーレンさんが楽しそうにフィルに指導してたのが分かる。
まぁゼーレンさんにとっては女の子と一緒にいるだけでも
楽しい時間なんだろうね。
「けど、流石に1日で完璧に出来るようになるのは無理ね
ゼーレンも実戦で使えるようになるには暫くかかるって言ってたし
それまでは付き合わせて貰うとも言ってたから
当面はゼーレンの所に通い詰める事になりそうね
……甚だ不本意だけど」
ウンザリした表情のままフィルがそう続ける。
それは当然だ、どんな技術でも一朝一夕で身に付くなら誰も苦労はしない
技術なんてものは膨大な反復練習で体に叩き込むものだしね。
「【プレジションショット】のスキルが習得出来ればもっと簡単なんだけど
流石に神官の私には無理だし、コツコツとやるしか無いわね」
……ん?精密射撃のスキル?
そう言えば首無しとの戦いの前にリーゼが【ステイヤー】のスキルがあるとか
目の前に表示されるとかどうとか言ってたけど、あれって一体どういう事だろ?
スキルって言うからには技術の事なんだろうけど
今のフィルの発言からして体に覚え込ませる代物じゃないっぽい?
一体どういう事なんだろ?全く理解が出来ない。
「えっとさ、この際だから聞くけど【スキル】って何?
何か皆の話し方からじゃ私の知ってる【技術】とは
別物みたいなんだけど……」
取り合えず皆に聞いてみる、その瞬間フィルやマリス
そしてリーゼまでも驚いた表情でこちらに振り向く。
その動作につられたのかリアですら一瞬ビクッとした後私を見る。
……いや、何でそんな信じられない物を見たような目でこっちを見るのさ。
「……マスター、それは本気で仰っているのですか?」
恐る恐るリーゼが私に尋ねてくる。
「本気も何も、分からないから聞いてるだけなんだけど」
「いやいや、レンお姉ちゃんそれはあり得ないって
フィルミールお姉ちゃんやマリスが散々見せてたよね?」
私の返事にマリスが食いつき気味に返して来る。
いや散々見せてたって……
「それって魔法の事?」
「違うってば、マリスが詠唱してた時に【ゼロキャスト】とか【マルチプルキャスト】とか散々目の前に出てたでしょ?」
マリスが珍しく目を大きく開いた状態のまま言って来る。
いや目の前に出てたって、それこそ意味不明なんですが。
「……そうだった、ゴタゴタしててすっかり忘れてたわ
レンは私達の【スキル】が全く見えてなかったのよね」
フィルが目を伏せ額に手を当てながら吐き出す。
何か頭を抱えてるみたいだけどそんなに信じられない事なの?
「……嘘だよね?」
「どうも本当の事みたいよ、アンタがそんな表情するのも分からなくはないけど」
「信じられません、【スキル】を使わずにあんな戦い方が出来るものなのですか
ですが、言われてみればマスターの【スキル】は一度も見た記憶がありません
となれば、マスターの戦い方は全て……」
3人が口々にそう呟いた後、改めて私の方を見る。
いやだからそんな珍獣を見るような目で見ないでってば。
「あの……」
私が口を開きかけた瞬間、マリスがにかっといつもの笑顔を浮かべ
「全く……次から次へと面白いねレンお姉ちゃんは
これだからホント、傍にいるのはやめられないんだよ」
「……同感です、【スキル】を使用せずにあの戦闘能力とは
我としては尊敬の念を禁じ得ません」
マリスの言葉にリーゼが追従する。
「いやさ……私ってばそんなに信じられない事してるの?」
「してるのよ、私達から見ればあって当然のモノをレンは持ってないのに
下手な冒険者よりも全然強いんだもの
レベルが0なのと言い、ホント私達の常識を悉く無視してるわね」
私の言葉に、フィルは苦笑しながら呆れた口調で返す。
常識を無視してる、ね……本来ならあまりいい意味じゃないんだろうけど
仲間達の表情を見てるとそう言う訳でもなさそうだ。
「そうね、この際だから一から説明しましょうか
そう言うものがあるとレンが知ってくれれば
例え見えなくてもレンが戦いやすくなるだろうし」
「だね~、特にリーゼは隣で戦うんだから
自分のスキルをレンお姉ちゃんに知ってもらうのは大事だと思うよ~」
「同感です、マスターでしたら知らずとも支障はないでしょうが
知って頂ければより戦闘が有利になる事でしょう」
3人は口々にそう言って再び私の方へ視線を向ける。
どうやら有難い事に私から頼まなくても教えてくれそうだ。
……流石にこの世界では必須の知識なんだろうけど。
「【スキル】って言うのは所謂特殊能力の事ね
普通の人が走れない距離を走れたり、力の無さそうな人が
重い物を軽々と持てたり、コイツの様に多数の魔法を一度に唱えたり
することが出来るようになる能力の事なの」
ふむ、スキルって名前だから技術の事かと思ってたけど
どちらかと言うとその人の『特技』みたいな感じなのかな?
「魔法と同じくらい様々な【スキル】があるんだけど
魔法と決定的に違うのは理論を理解する必要がないんだよ」
……はい?どういう事?
「例えばレンお姉ちゃんがマリスの【マルチプルキャスト】の
スキルを覚えたとするよね、そしたら例えやり方が分かんなくても
マリスみたいに魔法を同時に複数詠唱出来る様になるんだよ」
「はぁ!? 何それ!?
それって努力も研鑽もなしでそんな能力が手に入っちゃうって事!?」
マリスの言い放ったあまりにも常識外……私にとってはだけど
その言葉に思わず声を上げてしまう。
「努力が不要、という訳ではありません
【スキル】と言うものはレベルを上げなければ修得は出来ません
更に言えば修得に様々な制限があり無節操に修得は不可能なのです」
私の狼狽えように少しだけ驚いた表情のリーゼが説明を補足する。
レベル……レベルねぇ、未だにピンとこないんだけど
要するに魔物と戦っているだけで肉体面と能力面も鍛えられるって訳か。
そりゃレベル=強さの考えになる訳だよね。
けど、それなら私は……
「という事は、レベルが上がらない以前にそもそもレベルが
存在しないっぽい私はその【スキル】とやらを覚えれないって訳だね」
「……そう言う事になるわね」
私の推測に少しだけ申し訳ない表情をして答えるフィル。
いや、別にそんな表情をする必要は無いんだけど。
あったら便利だろうけど、別になくても支障はない。
そもそもいきなり降って湧いた能力なんて私個人としては信用ならない。
……技術は、たゆまぬ努力と研鑽で身に付けるものだと思うから。
けど、それならそれで疑問が1つ湧き上がる。
「うん、【スキル】とやらが何かは大体理解した
けど、それなら研鑽で得る技術って言うのは無いのかな?」
そう、元の世界でもこの世界でも人の性質自体はそんなに変わって無い筈。
事実魔法は勉強しないと覚えられないみたいだしそれは間違いなく研鑽だ。
なら、反復練習で会得できる技術もある筈だ。
「あるにはあるよ、【アーツ】って言うんだけどね
ま、当然ながらスキルより覚えるのが難しい上に時間かかるから
会得してる人はあまりいないんじゃないかなぁ
ゼーレン爺ちゃんは覚えてそうだけどね」
私の疑問に、マリスは笑顔を崩さないまま答えた。




