意外な依頼
「ふふっ、元気そうで何よりだよ
………先ずは奴隷娼婦の件で礼を言わなければならないね」
私の返答にロテールさんは笑みを浮かべた後席を立ち、首を垂れる。
「この度は我が国民の為に尽力して頂き、万謝する
………助けられなかった者に関しても、手厚い埋葬をして頂き
感謝の意に堪えない」
ロテールさんはそう言った後頭を上げ、私達に近づいて
リアに目を止める。
「そして、君がレティの言っていた子だね」
男の人に見つめられて少しだけ警戒したのか私の手を握り
少し背中に隠れる。
そんなリアの様子に気を悪くすることも無く、ロテールさんは
リアの目線に合わせるようにしゃがみ込み
「君の事情も聴いている、立場上僕もレティも君に肩入れする事は
出来ないけれど、出来る範囲で協力はさせて貰うよ
………早く家族が見つかるといいね」
そう言ってリアの頭を軽く撫でた後、再び席に向かって腰を下ろす。
「リアの事を気にかけて下さって有難うございます
それと、そちらの依頼をこなしただけなので礼には及びませんよ」
ロテールさんの礼に私はそう返す、実際結構な額の報酬も貰ってるしね。
まぁ、ロテールさんの立場上礼節はきちんとしないといけないから
態々礼を言ったんだろうけどね。
「ふふっ、そう言うと思ったよ
けど、これも僕の仕事のうちだからね」
予想通りの答えを言って少し笑うロテールさん。
さて、ここまでが挨拶かなと。
「それで、私達に礼を言う為だけに呼んだ訳では無いのでしょう
何かご依頼があるのでは?」
「………話が早くて助かるね、と言っても今回は
前回みたいな緊急性の高い依頼じゃないから安心していいよ」
これも予想通り、フランクな物言いをしてるけどこの人は王国の重鎮だ。
重要な依頼をこなしたとはいえ、礼を言うだけにギルドまで来て
私達を待つ暇なんて無い筈だ。
さて、依頼と来たけどフィルとマリスがいない状態だ
話を聞くだけならまだしも迂闊に受ける事は避けた方がいいかな?
「生憎と現在仲間2人が別行動中でして、それでも構わないのですか?」
「うん、今回依頼したいのは君達のパーティじゃなくて
君個人、なんだ」
えっ、私個人への依頼?
私の質問に意外な返答を返すロテールさん、流石にこれは想定外すぎる。
となると魔物退治とかじゃないっぽいね、私の戦闘能力は
ロテールさんも知ってる筈、となれば一体………
「私個人、ですか………」
思わずそう呟く、流石に冒険者の仕事で私個人で出来そうな事なんて
ちょっと思いつかないね、しかも態々ロテールさんが
依頼したいと言ってるなら猶更だ。
「………話は変わるけど、金輝騎士団は知ってるかな?」
疑問に思考を囚われそうになった私に、ロテールさんが唐突に質問して来る。
金輝騎士団ね、確か首無しとの戦いの時に横槍を入れて来た騎士団だったかな。
「ええ、知ってますけど………それが?」
「………やっぱりか、なら益々君が適任だ」
私の返答に納得した様に頷くロテールさん、こっちは何が何やらさっぱりだ。
あの騎士団とは二~三会話しただけだし、そもそも最初は手柄を横取りしようと
恫喝された身だ、そんな関係でしかないのに適任だって
ロテールさんが私に何をさせたいのか皆目見当がつかない。
「………実を言うとね、その金輝騎士団の様子がつい先日から妙なんだ
君も知ってる通り、あの騎士団は貴族のご子息で構成されている団でね
ここだけの話だけど、正直騎士団と言うより貴族たちが子息に箔をつける為の
お飾りの様なものなんだ」
ロテールさんが少しだけ苦笑をしながら言う。
確かにそんな感じだったね、やたら上から目線で首を突っ込んできたけど
いざ戦闘となったら完全に恐慌状態に陥ってたしね。
「一応僕が教育係として指導はしてるけど………色々あって
中々上手くいかなくてね、どうしたものかと悩んでいたんだ」
そうなんだ、まぁ箔をつける目的ならグレナディーアの訓練を受けた
と言うのは確かに価値はあるね、まぁロテールさんの言い方だと
訓練自体はあまり上手く行ってない感じだけど。
相手は貴族のボンボン達みたいだし、ロテールさんも手を焼いていたんだろう。
「けど、2日前に様子を見たら今までとはまるで違って
彼らは真面目に訓練をしていたんだ、驚くべき事にね」
あら、そうなんだ。
それは確かに驚くだろう、貴族のボンボンという事でロテールさんの
言う事を聞かず、好き勝手なことをしてた輩がいきなり真面目に鍛練を始めたんだ。
………どうやら首無しみたいな化け物がいると知った事で、強くならないと
ヤバいとでも思ったかな。
「それ自体は喜ばしい事なんだけど、その訓練の様子が妙でね
彼らは武器を持たず、自らの手足で戦う術を模索していたんだ」
………はい?
ちょっと待って、それってまさか………
「流石に驚いて聞いてみたら
『化け物相手に武器も持たずに戦っていた冒険者がいた
とても勇敢で、崇高な姿に見えた
だから自分達でもやってみたいと思った』………と言ってたんだよ
それでピンときた、そんなことが出来る人間は1人しか知らないしね
………だから、君を呼んだんだ」
そう言ってロテールさんは私をじっと見据える。
………ちょっと待って、何でそうなるの?
私が今素手で戦ってるのはこの世界での武器が何故か持てないからで
正直言って間に合わせの真似事に等しいものだ、本職の人達に比べたら
完全に素人に毛が生えた程度のものでしか無いんだけど………
と…その時ふと思い至る、そう言えばこの世界って
戦って武器を鍛えるという良く分からないことが出来るから
素手による格闘技術が殆ど発達してないんだっけ。
確かにゼーレンさんやロテールさんの様な格上の人達からも驚かれたし
あの金輝騎士団の人達からしたら何か感銘を受ける戦い方だったって事かな?
………とは言え首無しの様な化け物に素手で立ち向かうなんて
勇敢どころか無謀以外の何物でも無いんだけど。
う~ん、これはちょっと放っておくわけにもいかないかも知れないね。
いくら迷惑をかけられたからと言って、自分の戦い方を真似して
無謀な吶喊からの戦死とか寝覚めが悪すぎる、それに親である貴族に
変なイチャモンをかけられる可能性だって出てくる、そうなれば
今度は王国からも追われる立場になりかねない、やっと腰を落ちつける事が
出来そうなのに再び逃亡生活なんて流石に御免だ。
これは受けざるを得ないかなぁ。
そんな風に考えていると、私を見据えていたロテールさんが口を開き
「勿論ギルドの依頼として取り扱って貰うし報酬も用意するよ
それと、僕の権限で『王国領土内での行動許可』も出そう
………正直君が受けてくれないと僕も少し困るんだ、どうかな?」
………決まりだ、ここまでされたら受けない理由がない。
私達の今の目標である『勇者の足跡の調査』をするのに王国領土内での行動許可は
絶対に必要だ、本来はギルドの評価を上げていかなければならないらしいけど
それをロテールさんの権限で許可を出してくれるのならばこちらとしても
物凄く有難い。
まぁ、ロテールさんは私達の事情はある程度知ってるし
それを報酬として提示する事で私が依頼を受けざるを得ない状況にしたのだろう。
逆を言えば、そこまでしてでも依頼を受けて欲しいって事にもなるんだけど
………よっぽどその金輝騎士団とやらに手を焼いてるんだね、ロテールさん。
「分かりました、お受けします
正直真似事の域でしかない私の戦闘技術ですが、お役に立てるのならば」
「………有難う、正直助かるよ
彼らが他人の言葉に耳を傾けるチャンスだからね、この機を逃したくは無いんだ」
私の返事にロテールさんは大きく息を吐き、ホッとした表情をする。
………これは相当苦労させられたみたいだね、その気持ちは十二分に分かるよ。
私も散々苦労させられたしね。
私はロテールさんの表情に苦笑いをするしかなかった。




