魔力純度
「………はい?」
余りにも想定外な威力に、思わずそんな声が漏れ出る。
視線の先には消滅して根元しか残っていない射撃場の的と
人一人余裕で通れそうな大穴が開いた壁がある。
「えっと………フィルさん?」
もしかしてフィルが想定外な操作でもしたかと思い
躊躇いがちに聞いてみる。
だけどフィルは激しく首を振り
「し、知らない…私はマリスに教えられた通りやっただけよ!」
完全に狼狽した様子でフィルが声を荒げて返答する。
となると元凶は………
「あらら、かなりの威力にはなるとは思ってたけどここまでとはねぇ
流石にこれは想定外だったよ、あはははは」
フィルの開けた大穴をまじまじと見ながらカラカラと笑うマリス。
やっぱりマリスが何かしたの!?
「あ、アンタ………一体これに何をしたのよ!!」
同じ考えに至ったのかフィルが銃を持ったままマリスに詰め寄る。
「何もしてないよん、ただ単にフィルミールお姉ちゃんの魔力の純度が
桁違いだからああなっただけだよ
威力は込めた魔力の量と純度によって変わるって言った筈だよん」
銃を持って鬼気迫る表情のフィルに詰め寄られても
全く動じずニコニコ顔のまま答えるマリス。
いや確かにそう言ってたけど………という事は
フィルのマリスの魔力の純度とやらはそんなに違うものなの!?
「魔力ってのは純度に個人差があるからね~
当然純度が高ければ高い程魔法の効果も飛躍的に高くなっていくんだけど
殆ど才能の様なものだからレベルを上げて純度を高めるって事が
ほぼ無理なんだ、だから基本は消費魔力量を増やして
魔法の効果をあげるって方式をとるんだよ、魔力量なら
レベルで上昇するしね~」
私の疑問を察したのかマリスがこっちを向いて
魔力の純度とやらについて説明して来る。
へぇ、魔法を使う人にもそんな才能の差ってあるものなんだ。
………という事はフィルってば物凄い天才なの?
「朝、レンお姉ちゃんに『あんな事が出来るのは
フィルミールお姉ちゃんくらいだよ』って言ったのはフィルミールお姉ちゃんの
魔力純度が桁違いに高いから出来た治癒魔法なんだよ
いくら高位の神官だってあんな真似は出来ないと思うよ」
マリスは説明を続ける、成程ね。
フィルの魔力純度やらが高すぎるせいであの銃の威力が
とんでもない事になってった訳だ。
フィルってマリスとはまた違った意味で魔法の天才って事なんだね。
そんな事を思いながらフィルの事をチラッと横目で見るも
何か複雑な表情をしてる、何だか少し悲しそうな雰囲気だ。
もしかしてフィル、この手の話題にあまり触れて欲しくないのかも?
「そうなんだ、魔法の事は良く分かんないけどフィルに強力な武器が
手に入ったって事でいいのかな?」
「まぁぶっちゃけるとそうだね~、ただ当然だけど撃つ度に
魔力は消費されるから考えなしに撃っちゃうとすぐ魔力切れにはなっちゃうね
それに………」
私の質問にマリスは少しだけ真面目な顔で答える。
そしてフィルの射撃で大穴が開いた壁を見ながら
「威力が高い事はいい事ではあるけど、気を付けないと後ろから前衛を
巻き込んじゃう可能性があるね~、あの威力だとリーゼは兎も角
レンお姉ちゃんはただじゃすまないだろうし
使った感じ細かい魔法制御は効かないみたいだから弾道を曲げるたりするのは
結構慣れてないと難しそうだしね~」
マリスが尤もな指摘をする、まぁ誤射の危険性は確実にあるね
と言うか弾道とか曲げることが出来るんだそれ………
しかし改めて被害を見ると結構な威力と攻撃範囲だ、後方支援としては
物凄く頼もしいけど、流石に常に後方だけに気を張る訳にもいかない。
その銃を使うならフィルには射撃訓練をしてもらう必要があるけど
私も銃に関しては素人だ。
対処法は知ってても使い方は殆ど素人に毛が生えたような事しか知らない。
誰か詳しい人がいれば………そう思った瞬間、とある人の顔が浮かび上がる。
「………そっか、使用武器に違いはあるけど飛び道具の事なら
ゼーレンさんに教えて貰えばいいんじゃないかな」
思わす頭に浮かんだ言葉が口に出る。
その瞬間、フィルがぎょっとした顔で私に振り返り
「はぁ!?レンいきなり何言ってるの!?」
そう言いながら詰め寄ってくる、いやそんなに驚く事かな?
「いやだって、フィルがその銃を使うつもりならある程度の訓練は必要でしょ?
私は向けられたことはあっても扱った事ないから教えられないし
マリスだって珍しいって言ってたからあまり使った事は無いんだよね?」
「そだね~、前にファアル連邦にいた頃に見かけて
何回か試してみたくらいかな~」
私の質問にマリスが答える、やっぱりマリスも素人みたいだ。
となるとプロに教えを乞うのが1番なんだけど………
「………レン、正直あのエロ爺に気を許し過ぎよ
第一アイツに頼みごとをしたらどんないやらしい事を要求されるか………」
フィルが苦虫を噛み潰した表情で吐き出す。
確かにゼーレンさんならやりかねないとは思うけども………
フィルは神官だしそういう事に嫌悪感が強いのは仕方ない。
なら私が代わりになった方がいいかな、こんな貧相な体で
ゼーレンさんが納得するか自信は無いけど………
「まぁこっちから教えを乞う訳だし多少はね
フィルがどうしても嫌って言うなら私が代わりに………」
私がそう言いかけるとフィルは目を剥いて顔を近づけ
「それだけは絶ッッッッ対に駄目!!」
まるで今にも噛みついて来そうな必死の様相をして
フィルは私に言い放つ。
「それだけは絶対に駄目!!レンにそんな事をさせる位なら
裸で街を歩いた方がずっとマシよ!!」
ちょ、ちょっとフィルミールさん!?貴方今興奮して
自分が何言ってるのか理解できていらっしゃる!?
と言うか私の事優先するにも程があるでしょ!!
「ちょっ、ちょっと落ち着いてフィル!?
今自分でとんでもない事口走ってるの気付いてる!?」
フィルを宥めながらざっと周囲を見渡す………一先ず私達以外は
誰もいない事を確認し、少しだけ胸を撫でおろす。
「レン、私は本気よ
レンの柔肌を好奇の目に晒すぐらいなら私の羞恥なんて投げ捨ててやるわ!!」
興奮が収まらないフィルが次々と爆弾発言を繰り出して来る。
………えーっとフィルさんや、私の柔肌を晒すくらいとか言ってますけど
貴方、私にお腹や肩剥き出しの服着せてますよね?
いや確かに動き易くて快適な服ではあるんだけどさ、成人前の乙女に
この格好をさせた貴方が言っていい科白じゃないとは思うんだけどな~。
とは言え、流石にフィルをこのままにしておくのは不味い。
そろそろ爆音を聞きつけたギルドの係員も駆けつけてくるだろうし
その人達にこんな姿を見られたとあっては、それこそフィルが
羞恥で引きこもってしまいかねない。
………ちなみにマリスは横で笑い転げてて役に立ちそうにない。
他人事だからって全く………
「分かったから、しないから安心して!!
取り合えず落ち着こう、ねっ!!」
フィルの両肩に手を置いて必死に諭す。
それが目に入ったのか鼻息荒かったフィルが少しつづ落ち付いて行き………
「………それならいいの
全く、レンはいきなりとんでもない事言うから焦ったわ」
こっちの科白だよ!!と思わず突っ込みたくなるのを必死に抑える。
何でこんなコントみたいなことをやってるんだか私達………
「あっはははははははは!!ダメダメ!!笑い過ぎて死にそう!!
お姉ちゃん達マリスを笑い死にさせるつもりなの!?あははははははは!!」
そして床を転げまわりながら涙目で大爆笑しているマリス。
そんな2人の様子を見て一気に疲れが噴き出てくる。
「………取り合えず、壁の件をギルドに報告して
ゼーレンさんに相談しに行こうか」
私は疲労感に襲われながらそう呟いた。




