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~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女  作者: にせぽに~
軌跡への遁走曲《フーガ》
153/209

付き合いも楽じゃない?

今回も若干気分が悪くなる表現があります。

虫嫌いの方はご注意を。

「え…えーっと、これがユージスさんの自慢の料理、ですか」


私は背に冷たい汗をびっしょり掻きながらも平静を装って答える。

大分どもっちゃってるからバレバレの様な気もするけど。


「おう!!今朝はいい(食材)が捕れてなぁ

 コイツなんてめったに手に入らない高級品なんだぜ?」


ユージスさんは興奮気味に大皿の中にフォークを突き刺し

(食材)とやらを私達に見せる。

うわ、完全にムカデにしか見えないよ………しかも二回りほど大きくした奴。

フィルが小さな悲鳴を上げて私の腕に抱き着いてくる。


「むぅ、フィルミールにはお気に召さなかったか………

 こんなに旨そうなのになぁ」


フィルの反応を見て少しがっかりした表情をするユージスさん。

少し悪い事をした気になるも、次の瞬間ユージスさんは

そのムカデを頭からバリボリと食べ始める!!


「………ッ!!」


言葉にならない悲鳴を上げるフィル、抱き着く力が強くなり

小刻みに震え始める。

う~わ~………確かに凄い絵面だこれ、見れば見るほど食欲がなくなっていく。

幸いなのはリアがイメルダさんに拘束されてて見てない事だ

こんなの見せられたらリアのトラウマが1つ増えてしまう。


「あはははは、さっすが《悪喰らい(イビルイーター)》って呼ばれるだけはあるねぇ

 まぁこの香りで大体想像ついてたけどさ」


ムカデをバリバリと食べているユージスさんを見てマリスが

愉快そうに笑い声をあげる。

………うん、マリスの笑い声に助けられるのはいつもの事だけど

今日ほどありがたいと思った事は無いよ。


「おっ、そっちの嬢ちゃんは分かってくれるか!!

 いい香りだろ?こいつを香草焼きにするとこんな香りになるんだぜ?」


同意を得たのが嬉しかったのか、ムカデを完食したユージスさんが

再び大皿にフォークを刺し、今度は細長い芋虫をマリスの目の前に掲げる。


「良く知ってるね~、この土堀(トンネル・)芋虫(キャタピラー)は魔導士の間じゃ

 秘かに愛好家がいる珍味なんだよね~、魔力回復にもいいし」


そう言ってマリスは目の前の芋虫をひょいっと食べてしまう。


「なっ!?」


青い顔のまま悲鳴じみた声を上げるフィル、流石に私も驚く。

変わった子だとは思ってたけどまさか虫料理(それ)を躊躇いも無く食べる!?


「ん~、中々いい味付けだけどマリスにはちょーっと塩味が効きすぎかな

 まぁお酒のあてにはいいかもしんないけど」

「あ~、いつもの様に残ったら酒のツマミにするつもりだったからな

 流石に嬢ちゃんには少し塩気がきつすぎたか」

「………ほう?」


それまで無言で立ってたリーゼがお酒と聞いて興味を惹かれたように口を開く。


「マリス、それはお酒の味を引き立ててくれる料理なのですか?」

「塩気が強いから多分ね~、何ならリーゼも食べる?」


マリスはそう言って大皿の傍に並べてあったフォークを掴むと

大皿の中に突き刺し、さっきの細芋虫をリーゼの前に差し出す。


「ふむ、では試しに」


そしてリーゼは躊躇いも無くその芋虫を口に入れる。


「………ッ!」


もはや青いを通り越して土気色じみて来た顔色のフィルが

その光景を見て口を手に当てて顔を俯かせる。

何とか私に捕まって立ってはいるけどそろそろ卒倒しそうだなぁフィル。


「………フィル、取り合えずイメルダさんに猫可愛がりされてる

 リアの様子を見てて、こっちよりは遥かにマシだと思うから」

「御免なさい、そうさせて貰うわ………」


流石にこのままにしておく訳にもいかず、一先ずフィルを避難させる。

力なく私から手を放し、よろよろとイメルダさんの所へ向かうフィル。

暫く食欲がなくなったとか言い出さなきゃいいけど………


「ふむ………少々判別がし辛いですね

 ですが、確かにお酒に合いそうな感じではありますね」


そんなフィルを尻目に細芋虫を口にしたリーゼが

少しだけ眉を顰めてそう口にする。

………まぁドラゴンだし、そもそもものを食べるという習慣が

無いから虫とかでも口に入れる抵抗感が無いんだろうけど。


「ほほ~?リーゼ、アンタは酒がイケる口なのか」


マリスとリーゼのやり取りを聞いていたユージスさんが嬉しそうに呟く。


「ええ、ここ最近口にするようにはなりましたが

 この世にこの様なモノがあると感動している最中です」


ユージスさんの問いにリーゼが僅かに笑みを浮かべ答える。

………ほんっと酒飲みになったねリーゼ、普段は殆ど表情を変えないのに

お酒の事に関する事となると表情が目に見えて明るくなるよね。

まぁ、酔っぱらって暴れたりしないから人間の酒飲みよりは

ずっとマシなんだろうけど。


「ほ~、そうかそうか

 朝っぱらだったから少し気は引けてたんだが………

 文句言うイメルダもあの嬢ちゃんに夢中だし、今日は予定も無ぇから

 ぱーっとやるか!!」


酒飲み仲間が出来たと知った途端ユージスさんがテンションMAXになる。


「ちょっと待ってろ!今虫料理(コイツ)に会う酒を持ってきてやる

 かなりイケるから期待しててくれよ!!」


そう言って上機嫌で奥の部屋に引っ込むユージスさん。

………えーっと、この状況どうしよう。


「あははは、思ってたより楽しくなりそうだねぇ

 レンお姉ちゃん、あの兄ちゃんの事はマリスとリーゼに任せといてよ」


笑いながら私にそう言ってくるマリス。

正直有難いんだけど………平気な顔して大皿の芋虫をパクパク食べてる

マリスに関してもぶっちゃけ引き気味だ。


「ありがとマリス、私はフィルと一緒にイメルダさんの方へ行ってるよ」


目の前の異様な食卓に若干眩暈を覚えつつリアを抱き締めてる

イメルダさんの方へ向かう。

こっちもこっちで大変そうな気がするけどね………





「ん~~~っ、リアちゃん奇麗な銀の髪だからこれも似合うね~♪」


悪夢の食卓を離れ、イメルダさんに可愛がられてる筈のリアの元へ向かう。

そこには色とりどりの髪飾りを付けられ未だ困惑顔のリアと

ウッキウキな表情で次から次へとアクセサリーを取り出してるイメルダさん

そして幾分か顔色の良くなったフィルが少しだけ苦笑しながらそれを見ていた。


「あ…レン、貴方もこっちに来たのね

 ………良かった」


私の姿を見つけあからさまにホッとするフィル。


「いや流石にあの食卓を囲むのは私にはレベルが高すぎて無理かな~

 一応私の国にも虫を食べる地域はあるけど」


まぁイナゴの佃煮とかコオロギのから揚げとか聞いた事はあるけど

進んで食べようとは思わない、他に食べるものが無ければだけど。


「そう………なら安心したわ

 レンが虫料理(あんなの)を食べる姿は見たくなかったし

 レンが食べるなら………私も食べないといけないだろうから」


喋りながら思い出したのか若干だけど再び青い顔をするフィル。


「いやいや、例え私が食べたとしてもフィルが付き合う必要は………」

「あるの、レンの事は誰よりも理解するのは私の義務だから

 その為には私はどんなことだってやり遂げるつもりよ」


そう言ってこちらを向いて微笑むフィル、けど目が笑ってない。

アレは本気で私が虫料理を食べたりしたらそれに付き従う気だ。

………好意は正直嬉しいんだけど、流石に私に盲従するのは余り頂けない。

リーゼもそうだけど、もうちょっと私以外にも興味を持ってほしいかなぁ。

私はいずれ………


「レン?どうしたの?」


不意にフィルが問いかけてくる。

とと…心情が顔に出ちゃってたか、まだまだ修行不足かな。


「何でもないよ、それにしても………」


話を打ち切る為に私はリアに視線を移す。

………なんかちょっと話してた隙にリアにつけられてるアクセサリーが

さらに増えてるんだけど!?

とは言えゴテゴテとした感じは無く、リアの神秘的な雰囲気に壊さない様

シックな感じのリボンやら髪飾りやらが殆どだ、派手さは無いけど

正直すっごく可愛い、イメルダさんセンスいいなぁ………


「あ~~~、もう可愛すぎるよリアちゃん!

 ユージスいなかったら秘蔵の服も着せてあげたいのにな~」


イメルダさん完全に恍惚状態だけど流石に最後の理性は残ってたみたい

ここでリアの服を脱がし始めたら流石に止めなきゃいけなかったよ。


「レン…これ、どうしよう」


いきなりアクセサリー類を付けられまくって困惑がさらに深まってる

リアが私に問いかけてくる。

声色から戸惑ってはいるけど嫌がってるっぽくはないね、それなら


「もしリアが嫌じゃなければそのままイメルダさんの

 好きにさせてあげて欲しいかな、私も可愛くなったリアは見てみたいし」

「………可愛い」


リアは私の言葉を聞いてそう小さく呟く。

そして困惑気味だった表情をすっといつも通りのおすまし顔に戻し

イメルダさんの方へ向いて


「レンがそう言うから………好きにしていいよ」


そう静かに呟く。


「リアちゃん………ありがとう!!

 そういう事ならも~っと可愛くしてあげるからね!!

 ちょっと待ってて~!!」


リアの言葉に感極まったらしいイメルダさんは極上の笑みを返し

自分の部屋に戻って行く。


「………レン、これ長くなりそうね」


その様子を見ていたフィルは苦笑しながら言って来る。


「仕方ないよ、そもそも私達が情報を貰うんだし

 2人の気が済むまで付き合おう」


私は力無く笑ってフィルにそう返した。

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