宝石の柩
「なにこれ………」
リーゼが見せてくれた視界の前に奇妙なオブジェが立ってる。
巨大な半透明な赤い石の中に体が消し飛ばされた首無しが
埋め込まれてる。
何かガラスの中に造花が入ってるインテリアっぽい印象を受ける
………まぁこんな大きくてグロい物をインテリアとして
置きたくは無いけど。
多分マリスの魔法だろうけど、一体何がどうやってこんな風になったのやら。
リーゼの視界越しだけど中にいる首無しが動く気配はない
完全に固められちゃってる様だね。
『マリスが何か魔法を唱えてたから、多分それだとおもうけど
見た所中の首無しは動く気配は無さそうかな?』
『大丈夫そうです、動くどころか再生もする予兆はありません』
ふむ、取り敢えずの危険は無いという事か。
なら近づいても大丈夫そうだけど、未だ体には痛みが走り回ってる。
さっきは無理矢理立ったけどこれは流石に歩けそうもないかな。
仕方ない、ちょっとリーゼに手伝って貰おう。
『リーゼ、悪いけどそこまで連れて行ってくれないかな
今私痛みで動けそうも無いんだ』
『了解しました、直ぐに向かいます』
そうテレパシーで返答するや否や、すぐに駆け付けてくれるリーゼ。
暫く前線を離れてしまって心配だったけど埃と返り血で汚れてるだけで
目だった傷は無さそうだ、取り敢えずは一安心かな。
「手間をかけて悪いねリーゼ、あとあそこで気絶してる
フィルも一緒に連れてきてくれるかな?」
「分かりました」
リーゼはそう言うと私を左手でひょいっと抱え上げ、そのまま
フィルの所へ向かい、気絶しているフィルを右手で抱えた後
首無しの所まで歩いていく。
「レン、右腕は………大丈夫なのか?」
首無しオブジェの前に呆然と立っていたユージスさんが
リーゼに担がれた私を見て心配そうな声色で言ってくる。
まぁユージスさんはずっと上空にいたし見てるよね。
「ええこの通り、お陰で揺り戻しの激痛が体の中を
暴れ回ってますけどね」
激しく痛む右腕を無理矢理笑みを浮かべながら動かす。
それを見てユージスさんは呆れたように苦笑をし
「全く、大した嬢ちゃん達だ
神官がいたとはいえ躊躇なく仲間に腕を斬らせるとはな」
「いやいや、流石に躊躇はしましたよ
けど、ああでもしないと取り込まれてしまうのをこの目で見てるので」
ユージスさんの言葉に苦笑しながら返す。
とは言えフィルがいたからこそユージスさんの言う通り腕を斬り飛ばす
判断が出来たのであってそうでなければ思い切れずに
首無しに取り込まれてたかもしれない。
………ホント、フィルには感謝しかないよ。
とは言えさっきゼーレンさんに『自分の身体を大事にしなさすぎる』って
言われたばかりだし、怪我すればする程フィルの負担が増えていくのも
事実だ、なるべく怪我を負わないような立ち回りを心掛けないと。
「それは兎も角、この巨大なオブジェはマリスの魔法の効果なの?」
いつ間に隣に来てドヤ顔をしていたマリスに問いかける。
「そだよ~、前に再生トロールと戦った後ぐらいからもちょっと楽に
アイツらを何とか出来ない手は無いかと考えてたんだよね~
術式理論の構築が間に合って助かったよ、あはははは♪」
マリスは大したこと無い様な風にあっけらかんと笑う。
「やってる事自体は大したことじゃないんだよ、出来る限り硬度を靭性を
強化した宝石を、魔力を触媒にして目標の周りに大量増殖させて
そのまま宝石の中に閉じ込めちゃっただけなんだから」
………いやマリス、それってどこを聞いても大したことだと思うんだけど。
魔法の事は全く分からない私ですら無茶苦茶な事をやってる事は理解できる。
「宝石を基幹にして強化をしつつ魔力の物質変換、ってところかな
確かにやってる事は魔法の基礎理論の延長線上ではあるけど………」
ゼーレンさんに肩を借りながら来たイメルダさんが呟く。
派手な魔法を連発してフィル程じゃないけど疲労の色が濃い、魔法って
体力も消耗するんだね………なら同じように大掛かりな魔法を
唱えてたマリスが平気な顔をしてるのは何でなんだろ?
「………確かにこれなら流石のコイツも
簡単に抜け出せそうは無さそうだな」
ユージスさんがオブジェを槍の穂先で軽く突きながら呟く。
マリスが強化したっていってたから相当固そうだ、まぁリーゼが
全力で攻撃したら割れそうな印象ではあるけど。
「そしてこれが………例の黒魔晶石か
成程、確かに禍々しそうな雰囲気じゃわい」
吹き飛ばされた首無しの身体から露出している黒魔晶石を見ながら
ゼーレンさんは眉を顰めて言う。
周りが赤い宝石だからか以前のような真っ黒には見えないけど
それでも以前トロールの体内にあったものと同じ感じの石だ。
………尤も、大きさは二回りほど大きいけど。
「アレがこのドラゴンにどんな作用をしたかは分からんが
放って置いても碌な事にはなりそうにないの
とは言え対応手段が無い以上はこのまま何処かに
封印しておくしか無いんじゃが………」
封印か………ゼーレンさん言う事は尤もだけど
身体の半分以上を吹っ飛ばされてもまだ一軒家ぐらいあるこのデカブツを
封印どころか移動させるのも大変だと思うけどどうするんだろ?
そもそも封印って何をするんだろうか………
「封印っつったってどうするつもりだ?
精々イメルダが作ったこの穴をもっと深く掘って埋めるしか
出来ねぇと思うんだが………」
「それしかないじゃろうな、ギルドに報告して
人員を回してもらうしかないじゃろうて」
あ、封印って言っても魔法とかであれやこれやする訳じゃなくて
物理的に埋めるって事なんだね、まぁそれしかないっぽいけど………
「あ、その点なら心配ないよん
魔導協会が引き取ってくれる手筈になってるから、これ」
「何じゃと?」
オブジェを前に深刻な顔をしてる私達に向かって
マリスがあっけらかんと言い放つ。
その言葉にゼーレンさんが思わず聞き返してる。
「前のトロールとの戦いの後に黒魔晶石のかけらを研究材料として送ったら
お偉いさんが興味を示したみたいでね~、もっと大きい黒魔晶石を
寄こせって言ってきてたんだよ」
そう言えばあの時マリスそんな事言ってたね。
しかしあんなものを欲しがるなんて魔導協会って一体………
「まぁその為にこの『宝石の柩』を頑張って
術式構築したんだ、いや~間に合ってよかったよ」
マリスは軽い口調のままそう言い放つ、確かにあの黒魔晶石を手に入れる為には
再生できない様に閉じ込めるのが1番だったんだろうけど………
「だからと言ってあんな魔法を1人で制御するなんてね
協会にいた頃に『馬鹿みたいな魔法制御をする子供がいる』って
与太話を耳にしたけどもしかして貴方の事なのかな?」
「んっふっふ~、さ~て何のことかな~」
イメルダさんの質問に笑いながらはぐらかすマリス。
あの様子だと魔導協会とやらにいた頃も色々やらかしてるんだろう。
まぁ今でも連絡を取り合ってる様だから険悪な関係ではなさそうだろうけど。
「って事はコイツはこのまま放っといてもいいって事なのか?
まぁその方が俺達は助かるが………」
「うん、そのまま放っといてだいじょぶだよ
連絡入れたらすぐに協会が回収に来るから」
「そうか、まぁこんなデカブツを勝手に処理してくれるなら
俺達に文句はねぇよ、素材が手に入らなかったのは少し残念だがな
いや、流石に首無しの素材は御免被るがな」
ユージスさんはそう言って苦笑する。
流石にコイツの素材は売り物になるどころかどんな事が起こるか
分かったものじゃない、破片から再生して首無し復活とかも
十分に考えられるからね。
「ならこのオブジェの処理もマリスに任せていいのかな?」
「うん、まっかせといてよ♪
と言ってもマリスは魔導協会に連絡するだけだけどね~」
マリスはそう言って私に向かいにぃっと笑みを浮かべた。




