再生する脅威再び
「シッ!!」
体勢を低くし、地面すれすれを滑走する感じで首無しへ接近する私。
所謂「縮地法」――視線の届きにくい足元から一気に接近する歩法だ。
と言っても目玉どころか視神経が無さそうな首無しに幻惑効果あるかは
疑問だけど、何だかんだで間合いを一気に詰めるにはこの歩法が1番
効率的だ、体勢も低くて空気抵抗も少ないしね。
けど、予想通り相変わらずどんな感覚器を備えてるか疑問だけど
首無しは正確に私の位置を把握し、十数本の触手を頭上から
串刺しをするかの様に伸ばして突き立ててくる!!
「ふっ!!」
けど、そんな見え見えの攻撃に当たってあげる訳にはいかない。
私は前進の速度を落とさず左右にステップを踏んで跳躍し
ターゲットを絞らせない感じで回避していく。
私の横を次々と触手が通過し、地面に突き刺さる。
流石に前回のトロールより二回り以上大きいせいか、触手の数も
トロールとは比べ物にならない程に多い。
けど、触手の攻撃速度自体は前回と同じく目で追える程度のモノだ
これならいくら数が多くたってどうにかなる。
そう思い、攻撃圏内まで接近しようと踏み込んだ矢先………
「レン、後ろ!!」
「!?」
フィルの叫びが聞こえ、とっさに左側に跳ぶ私。
その直後、後方から数本の触手が後ろから私のいた場所を横切っていく。
思わず触手の来た先を見る、そこには突き立てられた触手がそのまま
地面を抉ってこちらに向かった跡が残っている。
うわ、あの触手地面抉り取れる程の力を持ってるの!?
そんな考えが浮かんだ瞬間、私の勘が警鐘を鳴らす。
「っ!?」
とっさにその場から飛び退く私、次の瞬間私のいた地面がせり上がり
そこから無数の触手が勢いよく顔を出し、そのまま方向転換して私に向かてくる。
「くっ、これはまたまた………」
そのまま触手を避ける為に駆け出す私、そのまま私のいた場所を横切った触手は
再び方向転換しこちらへ向かって来る。
「うわ、こっちに誘導までしてくるんだ、これはまた面倒な………」
前回のトロールの時は直線的な攻撃ばかりで誘導攻撃なんてしてこなかった。
という事はあの首無しは私の位置を把握した上で私を追いかけるだけの
知能を持ってるって事だよね、いやはや面倒な………
走りながら周囲を見回すとかなりの数の触手が私を追ってる、ざっと見ただけで
20本以上あるね、こりゃ予想以上の数だ。
こんな数の触手に誘導攻撃を続けられたら近い内に追い詰められて捕まって
首無しの一部にされるだろう、実は結構な危機的状況だ。
現に一部の触手が私の退路を塞ごうと回り込み、前方から突進してくる。
ありゃ…言ってる傍から大ピンチだ、だけど………
轟ッッッ!!
眼前の触手が斬撃の暴風によって全て斬り払われる。
その暴風はそれに飽き足らず私の後方へ抜け、迫っていた触手も
纏めて斬り飛ばしていく。
「竜の誇りを失い、異形になり果てた下賤の輩がマスターを取り込もうとするなど
我が許すと思ったか」
相も変わらず恐ろしい斬撃で触手を全て斬り飛ばし、首無しへ
強烈な眼光を突き立てるリーゼ。
お~お~凄い迫力だねリーゼ、ホント頼もしい事この上ないね。
触手を全て斬り飛ばされた上、その鋭い眼光に射抜かれて畏縮したのか
一瞬たじろぐ様なな動作を見せる首無し、その隙を見逃さず一気に接近する。
「グェオイアアァァエエェィウィアアアア!!」
頭を吹っ飛ばされた記憶が残ってるのか、私を近づけさせまいと
身体に生えた口で気味の悪い咆哮を上げる首無し。
途端に物凄い悪寒が走り、足が止まりそうになる。
「ぐぅっ…なんて気味の悪い叫び声を上げやがる
こんなのを聞きながらじゃとても攻撃なんて出来ねぇぞ!!」
リーゼが触手を全部切り落としたのを好機と見たのか、ユージスさんも
首無しに接近していたのだが咆哮によって足を止めてしまう。
「大丈夫ですよユージスさん、こんな咆哮
一発でかき消す凄いのが出来る子がいますから!!」
私はユージスさんにそう叫び、リーゼに視線を送る。
リーゼはこくりと頷いた後、息を大きく吸い込み
「ガアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァ!!」
その容姿に似つかわしくない野太い声の咆哮を上げる。
「うおっ!?
こりゃまた顔に似合わず凄い咆哮だな!!」
大きな口を開けて咆哮を続けているリーゼを眺めながらユージスさんは呟く。
リーゼの力強い咆哮が首無しの咆哮を上書きしていく。
悪寒が消え足のすくみも無くなった、再び接近を開始する私。
「ホントに俺達よりレベル低いのかよ、この嬢ちゃん達は」
そんな事を呟きながら私の後に続くユージスさん、その後ろにはリーゼも来てるだろう。
既に敵の攻撃圏内、後ろの2人に敵の矛先を向けさせないのが私の役目だ
私の攻撃が効かないのは分かり切ってる、なら………
「ユージスさん、効果はあるかは微妙ですがなるべく後方から攻撃お願いします
私はそれに合わせて正面から攻撃して、相手の怒りを誘います!!」
「怒りを誘うって………こんなアンデッドもどきにんな事出来るのか!?」
「絶対とは言いませんが、やってみるだけの価値はあるかと」
「………分かった、死ぬんじゃねぇぞ」
ユージスさんとの短いやり取りの後、私は首無しを攻撃圏内に捕らえる。
そのまま後方に回り込む手筈のユージスさんに攻撃を行かせない様
先ずは一撃を入れてこちらに注意を引かせないと………
私は走りながら強引に右足で踏鳴を入れ、勢いを上半身に伝え
そのまま腰を回し首無しの足へと拳打を叩きこもうその瞬間………
「行くぞ!!自分で言ったんだから合わせろよレン!!」
いきなり頭上からユージスさんの声がする、思わず見上げると
首無しの頭上より高い位置でユージスさんが槍を突き立てながら落下してる。
さっきも見たけど人間技とは思えないジャンプだ、オリンピックに出たら
ダントツで1位確定だよ。
そんな雑念がよぎるけど直ぐにそれ処じゃない事を思い出し
そのまま攻撃に移行する!!
ズン!!とした手ごたえの後に首無しの身体からその数倍の衝撃が
拳から伝わってくる。
その直後、肉を切り裂くような音が響くと同時にユージスさんが
血塗られた槍を持って後方へと着地する。
「グギグェヒャフォォコオオォォォオオオォ」
何とも形容しがたい声を上げながら首無しは絶叫をする、生きてる時に
私が吹っ飛ばした首の断面がさらに大きく抉り取られているのが見える。
うわ、これを一撃でやるなんて凄いねユージスさん。
「どうだ?俺も結構やるもんだろ」
私に向かってにやりと笑うユージスさん、まさにその通りだし
普通ならこれで終わるんだろうけど………流石に今回は相手が悪い。
ユージスさんの付けた傷はまるで時間が巻き戻るかのように
即座に再生して行き、あっという間に元に戻る。
「………レンの言う通り、とんでもねぇ再生能力だな
こりゃ確かにちまちまと攻撃してたら埒が………うおっと!?」
「っ!!」
再生が済んだ首と私が攻撃した足から触手が延び、私はそのまま回避し
ユージスさんはすんでの処で触手を斬り払う。
「自分を攻撃した奴を正確に反撃してきやがるか、しかも捕まったらアウトと来た
こりゃ確かに生半可な攻撃は自分の首を絞める事にしかならねぇな」
ユージスさんは触手を切り払った後直ぐに距離をとる、前回できなかった
挟撃からの同時攻撃をやってみたけどそれぞれに反撃をして来たね
となると触手の反撃に関しては矛先を集中させることは不可能か、益々厄介だね。
さて、どうするか………
首無しの懐から離脱し、次の手を模索しようとした瞬間
首無しの胴体から取り込まれた下等種の口が
私に向かっていきなり伸びてくる!!
「うわっと!!」
予想外の攻撃に一瞬だけ反応が遅れるも何とか右に躱す、けどその先に
今度は触手が私に襲い掛かる!!
マズッ、この体勢じゃ避けきれないか!?
無理矢理体をバネにしてさらに飛び退こうとするけど触手の方が一瞬早く
私を捕らえようと差し迫る!!
「やらせんと言った筈だ、下郎!!」
すんでの処でリーゼの戦斧が触手を切り払い、事なきを得る。
「………ありがと、助かったよリーゼ」
今のは危なかった、リーゼがいなかったら確実に捕らえられていた
私はリーゼに礼を言う。
「いえ、これが我の役目です
ですが………思っていた以上に厄介な相手ですね」
リーゼが額に汗をにじませながら首無しを睨みつける。
戦いは始まったばかり、けど早くも苦戦の様相を呈してきていた………




