明かされた『スキル』
「タッドさん、その依頼…私達も受けることは出来ますか?」
切羽詰まって焦っていたのか、私が話しかけると
タッドさんは驚いてこちらを振り向く。
「えっ!?だ、誰だい君達は!?」
どうやらあまりに焦っていたのでイメルダさん達以外は
目に入ってなかったみたいだね、まぁ仕方ないか。
「嬢ちゃん………正気か!?」
ユージスさんにも私の言葉は聞こえていたらしく
驚いた表情で私に問いかける。
「ええ、勿論正気です
私達ならドラゴン相手でもそれなりに戦えますよ」
私は冷静さをアピールする為普段通りの声色で返事をする。
「この子達は何方ですか?見ない顔なんですが………」
「昨日王国に来た冒険者だよ、帝国からはるばる来た
女の子だけの冒険者パーティの子達」
タッドさんの質問にイメルダさんが答える。
まぁ昨日の今日で私達の事が知られてる訳は無いよね。
イメルダさんの言葉にタッドさんは私達をじぃっと見つめる。
アレはレベルを確認してるのかな?
「………えっと、依頼を受けたいという気持ちは有難いけど
君達のレベルじゃ恐らく手も足も出ないと思うんだけど」
レベルを確認したタッドさんが少し言いにくそうにそう告げる。
確か私達のレベルはそんなに高くないんだっけ、それ以前に
私のレベルは0なんだけど。
レベルが強さの指針である以上タッドさんのいう事は正論だ、けどこちらも
説得する材料はある。
「これを見て下さい、私達は過去に古代竜を撃退しています
その経験が役に立つかと」
私はそう言って冒険者証をタッドさんに手渡す、若干訝し気に
受け取ったタッドさんだけど、冒険者証に目を通していくと
みるみる表情が変わっていく。
「信じられない…こんな子がこんな経歴を持ってるなんて」
驚愕の表情をするタッドさん、この世界の人達にとって
私達のしてる事ってホント異常なんだね………実感は殆ど無いんだけど。
「………確かにこの経歴ならドラゴンとの戦闘も任せられそうだけど
けどいいのかい?恐らく命懸けの戦いになるよ?」
冒険者証から顔を上げたタッドさんは心配そうな表情で私に問いかける。
けど私の答えは変わらない、そのまま頷いて返事をする。
「………分かった、本来なら君達の評価じゃこんな依頼は受けられないんだけど
今は緊急事態で特例が適用できる、依頼の受諾を承認したよ」
タッドさんは私を見据えながら冒険者証を手渡し、そう告げる。
「念の為に聞くけど、他の子達も同意とみていいんだね?」
「ええ、勿論」
後ろにいるフィルとリーゼにも参加意思を聞くタッドさん、当然ながら
2人共やる気満々だ。
「………有難う、正直人出ならいくらでも欲しい所なんだ
こんな危険な依頼に志願してくれて感謝するよ」
タッドさんは申し訳なさそうな雰囲気ながらも笑顔を向けて
私達に頭を下げる。
さて、そうと決まればまずはゼーレンさんと合流して………
「………やれやれ、まさかこんな肝の据わった嬢ちゃん達だったとはな
俺はまだまだ嬢ちゃん達を見くびってた訳だ」
ずっと私達の会話を静観していたユージスさんがそう口にした後
にぃっと歯を見せて笑う。
「後輩がこんなに張り切ってるのに先輩が臆する訳にはいかんよな
なぁイメルダ」
「ええ、確かにね」
ユージスさんの言葉に、イメルダさんも不敵な笑いで返す。
「タッド、俺達も依頼を受ける
神弓のゼーレンとこの嬢ちゃん達がいればまぁ、何とかなるだろ
報酬、忘れんなよ」
ユージスさんはタッドさんの肩をポンッと叩く。
「分かりました、僕は依頼受諾の処理にギルドに帰ります
その後、他にも向かってくれる冒険者がいるか探してきます
………くれぐれもご無事で」
タッドさんはそう告げると走り出してこの場を去って行った。
「つー訳で嬢ちゃん達、いきなりで悪いが宜しくな」
そう言ってユージスさんが手を出して来る。
予想外の展開だけど強力な味方が出来た、これなら
思ったより楽な展開になるかもしれない、まぁ油断は禁物だけど。
「こちらこそよろしくお願いします
先輩の活躍、期待してますね♪」
私はそう言って手を握りウィンクをする、こういう時に冗談を言うのは
緊張をほぐす為の常套手段なんだよね。
一瞬呆気に取られるユージスさん、けど直ぐに大爆笑を始め
「わっはっはっは!!どこまでも油断ならない嬢ちゃんだ
いいぜ、精々俺の活躍を目に焼き付けといてくれよな!!」
ユージスさんは心底愉快そうに笑いながら私の手を握り締めてぶんぶんと振る。
「………単純だねユージス
いや、これはレンちゃんが上手かったというべきかな」
「ああ見えて人を乗せるのは凄く上手いんですよ、レンって」
そんなやり取りを横目で見ながら呆れたように呟くイメルダさんと
ジト目で私を睨みながら変な事を吹き込むフィル。
人を乗せるって…何でそんな詐欺師みたいな言い方なのフィル?
「マスター、出陣をするのならばお急ぎを
あまり時間的猶予は無さそうです」
そんな私達を横目にリーゼは虚空を見つめながら私にそう告げる。
どうやら着々とドラゴンは王都に近づいてるみたいだね。
「確かに時間の猶予は無いな………
嬢ちゃん達、出来る限りの準備をしたら南門で合流だ
タッドに馬の手配を依頼しておいたからそれで急行するぞ!!」
ユージスさんが指示を出して来る、この場はユージスさんに任せるのは筋かな。
とは言え馬か………私乗馬の経験無いけど大丈夫かな?
「フィル、馬乗れる?」
「………えっ?レン馬乗れないの!?」
フィルに質問すると驚いた表情で返答される。
いや、そんなに驚く事かな?
「乗れないよ、私の世界だと馬はもう交通の主要素じゃないからね」
私の答えに、フィルの顔がぱあっと明るくなり
「そう…そうなのね
なら仕方ないわ、私の後ろに乗せてあげる」
両手を合わせ満面の笑みで言ってくるフィル。
お…フィルの乗れるんだ、ならそれに乗せて貰おう。
けどフィル、何でそんな嬉しそうな顔なの?
「リーゼは…乗馬の経験なんて無いよね?」
「ありませんが………我には必要ありません
人化状態でも馬と並走する事など容易い事です」
流石ドラゴン、脚力も持久力も人間とは比べ物にならないね
とは言えそんな所をあの2人に見られても大丈夫なのかな?
「ほう、そっちの嬢ちゃんは『ステイヤー』のスキル持ちか
それなれば都合がいい、こちらも馬を1頭減らせる」
会話を聞いていたユージスさんがそんな事を言ってくる。
………ってスキル?何それ?
「フィル、スキルって何?」
「えっ!?」
再び驚いた表情をしてこちらを振り向くフィル。
「レン、それ本気で言ってる?」
「本気も本気だけど………知らないと何かマズいの?」
フィルは信じられないものを見たかの様にこちらを見てくる。
………何かマズい事を聞いちゃったかな。
「いや…今まで散々マリスやリーゼが『マルチプルキャスト』とか
『スケイルボディ』やってた時スキル名が見えてたでしょ!?」
「いや、そんなの全然見えたこと無いんだけど………」
フィルの言葉の意味が分からなくて混乱する。
スキル名が見えるって何?
混乱する私見て絶句するフィル。
「ステータスの時と同じね、レンってスキルすらも見えてないのね
………だから、私の事も」
溜息を吐きながら呟くフィル、言い方からして
この世界の人ってそのスキルとやらを使ったら「見える」らしいんだけど
それが余りにも当然すぎて私が見えて無いって考えにすら至ってなかったらしい。
まぁ無理はないとは思うし、私も見えてないのが当然と思ってたしね。
「兎に角、今は時間が無いし『そう言うモノがある』とだけ認識してて
この依頼が終わったら教えてあげるから」
気を取り直したフィルが私にそう言ってくる。
まぁ確かに今は時間が無い、若干興味はあるけど今それを詳しく知ったからと
言って状況が変わる訳でも無い、ならば一旦忘れて現状に集中すべきだね。
「分かった、それじゃ準備に取り掛かろう」
私は仲間達にそう告げ、必要なものを調達しに向かった。




