王国の女魔導士
「えっと………誰?」
突然現れた女性に困惑の表情を浮かべるフィル。
フィルはこの人の事を知らないみたい、当然ながら私も初めて見る人だ。
リーゼの知り合いかと一瞬思ったけどそんな訳がない。
100年程帝国の山奥にいたリーゼに人間の知り合いなんている筈無いしね。
「あの、私達に何か?」
たちまち声をかけてきた女性に問いかける、女性はハッとした表情をして
「あ…ゴメンゴメン、こんな所で遭えるなんて思ってなかったから
思わず声を上げちゃったよ」
そう言ってえへへと苦笑いをする。
ふむ、向こうは私達の事を知ってる様だけど………
フィルが少しだけ警戒心を露にした表情をする、格好からして魔導士だし
さらに帝国の件もあるから無理も無いけど。
「あらら、ちょっと警戒させちゃったかな
ゴメンね、いきなり不躾だったかな?」
そんなフィルの表情を汲み取ったのか女性は苦笑いのまま
謝罪の言葉を口にする。
「私の名前はイメルダ、イメルダ=レーゼルネ
この国で冒険者で、見ての通り魔導士だよ」
イメルダと名乗った女性は人の良さそうな笑顔を向けて自己紹介をする。
イメルダさん…ね、ざっと見た所年は私達よりちょっと上っぽいかな。
薄緑の髪を腰までストレートに伸ばした利発そうな女性だ。
とは言え魔導士かぁ………マリスのお陰で魔導士=変人のイメージなんだけど
この人も変わった人なんだろうか?
「………ご丁寧な自己紹介有難う御座います
それで、私達に何か御用でしょうか?」
フィルがさらに警戒感を強め棘のある口調で問い質す。
そう言えば神官って魔導士を敵視してるんだっけ、マリスと仲良く喧嘩してるから
忘れがちだけど基本神官と魔導士は不倶戴天の敵だったよね。
「あ~、そう言えばそっちの子は神官だったね
そんな目で睨まなくても私は教会と事を構える気は無いから」
イメルダさんは表情を変えないまま手のひらを前に出してぶんぶんと振る。
………ここは私が話を進めた方がいいかな?
「フィル、初対面の人をそんな睨んじゃダメだよ
神官と魔導士の関係は知ってるけど、今のフィルは教会との繋がりは
殆ど無いんでしょ?」
「そうだけど………」
私の言葉にフィルは少し不満げに返答する、だけどフィルは少し逡巡した後
「………分かった、レンがそう言うなら」
そう言って警戒心を解いてくれる。
さて、これで話を始められるかな。
「済みません、見ての通りこの子は神官ですから魔導士が嫌いなもので………」
「ああそれはこっちが悪いから気にしないで
彼女の立場を弁えずに声を上げた私が原因だから」
私の謝罪にイメルダさんも慌てて頭を下げてくる。
特に彼女から敵意は感じない、だけどやっぱり見覚えのない人だ。
王国の冒険者って言ってたけど昨日王国に来たばかりの私達に
何の用なんだろう………
「それで、私達に何か御用でしょうか?」
改めてイメルダさんに問いかけてみる、するとイメルダさんは頭を上げ
「えっと、用って程のものじゃないんだ
ただ、あの帝国から女の子だらけのパーティが来たって聞いたものだから
どんな子かな~と興味が沸いてた時に思わぬところで見かけちゃったから
つい声をかけちゃったのよ」
ああなる程、そう言う事か。
「私も実は帝国出身なんだけど、あそこは女が目立つことをしたら
男達に叩かれる場所ってのは嫌って程よく知ってるからね」
へぇ、この人も帝国出身なんだ。
なら帝国の事情をよく知ってる筈、そうなれば私達のパーティが
いかに異彩かって言うのは良く分かってるよね。
それなら私達に興味を持つのも不思議じゃないね。
「そういう事だったんですか」
「ええ、いきなり声かけちゃってごめんね」
イメルダさんはそう言って再びちょこんと頭を下げ、そしてすぐに上げる。
そしてにこっと私達に笑いかけてきて
「ね、折角だし少しお話しない?
貴方達が帝国でどんな活動してたか興味があるの」
そんな事を言ってくる。
何かこの人も距離感が近いなぁ、マリスと言い魔導士ってこんな
フランクな人ばかりなんだろうか?
とは言えこれはチャンスかな、宿探しも行き詰まりかけてた事だし
この人から色々聞いてみるのも悪くないんじゃないかな。
まぁ、魔導士嫌いのフィルにストレス感じさせちゃうのが難点だけど………
「構いませんよ、私達も探し物をしていた所ですし
この国に来て日も浅いですから、色々教えて頂けると助かりますから」
そんな私の思惑とは裏腹に、フィルがあっけらかんとした表情で了承する。
少し驚いてフィルの方を向く私、そんな私にフィルは少し得意げに微笑んで
「レンの考えてる事なんてわかるわよ、なら私もそれに乗っかるだけ
レンが傷つく事じゃなければもう止めないって決めたしね」
そう言ってウィンクをするフィル。
「あはは、思ってたよりずっと仲いいね貴方達
帝国じゃ苦労してたのかなと思てたけど、案外そうでもなかったり?」
「いえ、苦労はしましたよ?
だからこそ、私とレンの絆が強固になったともいえますけどね」
私とフィルのやり取りを見て笑うイメルダさん。
そしてそんなイメルダさんに不敵な笑みで視線を送るフィル。
「そっか、俄然貴方達に興味がわいてきたよ
どうやら私に聞きたい事もありそうだし、少し落ち着いた場所でお話ししよっか
近くに私達のギルドハウスがあるからそこでいいかな?」
そう問いかけて来たイメルダさんの科白に聞きなれない単語が出てくる。
ギルドハウス?名前からしてギルドに関係ありそうな代物だけど………
フィルなら知ってるかなと思いそちらの方に視線を向けると
フィルも僅かに首を振る、どうやら知らないみたいだ。
「ええっと、ギルドハウスって何です?」
取り合えずイメルダさんに聞いてみる、イメルダさんは
不思議そうな顔でこちらを見つめた後
「えっと、冒険者ギルドが私達に貸し出してる家の事なんだけど………
知らないの?」
そんな事を言ってくる、いやいやそんなの
ギルドマスター2人とも言ってなかったんだけど。
「いいえ知りません、冒険者ギルドはそんなものを貸し出してるのですか?」
再び質問する私、その様子にイメルダさんは何かを察した様な表情になり
「あ~…そういう事
もしかして貴方達って冒険者になってからまだ1年経ってなかったり?」
「ええ、そうですけど………」
イメルダさんの問いに答える、確か冒険者になってから半年弱ぐらいだったかな?
思ってたより時間経ってるなぁ、感覚的にはあっという間だったけど。
「なら仕方ないか、アレの貸し出しは冒険者歴が1年以上経過が条件の1つだしね
説明もその時にされる場合がほとんどだから知らなくても無理ないか」
へ~、そんな制度があったんだ。
よく考えたら帝国ではそんな制度を聞く前に人形達の宴を確保できたし
マイーダさんが説明する理由も無い訳だね。
とは言え1年以上か~、少なくともあと半年は
自力で何とかしないといけないっぽいようだね。
「もしかして私に聞きたい事ってのもその辺りの事情だったり?」
「ええ、そんな感じですね」
「ふ~ん、そっか
まぁ確かに女の子だけのパーティじゃ住処を探すのも一苦労だよね」
イメルダさんはそう言うと苦笑する。
「そういう事ならギルドハウスがどんなものかを見てみる?
今後の目標の1つになるかもね」
ふむ、そういう事ならお邪魔するのも悪くないかも。
初対面の人間の住処に行くのはバイト時の経験から
ちょっと抵抗あるけど、フィルとリーゼもいるから滅多な事が起こっても
どうとでもなるかな………気の回し過ぎだとは思うけど。
「そうですね、それじゃお邪魔する事にします」
「よし、それじゃ案内するね」
イメルダさんはくるりと振り返り私達を先導する。
その背中を眺めながら私達はイメルダさんの後をついて行った。




