危なげなき戦い
「ほい、レンお姉ちゃんの強化完了っと
それじゃ一番槍は貰ったよ~
めんどいので術式融合、【フレア・サークル】!!」
マリスは速攻で私に強化魔法をかけた後、次の瞬間に周囲に様々な
幾何学文字や魔法陣が浮かび上がる。
その全てが一度に光り輝いた後、カマキリ達の周りに円柱状の光の壁が現れる。
「!?」
いきなりの事で驚いたのか周囲を見回すカマキリ、その瞬間
地面から発生した燃え盛る火炎が渦を巻いて噴き上げていく。
これ、確かあの再生しまくるトロールと戦った時にやった魔法だよね。
けどあの時ってマリス色々魔法を発動させてたような………
「術式融合って、ホントコイツは何処まで………」
あ、何かフィルか頭を押さえてる。
となるとマリスがまた非常識な事をやってるって事か。
………うん、いつも通りだね。
「フィル、頭を抱えてるとこ悪いんだけど強化魔法お願い」
「………ええ、分かってるわ」
フィルはそう言うと少し頭を振り、そして祈るような仕草をし
祝詞の様な詠唱を始める。
直ぐに詠唱は完成し、私の両腕が光の膜を纏う。
「これでレンの腕力は相当底上げされたはずよ
………何をするのか知らないけど、絶対無事に帰って来て」
「ん、努力はするよ」
フィルの切実な表情につい安心させるようなことを言ってしまいそうになるが
戦いにおいてイレギュラーはつきものだ、絶対大丈夫なんて言えない。
「………ホント、レンは意地悪ね」
フィルがぼそりと呟く、うん…ゴメンねフィル。
「そろそろ魔法の効果が終わるよ~、ブレスの準備はオッケーかなリーゼ?」
「言われるまでもありません、行きます!!」
魔法の効果が切れた瞬間、リーゼの口が開き炎が勢いよく躍り出て
マリスの魔法によって炎に包まれていたカマキリ達を再度炎の奔流に叩き込む。
………さて、前回のトロールは耐えきったコンビネーションだけど
あのカマキリはどうかなっと。
十数秒後…リーゼのブレスが終わり、周囲には焼けた跡と結構な
焦げた臭いが広がってる。
さて、カマキリ達はっと………
「む~、やっぱり本命には効果なしか」
マリスの唸る声が聞こえる、盛大に焼き焦げた地面の中心に
他所通りデカカマキリが鎮座している、元の色が黒かった為
焼け焦げてるのか判別が出来ないね。
「………流石にここまでレベル差が開いてると
我のブレスすら抵抗しますか、正直屈辱です」
流石にドラゴンのプライドが傷つけられたのか、リーゼが珍しく
凄い顔でデカカマキリを睨みつけてる。
「ふむ、とは言え雑魚は全滅した様じゃの
となれば次は儂の出番じゃな」
私の少し後方で既に弓を引き絞ってるゼーレンさんが言う。
「嬢ちゃん達の突撃を合図に第一射を放つぞい
レン嬢ちゃんは何があっても真っ直ぐ敵へ向かってくれ、そうすれば
その後の状況が楽になるからの」
ゼーレンさんが私にそんな指示を飛ばす、真っ直ぐ敵に向かえって
言われなくてもそうするつもりだけど、ゼーレンさんが敢えてそう言ってるって
事は何か意図があるんだろう。
「分かった、それじゃリーゼ行くよ!!」
「はい、マスター!!」
私は溜めていた左足を踏みしめ、体勢を低くしカマキリに向かって駆け始める。
その少し後ろををリーゼが駆ける、さて…カマキリはどっちを狙うのかな?
突然の不意打ちに辺りを見回していたらしきカマキリだけど
近づいてくる私達に気付いたのかこちらに頭を向ける。
む…リーゼじゃなく私の方に向いてきたか、まぁ中身ドラゴンなリーゼよりも
私の方が弱い雰囲気だからターゲットをこちらに向けて来たって感じかな。
それならばと鎌の攻撃が届きにくい懐に飛び込んで行こうかと
更に踏み込みに力を込めた瞬間………
ゴォウッッッ!!
私の頭上を大きな音を立てながら何かが通過する。
これは………ゼーレンさんの放った矢かな?
間近に迫りつつあるカマキリの方に目をやると
盛大な金属音らしきものを立てながらカマキリの胴体が
仰け反ってる、どうやら胴体に命中したみたいだけど
ゼーレンさんが放った矢自体は刺さらず弾かれた様だ、着弾時の金属音からするに
コイツの外骨格は予想以上に固いみたい………ならば好都合だ。
カマキリが仰け反ってる間に懐に入り込んだ私はカマキリが体勢を立て直す前に
踏鳴を入れ、左腕の付け根部分に打撃を入れる。
ズンとした柔軟性のある手ごたえが帰ってくる、よし…予想通り。
その間にカマキリは体勢を立て直し頭をこちらに向けてくる。
おや…目が真っ赤っかになってギチギチと耳障りな音を口から放つ。
ありゃ、アレは怒ってるのかな?
体格差からして私の打撃が効くとは思えない、そもそもさっきの打撃はある事を
確認するためのモノだから本気の拳打じゃない。
となればゼーレンさんの射撃が私の攻撃だと認識してるって感じなのか
成程、私をデコイにして弓を放って私に敵対心を集めた訳だね。
確かにそれなら私に攻撃が集中し戦いやすくなる、やるねゼーレンさん。
とは言えそれは私がカマキリの攻撃を捌き切れれるという
前提の話なんだけど。
拳を引き、カマキリの出方を見ようと若干下がろうと瞬間
金切り音が消え、口から勢いよく液体を吐き出して来た!!
「うわっと!?」
思わず後方に飛んで躱す私、液体は地面に着弾し
そこから少しづつ小さな穴が開き始める。
うわ、コイツこんな攻撃もするの!?
溶解液を吐き出すカマキリとは………やっぱりこの世界の生物って
殺意が高いなぁ。
しかしカマキリの攻撃はそれで終わらない、思わず飛び退いてしまって
未だ空中にいる私に間髪入れず左鎌の追撃が来る!!
「やばっ!!」
まずっ、このままじゃモロに喰らってしまう!!
私は何とか体勢を変えようとするもも鎌の先端が腹部を狙っていて避けきれない。
せめて急所の直撃は避けようと腕でガードすようとするも
鎌の到達の方が一瞬早く………
ガキィ!!
迫りくる痛みに耐える為歯を食いしばった瞬間、前方から金属音が鳴り響く。
「大丈夫ですか!?マスター!!」
とっさに私とカマキリの間に割り込んだリーゼが戦斧を盾にして
鎌を防いでくれている。
「ありがとリーゼ、助かった!!」
無事に地面に着地してリーゼに礼を言う。
今のは危なかった、予想してなかった攻撃が来たとは言え
リーゼが防いでくれなかったら切り裂かれて大怪我、下手すればそのまま
真っ二つにされてお陀仏だ。
全く、油断ならないねホントに。
「はぁっ!!」
戦斧で受け止めた鎌を力任せに押し返すリーゼ、流石に力勝負では
リーゼに分があるらしくカマキリは鎌を跳ね上げられて後ろに後退させられる。
お……これはチャンス!!
「リーゼ!!悪いけどまた踏み台にさせて貰うよ!!」
私はとっさにそう叫ぶとリーゼの返答を待たず背中を駆け上がり
肩を踏み台にして跳躍する。
「マスター!?何を!?」
リーゼの驚く声が後方より聞こえる、流石にこれで
2度目だから後で怒られるかな。
そんな事を思いながらも私は視線の先にある跳ね上げられた鎌に飛びつき
刃の反対側を渾身の力で掴む。
そのまま体の勢いを殺さず、鎌の真上に逆立ちするような体勢を作り………
「さて、じゃ片一方の鎌貰っていくよ!!」
そのまま全体重をかけ、鎌の柄を握ったまま
鉄棒の大車輪の如く体を後方に勢い良く振り下ろす!!
バギャアァ!!
私の大車輪によってカマキリの鎌の部分に繋がる関節が無理矢理回転させられ
1回転もしない内に捩じ切られる!!
ギイイイィィィィィ!!
片腕をもぎ取られたカマキリが叫び声らしきものを上げ
切断面から盛大に体液を振りまきながら仰け反る。
「うっは、レンお姉ちゃんまた豪快な事するねぇ!!」
後方で興奮気味のマリスの声が聞こえる、まぁ大道芸っぽいことやったしね。
これで最大の武器の1つは奪い取った、後はこのまま畳みかけるのみ。
「ゼーレンさん!!」
「応!!」
私の声にゼーレンさんが応え、直後に第二射が放たれる。
放たれた矢は私の横を勢いよく通り過ぎ、光の軌跡を描きながらカマキリの
胴体に向かっていき………第一射とほぼ同じ所に直撃する!!
前回は弾かれた場所だけど、第一射で脆くなっていたのか
矢は弾かれることなくカマキリの体内を貫き、胴体を
両断するほどの大穴を開ける。
「すご………」
一部始終を見ていたフィルの呟きが聞こえる、そしてカマキリは
ゆっくりと体を傾け、地面に倒れ込んだ。




