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~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女  作者: にせぽに~
軌跡への遁走曲《フーガ》
114/209

マリスの奇策

「………アンタ、本当に大丈夫なんでしょうね」


フィルが何度目かの同じ質問をマリスにぶつける。


「だ~いじょうぶだって、フィルミールお姉ちゃんは心配性だね

 マリスが言った通りにしてくれれば何も問題はないよん」


何度も同じ質問を繰り返されてもマリスは気にすることも無く

いつも通り楽しそうな声であっけらかんと答える。

マリスからやらかす内容は聞いたけど、ホントこんな子供だましの様な事が

冒険者達に通じるのかな………


私達は今、地下の盗賊ギルドを出て商業区の中央広場付近の路地に身を潜めてる。

帝都の商業区には商人に露店を開かせる目的なのか、結構な規模の広場がある。

マリスに先導され例の地下通路からこの路地に出て来たんだけど………何でマリス

こんな道知ってんの?


「お、こりゃ好都合

 マリス達の賞金を狙って冒険者達が派手に動いてるみたいだねぇ

 その騒ぎで広場に露店を出してる商人がいないね、よしよし」


路地から広場を覗き込んだマリスがそんな事を呟く。

フィルの言ってた視覚強化の魔法とやらを使ってるんだろう、広場まで

結構な距離があるのにマリスは見えてるっぽい。


「………だけど、そこそこな人数の冒険者達がうろうろしてるわね

 待ち伏せでもしてるのかしら?」


マリスの頭上から同じように覗き込んでるマリーさんが言う。

いや、何でこの人まで来てるんだろう………


「えーっとマリーさん、手伝ってくれるのは非常にありがたいんですが

 何も貴方までこんな危険な事に首を突っ込まなくても………」

「何言ってるの、こんな面白そうな事特等席で見なくちゃ損じゃない♪

 心配してくれるのは嬉しいけど、私が自分の身は自分で守れる事

 貴方達は知ってるでしょ?」


私の言葉にマリーさんは心底楽しそうな笑顔で言葉を返す。

そうなのだ、協力してくれるって言ったマリーさんなんだけど

根無し草な私達と違ってマリーさんは帝都に帰る場所がある。

だからこんな事に付き合うのはリスクが高すぎるのに

リターンなんてほぼない、なので断るつもりだったんだけど………


「あら、こんな面白そうな事混ぜてくれないなんて酷いわね

 大丈夫よ、私達のお店は冒険者相手じゃないからあいつらの恨みを買ったって

 なんら影響なんて無いわ、それに私もデューンも荒事には慣れてるしね」


そう言って実に楽しそうな笑顔で私達についてきたのだ。

………マリスと言いマリーさんと言い魔導士って

トラブル大好きな人達ばかりなんだろうか。


「それで、どうするのマリス?

 私にできる事があれば手伝うけど?」

「んにゃ、マリーお姉ちゃんにやって欲しい事は無いかな~

 特等席でマリス達の活躍を見てくれればいいよん」

「あら残念、けどそう言う事なら特等席で見物させて貰うわね」


この人達、ホントに今の状況を楽しんでるなぁ。

一歩間違えれば皆殺しにされる可能性だってあるのに、ホントいい性格してるよ。


「んじゃ、そろそろ行動開始するけど心の準備はいいかな~

 レンお姉ちゃん、リアの事はお願いするよん」


おっとそうだ、修羅場慣れしてる私達は兎も角リアは不安で仕方ないだろう

そう思って腕の中のリアの顔を見ると………


「………?」


どうしたの?と言う感じで視線を合わせ首を傾げて来る。

………あれ?もしかしてリア不安がってない?


「リア、怖くないの?」


思わずリアに尋ねる、だけどリアはきょとんとした顔で


「ん、レンがいるから大丈夫」


まるで当然の事の様に返して来る。

………参ったねこりゃ、こうなるとこの子の前で無様な姿は見せられなくなる。

何かリアの不安を取り除くつもりが逆に私の士気を高める形になったね。

我ながら単純、だけど結果オーライかな。

ちらとフィルの方も見る、フィルはすぐに視線に気づいて頷いてくれる。

ん、フィルの方も大丈夫っぽいね。


「大丈夫、何時でも行けるよマリス

 リーゼ、面倒な事を頼むけど頑張ってね」

「了解しました、ですが心配無用です

 この程度の事など造作もありませんので」


リーゼはいつもの冷静な表情で返事をするけど、ホントに大丈夫かなぁ。

ドラゴンに()()()()させるなんてどうなるか予想もつかないんだけど。


「だーいじょうぶだって、んじゃ行こうかね~」


マリスそう言うとおもむろに路地から身を出し、中央広場に歩いてく。

あ…走らないんだ、となればリアを抱っこしている意味はあまりないね。


「リア、歩ける?」


私はリアに問いかける、リアはこくんと頷き私の腕から

するっと降りて地面に立ち、私の後ろに回り込む。

ん、いい子だね。

私はそれを確認した後、路地から抜け出しマリスの後について行く。

それに倣って仲間達が私の背中を追ってくる。


「頑張ってね、土産話を待ってるわよ」


マリーさんは笑顔で手を小さく振り、路地の壁に背を持たれて私達を見送る。

軽く言った言葉だけど、土産話と言う単語を出したマリーさんは

私達が戻ってくると信じてくれてるみたいだ。

ん………ならその期待には答えないとね。

私は振り向かず、その言葉に返す様に左手を上げた。







「………なっ、テメエ等!?」


程なく中央広場に差し掛かろうとした時、当然ながら冒険者の1人に見つかる。

まぁ、こんな堂々と歩いてたら当然だよね。

その声に広場中の冒険者の視線が集まる。

ざっと数えて10人弱…思ったより少ないね、他の冒険者は

今も帝都を駆けずり回ってるんだろう。


「やっほ~、お金に目に眩んだおっちゃん達

 いやはや精が出るねぇ~、あははははは♪」


のっけから冒険者達を煽り始めるマリス、滅茶苦茶楽しそうだね。

当然ながら広場にいる全員の視線に殺気が籠る………って

いや、戦いを生業とする人達がこんな安い挑発に乗っちゃダメでしょ。

余りのストレート過ぎる思わず突っ込みたくなってくる。

追われてる人が姿を晒したら何かあると警戒するもんだと思ってたけど

この世界の冒険者って単純な人が多いなぁ。

………まぁ、誰でもなれる職業だしそんなものなのかも知れないけど。


「フン、何のつもりか知らねぇが探す手間が省けたってもんだぜ

 最近実入りのいい仕事が減ってきてるんでな、ここらでデカく稼ぎてぇんだよ」


冒険者の1人がそう吐き捨てるとそれが合図かの様に一斉に手持ちの武器を抜く

ん~、誰も彼も実戦は経験してるけど訓練された動きじゃないね。

それに殺気は込めてるけど、視線自体はまだ私達を「美味しい獲物」とでしか

見て無いね、自分達が相手より強いと思い込んで油断してる視線だ。

………マリスの読み通り、これなら()()()()()()()()()()()だね。

そんな冒険者達に対し、マリスはいつもの飄々とした態度を引っ込め



「へぇ~、おっちゃん達マリスに勝てる気でいるんだ

 マリス達が()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



眉間に皺を寄せて口角を上げ、いかにもな邪悪な笑みを浮かべる。

うっわ、マリスこんな表情も出来たんだ………


「………何だと?」


いきなり雰囲気の変わったマリスに一瞬たじろぐ冒険者。

そりゃそうだよね、ただの小娘にあんな表情をされたら普通ならドン引くよ。


「不思議だと思わない?マリス達みたいな小娘の集団が

 な~んであんな高い賞金をかけられてるのか

 普通じゃあり得ないよねぇ………」


一瞬の怯みを見逃さず畳み込むマリス。

ちなみに何故私達が賞金を懸けられたかっていう経緯は

手配書には書かれてなかったっぽいんだよね。

まぁ経緯が経緯だし、それに冒険者にとって報酬の額が問題であって

経緯なんて知ったところで意味はないからね。

………けど、だからこそ()()()()()()()()()()が出来る。


「実はねぇ、マリスちょっとした魔法を見つけちゃってね

 それが中々にヤバい魔法だったらしくて、それで帝国に

 協力者だったお姉ちゃん共々賞金を懸けられちゃったんだよね~」


マリスは笑みを浮かべたまま話をつづけ、そして仕込んでいた魔法を起動させる。


「………!?」


思わず後ずさる冒険者達、完全にマリスの雰囲気にのまれちゃってるね。

ブラフと演出を交えて思考を硬直化させるなんて

やってる事が完全に詐欺師の手口だ、見事なものだよ。


「本当は人知れず帝国を離れようと思ってたけど

 ここまで追い回されるなら仕方ないね

 それじゃ、特別に見せてあげようかね!!」


邪悪ムーブノリノリなマリスが手を掲げ、魔法陣が光の柱となって天に上がる。

来るべき脅威に身構える冒険者達、けど魔法のターゲットは彼らではなく………


「ぐ………ぐぁぁぁぁ」


光の奔流はマリスの後方で立っていたリーゼに降りかかり

リーゼの身体が光に包まれ、途端にリーゼが苦しみ始める。


「な………何だ?」


完全に予想外の展開に固唾を飲みリーゼに視線を釘付けにする冒険者達。


「あ………あああアアアアアア!!」


苦しむリーゼの皮膚が変色し、鱗が生え始める。

それと同時に身体が不自然に隆起して服を破り、人間の形を崩しながら

巨大化していく。

余りの異常事態に目を離すことが出来ない冒険者達、やがて………



「う、嘘だろ………」



目の前の事態が信じられないのか力ない言葉を吐く冒険者。




………そこには、金色の鱗を纏った1匹のドラゴンが立っていた。

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