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~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女  作者: にせぽに~
軌跡への遁走曲《フーガ》
110/209

追われる者達

「いたぞ!!あそこだ!!」


朝から昼に変わる時間帯、いつもなら仕入れを終わらせた商人達や

目ぼしいものを求めて店を覗く客などで喧騒が始める前の商業区に

武器を携帯した男達の怒号が響く。


「ありゃ、もう見つかっちゃったか」


その数10メートル先には旅の準備を整えて疾走する私達がいた。


「…………ッ!!この能天気魔導士!!

 な~にが『急がず普通に歩いてた方がみつかりにくい』よ!!

 早速見つかってるじゃない!!」


リーゼの腕の中のフィル………筋トレを始めたとは言え

流石に一般女性と変わらない体力しかないので私やリーゼに合わせて

走るなんて出来る筈も無く、取り敢えずはリーゼに頼んで運んでもらっている。


「あはは~、前に賞金首になった時はそれで切り抜けれたんだけどね~

 やっこさん、結構本気でマリス達を捕まえたいみたいだ~ねぇ

 結構なお金バラまいてるよ、いやはやご苦労なこったね~」


そしてフィルと同じくらいしか体力が無い筈のマリスは笑いながら

私やリーゼと並んで走ってる。

何か魔法で走力や持久力を強化してるみたいなんだけど………

相変わらず何でもできるねマリス。

けど賞金首になったってどー言う事かな?


「まぁ昔ちょっとね~

 とは言えこんなに早く見つかるなんてちょ~っと想定外だね」


私の表情で思考を読んだのかマリスはあっけらかんと答える。

しかし、確かに見つかるのが早すぎた。

とりあえずの旅支度は済ませたけど、帝都を脱出するとなれば

兎にも角にもマリーさんに預けているお金を回収しなければならない。

正直今の持ち合わせで旅に出ようとなれば野宿&食料調達

しながらになるのは確実だ、私達は兎も角流石にリアにそんな旅路は酷だろう。

取り敢えずはマリスの提案で人形達の宴から出た後は怪しまれない様

なるべく普段通りに歩いてデューンさんの家に向かったんだけど………


「まさか、10分もしないうちに見つかるなんてね

 冒険者ギルドの他にも手配書が回ってたって事かな」


私は走りつつそう呟く。

ぶっちゃけ逃げるのはかなり得意だ、昔お爺ちゃんに

1週間ほど耐久鬼ごっこ(鬼はお爺ちゃん)を何度もやらされてたからね。

………捕まったらしごきが3倍程になってたからそりゃもう必死で逃げたよ。


「レン………大丈夫?」


私の腕の中にいるリアが心配そうな声で話しかけて来る。

寝ているリアを抱いて外に出たけど速攻見つかって逃げる羽目になり

当然ながら寝てるリアは起きてしまう。

いきなり状況が一変して戸惑ってたけど、取り合えず私の腕の中にいる限りは

安心なのか、直ぐに落ち着いてくれた。

取り合えず走りながらざっと状況を説明し、一先ず大人しくして貰ってる。


「心配ないよ、リアは軽いから抱えててもいくらでも走れるよ

 それよりゴメンね、怖い思いをさせちゃって」


私は不安にさせない様に笑顔でリアに返事をする。

………リアもかかわってる事だとは言え、結局は選択させる余裕も無く

巻き込むことになってしまったのが悔やまれる。

そんな心境を悟ってくれたのか、リアは小さく首を振り


「………大丈夫、レンがいるから」


そう言っていつもの様に私の服をぎゅっと掴む。

………やれやれ、信頼されてるね。

フィルと言いリーゼと言いリアと言いどうして

こうも簡単に私を信頼してくれるのやら。

お陰でこっちも信頼で返さないといけなくなるんだけどね。


「マスター、前方に武装した人間の雄が数人います」


目のいいリーゼが前方の状況を教えてくれる。

ちっ…先回りされたか、私はとっさに周囲を見回す。

いくつか細めの路地が見えるけどこの辺の地理には全く不案内だから

入り込むのは完全に賭けになるね、下手をすれば袋小路で

追いつかれる可能性だってある、さてどうするか………


「レンお姉ちゃん、そこの路地に飛び込んじゃって~」


判断しかねている私にマリスが1つの路地に指を差す。

建物と建物の間にかろうじて人1人が通れるぐらいの狭い路地だ。

いや、路地って言うより建物の隙間って言った方がいいぐらいの幅しかない。


「マリス、あそこに何かあるの!?」

「取り合えずはね

 あ、ちょっと進んだらすぐに行き止まりだからそこに着いたら

 しゃがんで目と耳を塞いどいてね~」


私の質問にマリスが意味の分からない返答を返す。

しゃがんで目と耳を塞げって………何か爆発でもさせるんだろうか?

色んな疑問が浮かんで来るけどマリスのやる事だ、突拍子は無くても

意味のない事じゃない筈だ。


「今更疑わないけど…信じてるよ、マリス」

「もっちろん、期待には応えるよ~」


私の返答にマリスはにかっと嬉しそうな笑顔を返す。


「よし、リーゼも聞いてたね

 このままあの路地に逃げ込………」

「待って下さいマスター!!

 あの程度の人間共なら我は容易に蹴散らせます

 なのになぜ逃げを打つのですか!?」


しかし意外な事にリーゼが反発する。

う~ん、確かにそうなんだけどこの場で足を止めるのは不味い。

直ぐに取り囲まれて乱戦状態になるのは目に見えている、そんな騒ぎを起こせば

他冒険者や下手すれば衛兵まで駆けつけて脱出が困難になりかねない。


「今は戦ってる場合じゃないからだよ

 自分より弱い者から逃げるのは屈辱だろうけど今は我慢して、リーゼ」


私の言葉にリーゼは苦虫を潰したような顔になる。

………力こそが正義のドラゴンにとって弱者から逃げなければいけないというのは

恐らく凄い苦痛だろう、今のリーゼの表情からも読み取れる。

けど…戦ってる場合じゃないのも事実なんだよ、リーゼ。


「………了解、致しました」


それでもリーゼは自らの感情を噛み殺し、指示に従ってくれる。

………ホント、迷惑ばかりかけてゴメンね、リーゼ。

リーゼの見つけた冒険者が視界内に入る前にの路地に滑り込む。

おっと…見た目より狭いねここ、リーゼでギリギリ走れるくらいの幅しかないよ。


「逃がすか!!」


当然ながら背後の冒険者達もついてくる………が私達より体の大きな

冒険者達は身を傾けながら窮屈そうに追いかけて来る。

流石に追跡スピードは激減し、あっという間に差が開くも

マリスの言った通り直ぐに建物の壁………つまり袋小路に辿り着いてしまう。


「よしよし、上手くここに辿り着けたね。

 みんな、先の指示通りによろしくね~」


マリスはそう言いながら胸元をごそごそと弄ってる。


「指示通りって、ここ完全に袋小路じゃない

 ここに何があるって言うのよ………」


リーゼの腕の中から降りたフィルはきょろきょろと辺りを見回す。

確かに何の変哲もない袋小路だ、しかも三方を建物に囲まれてるから

乗り越えることも出来そうにない。


「取り合えずマリスの言う通りにしよう

 リア、ちょっと降ろすよ」


私はリアを降ろす、リアはそのまましゃがみ込み

マリスの言った通りに目を閉じ耳を塞ぐ。

私はリアとマリスの間に立ち、リアを庇う様にして同じ様にする。


「ホントに大丈夫なんでしょうね………」


フィルも半信半疑ながらもそれに続き、最後にリーゼが皆の前に

庇う様に立ち、目と耳を塞ぎしゃがみ込む。


「おっけーい、んじゃ欲深い冒険者さんに

 閃光と爆音をプレゼントだよん♪、そーれっ!!」


僅かに聞こえたマリスの声、すると次の瞬間………

塞いだ耳を貫通するほどの爆音と、瞼の裏ですら感じられる程の

光が辺り一面に広がる!!

噓!?これってまさかXM84(フラッシュバン)!?

過去の()()()の記憶が蘇る、あの時はとっさに使われて

ノルマを達成できなかったんだっけ、流石に本物が自衛隊以外でもあるなんて

想定外だったからもろに喰らっちゃったけど………

そんな苦い記憶を振り返ってる間に、爆音と閃光は消え失せる。

終わったかな?と私は目を開け耳を塞いでいた手を降ろす。


「がああああああああ!!」


冒険者達の叫び声が聞こえる、見ると目を押さえて悶え苦しんでる。

XM84(フラッシュバン)をもろに受けた仕草そのものだ、そんなものが異世界(エルシェーダ)にあるなんて

改めてびっくりだよ。


「んっふっふ~、マリスお手製の爆閃(ドカピカ)魔晶石

 気に入ってくれたかな~?」


マリスが悶え苦しんでる冒険者達に向かってドヤ顔で言い放つ。

多分聞こえてないと思うけど………いや、マリスならそれを知ってて言ってるんだろう。

あれマリスが作ったんだ、まぁ流石にXM84(フラッシュバン)そのものがここ(エルシェーダ)にある訳ないよね。

だけどさマリス…相変わらずネーミングセンスはいまいちだよ。


「アンタ………何やったの?」


唖然とした表情でマリスに質問するフィル。

まぁ知らなければそんな表情になるよね………


「ん~、ちょっと面白い調節をした魔晶石をぶん投げただけだよん

 とは言え、精々目くらましと足止めしかできない代物だけどね~」


そう言いながらマリスは地面をコンコンとつつき始める。


「とは言え、これを見つけられるわけにはいかなかったからさ

 ちょっとの間悶えててもらってるんだよ」


マリスは数度地面をコンコンと叩き、パチンと指を鳴らす。

すると………今まで何の変哲も無かった地面が消え

地下への階段が現れる。


「なっ………ちょっ!?」


いきなりの事に絶句するフィル、マリスの事だから何かあるとは思ってたけど

こういう事だったのね。


「驚いてるとこ悪いけど、取り合えずここに入るよん

 そろそろあそこのおっちゃん達も復活するから急いでね~」


そう言って何のためらいも無く階段を下りていくマリス。


「何度言ったか分からないけど、ほんっとに何者なのよアイツ………」


フィルの呟きが、階段の奥へと吸い込まれて行った。


XM84とはアメリカで使用されれているフラッシュグレネードです。

日本では立てこもり犯を制圧するときによく使われてる非殺傷兵器ですね。

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