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~時薙ぎ~ 異世界に飛ばされたレベル0《SystemError》の少女  作者: にせぽに~
帝国と王国の交声曲《カンタータ》
102/209

傷ついた心

「………予想はしてたけど、胸糞悪い話ね

 出来る事なら、私が乗り込んでやりたい所よ」


いつも朗らかなマリーさんが眉を顰め不機嫌を露にした表情でそう呟く。

その横で同じような表情のデューンさんが静かに立っている。

………何というか、料理人とウェイトレスの出す様な迫力じゃないね


ギルドの報告を終え、人形達の宴(ウチ)に帰って来た私達

そこには早めに店を閉めて私達を待っていた2人がいた。

ずっと個人的に奴隷娼婦(スレイブ・ホア)を支援してきた人達だ

今回の依頼の顛末は是非とも知りたいとこだろう。

………たとえその事実が凄惨なモノだろうとも。

なので私達は包み隠さずありのままに2人に報告する。


「どうやら僕は彼女達の処遇を相当甘く見てたようだね

 一時的な気休めにでもなればと思って食事を提供してたけど

 そんなもの何の意味も無い位な状況だったなんて………」


デューンさんがまるで血を吐く様に重苦しく言葉を紡ぐ。

けど、この人が悪い訳じゃない。


「罪悪感を感じるのも無理は無いけど、1番悪いのはあの人達を攫って

 好き放題した輩だよ~、むしろデューンお兄ちゃん達には

『あの食事が無ければここまで生き延びることは出来ませんでした』って

 言ってて凄く感謝してたよん」


暗い表情を見かねたのかマリスがいつもの明るい口調で言う。

そうなのだ、攫われた女性達と別れる際彼女達から

「あの料理人さん達にお礼を伝えてください」と頼まれてたんだよね。

だから、デューンさん達がやってたことは決して

無駄なんかじゃなかったと思う。


「………そっか、そう言って貰えると少しは救われるよ」


デューンさんの表情が少しだけ和らぐ、これで少しは罪悪感が

消えてくれればいいけど。


「それで、その子以外の女性達は全員至高騎士(グレナディーア)

 国に帰す訳ね」

「そういう事、元々私達に拠点を探らせる為に依頼したようなものみたいだし

 最初から救出は自分達でやる腹積もりだったみたい」

「ま、その方が確実よね」

「そのお陰でマリスはデューンお兄ちゃん達に

 余計な在庫抱えさせる事になっちゃったけどね~」

「あははは、まぁその辺りは必要経費だと思う事にするよ」


フィルやマリスが軽い口調で話し始めたお陰で少しだけ雰囲気が明るくなる。

………うん、この店に暗い雰囲気は似合わないしね。


「状況は理解したわ、みんな不甲斐ない私達の代わりにあの子達を救ってくれて

 有難う、心から感謝するわ」

「うん、僕からもお礼をさせて貰うよ」


そう言って2人は頭を下げる。


「お2人が頭を下げる必要はありませんよ、私達も自分の都合で

 この件に関わったに過ぎませんから、それに………」


とは言え、この2人は頭を下げる理由なんてどこにもない。

それどころか………


「お2人………特にデューンさんには

 今後さらにご迷惑をかける事になるかもしれませんので」


私はそう言って未だ腕の中で目を覚まさない女の子を見る。


「………そうね

 彼女達を救い出したところで全ての問題が解決する訳じゃないものね」


マリーさんが私に近づき、心配そうな顔で女の子を見る。

そしてすぐに私の方へ向き


「ねぇレン、その子が本当にデューンを見て泣き叫んだりするの?

 デューンとその子は会った事も無いのに」


そんな疑問を私にぶつけて来る。


「………残念ですけど、可能性は高いです

 この子は『若い男性』に散々恐怖と苦痛を与えられ続けて

 心に刻み込まされました、それ故に容姿は関係なく

 若い男性に恐れを感じて取り乱すかもしれません」

「ふむむ………1度高い所から落ちて、それ以来高い所が

 苦手になるようなものなのかな?」

「それのもっと酷い状態だと思ってくれていいかな

 高い所に上がったら怖くて暴れだす感じ」

「………成程ね」


私の説明にマリスが例え話を出し、それでマリーさんは理解してくれたみたい。


「それなら僕はこの場から退散したほうがいいかな

 不必要にその子を怖がらせることも無いだろうしね」

「………すみません、ここは貴方のお店なのに」

「いいよ気にしないで、元々営業中は調理場に引っ込んでるんだしね」


そういってデューンさんが歩き出そうとした瞬間――――






「………………ぁ」






      ――――ゆっくりと、女の子が目を開ける。






「………ありゃ、タイミング悪いね」


マリスがそう呟く。

確かにタイミングは悪い、だけどこの子の心の傷が如何程かを大まかに

判別する機会でもあるんだよね、ならこの状況のまま様子見させて貰おう。


女の子は意識が完全に覚醒したのか、ぱちぱちと瞬きをする。

そして周囲の状況が変わってるのに気づき

きょろきょろと周囲を見回し………私と目が合う。





「レン………ここ、どこ?」




少し不安そうな表情でたどたどしくも、はっきりと声を出す女の子。

救出した時は一言も喋らなかったから失語症も疑ったけど

ここまではっきりと声が出せるならその心配はないかな。

それに私が「レン」と言う名前だという事も認識してる、どうやら

最悪な事態は考えなくても良さそうかな。


「ここは『人形達の宴』って名前のレストランだよ

 私達はここに住んでるんだ」


私はゆっくりと、そしてできるだけ怖がらせない様に

優しく女の子の問いに答える。


「ここが………レンの、おうち………」


女の子はそうやって再び周囲を見回す。

そしてフィルやマリス、リーゼを目に止める。


「みんなも………ここに住んでる?」

「ええ、私達もレンと一緒にここに住んでるわよ」


女の子の問いに今度はフィルが優し気な表情で答える。

女の子は一瞬びくっ、とするも怖がる様子も無くフィルを見つめている。

………ここまでは大丈夫だね、だけど1番厄介な可能性がまだ残ってる。


「………デューンさん、この子に話しかけてあげてください」

「えっ!?そんな事していいのかい?」


デューンさんは驚いた声を出す。

それはそうだ、さっき私が男を見たら取り乱すかもしれないと言ったばかりだ。


「危険な賭けになりますが、この子の為に確認をしなければなりません

 お互いに不快な思いをする事になるかもしれませんが………

 ですが、お願いできないでしょうか?」


私はそうデューンさんに訴える。

………言った通りかなり危険な賭けだ、下手をすれば

この子の心はさらに傷つくかもしれない。

だけど、はっきり言ってそれは遅かれ早かれ確認しなければならない事柄だ。

なら、この子には悪いけど比較的安定してる今の状態で試してみるしかない。


「………わかったよ」


若干躊躇の表情を浮かべたけど、デューンさんは了承してくれた。

デューンさんはゆっくりと女の子に近づき、声をかける。


「初めまして、僕もご挨拶させて貰っていいかな?」


デューンさんは凄く優しげな声で、女の子に声をかけた。

その様子は普通の女の子なら勘違いしてしまいそうな程イケメンだ。

声をかけられた女の子はゆっくりと振り向き、デューンさんと見つめ合う。


「………………」


女の子は一瞬緊張した顔になり、私の服をぎゅっと握りしめる。


「………大丈夫だよ、この人は私の友人だから

 この人は、貴方を傷つけたりしないから」


女の子が何時暴れだしてもいい様に抱いている腕に少し力を入れつつも

私はデューンさんが危険な人じゃない事を女の子に訴えてみる。

これでダメなら少し大変な事になるけど………


「………………」


そんな私の考えを他所に、女の子はじっとデューンさんを見つめる。

やがて、ぎゅっと握りしてめいた手の力が緩む。

………どうやら、大丈夫の様だね。

私はホッとしてデューンさんに目配せし、デューンさんは僅かに頷いてくれる。


「僕の名はデューン、『人形達の宴』の主でコックをやってるんだ

 良ければ、君の名前を教えてくれないかな?」


デューンさんはごく自然に自己紹介と、女の子の名前を聞く。

地下室では全く答えてくれなかったけど、今はどうなんだろう。

女の子は私の方へ振り向く、自分が名乗ってなかったことに気付いたのかな?


「うん、私もあなたの名前が知りたいな」


私は女の子に微笑み返しそう告げる、女の子は一瞬だけ逡巡した後

ゆっくりと口を開き………








            「………リ、ア」







躊躇いがちながらも、はっきりとした声で自分の名前を告げた。

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