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回顧録  作者: 柿原椿
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英雄になり損なった話

 僕が通っていた中学校は、近隣の小学校卒業生のほとんどが入学するから、総生徒数が1000人近くて、一学年八クラスくらい編成しなきゃいけないくらいのマンモス校だったんだけど、対照的に、通っていた小学校は、一学年70人程度の小規模な学校だったんだよ。


 僕の学年だけなぜか多くて、100人いたからクラスは三クラス設けられていたんだけど。


 まあぶっちゃけると田舎なんだな。

 裏にはイノシシ注意の立て札がある梅林があるし。


 だから敷地が広かった。校内にも自然が多かった。


 北庭って呼ばれるエリアにはビオトープって呼ばれてた池があって。U字型の、それなりに大きい池。

 その池の、Uの底に当たる部分には飛び石が一つあって、渡れるようになってたんだけどさ。

 それでも小学生低学年には飛び越えられないくらいの間隔があったんだよね。小学生って、周りの誰もできないことをやったら勇者みたいなこと考えてたりするじゃん?

 うちの学校でも、一年生二年生あたりの子どもがその飛び石を渡れたら英雄! みたいな風潮があって。


 で、小学生の時は、僕も外で遊ぶ健康優良児だったから、その日も元気に北庭で遊んでたんだけど。

 ふと跳んでみたら、その飛び石を渡れたんだよ。自分でもびっくりしちゃって。

 でも残念なことにそれを誰も見てなかったんだわ。悲しいね。

 だから近くに来た友人の西本くんに「今から跳ぶから見てて―」って叫んだのね。


 英雄になれるぞってワクワクして。

 一回跳べたんだからもう一回いけるっしょとでも思ってたのかな。

 今度はちゃんと人の目の前で。思いっきり。



 落ちました。

 ドッポンと派手な音を立てて。

 池は意外に深かった。小柄だった僕は肩まで臭い池に浸かってポカンとしてた。よく覚えてないけど、もしかしたら泣いたかもしれない。

 どうやって池から出たのかも覚えていない。


 ただ保健室でシャワーを浴びて、替えの服を着て帰った覚えはある。



 後から(中学生の時)西本に聞いた話では、「見て―」という僕の声に振り向くと、僕がまさに池に落ちる瞬間だったらしい。

 元気に池にダイブしたように見えたと。

 そんなわけないだろ落ちただけだよ。

 何やってんだろじゃねえ、落ちたんだよ。



 そんな純粋で元気なちびっこが、何をどう間違ってこんな青年になってしまったのか、つくづく疑問に思う。

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