インターバル(エンプラ校
「黙ってましたね?」
「えっ、何を?」
クロエに詰め寄られ、レベッカはとぼけた表情を見せる。
「あの8番ですよ。あんなすごい選手がいるなんて聞いてませんよ」
「言ったら、あんた今日来なかったでしょ」
「当たり前ですよ。なんならアクロスを辞めて、別の競技に転向してますね」
「それなら正解だったね。言わなくて」
クロエはレベッカを睨む。
「ふざけないでくださいよ」
「でも彼女、ホントにスゴイでしょ」
「えぇ、あなたがアークロイヤルって呼んでるのも少しわかる気がします」
「私ね。昔、荒れてたんだ」
「昔? 今は違うんですか?」
「ハッハッハ。これでも丸くなったんだよ。それでね、毎晩遅くまで悪いダチと遊んでたんだ。学校も行かないでね。いつものように遅く帰った時ね。酔っ払ったオヤジがテレビを消し忘れて寝ていたんだ。そこにね、写ってたんだ。ダイジェストだったけどね。エンタープライズ対式島校のアクロスの試合がね。鷲尾岬って名前だった。すごい選手だったよ。素人の私でもすごいってわかった。うちらのチームは彼女一人にやられてたね。ザ・エンペラーって呼ばれてた。その後ろ姿は、皇帝の貫禄があったね」
「なんの話ですか?」
「まぁ聞きなよ。私は彼女に憧れた。やんちゃは辞めてね、アクロスを始めた。必死に練習した。勉強もやった。この学校に入りたかった。そして去年、レギュラーで出場させてもらった。でもそこに皇帝はいなかった。そりゃそうだよね。学年が違うんだ。皇帝のいない式島校は、言っちゃ悪いがつまらないチームだったよ。でもね、途中交代で彼女が入ってきた」
「それが8番ですか?」
「そう。私はシビレたね。まわりは気づいてないようだったけど、私は一瞬でわかった。こいつは別格だって。彼女はきっと、このチームを復活させる救世主になる」
「それで救世の船。アークロイヤルですか」
「そう。実際、面白いチームになってるだろ?」
「どうですかね。あの6番は、わけわかりませんが。あれも隠してたんですか?」
「あれは私も知らないよ。アークロイヤルがあんなのを連れてくるなんてね」
「どーすんです? 結局、長々話されて、解決策の一つも出てきませんでしたよ。ハリウッド映画の会議シーンでももう少し、実のある話をしますよ」
「あんたが、いるじゃないか」
「冗談。私はコミックヒーローじゃないんです」
期待してるよ。と肩を叩くレベッカに、クロエは大きくため息をついた。