1Q-2
「すみません。ヒメ先輩」
「仕方ないさ。切り替えていこう」
落ち込みながら戻ってくる真希奈に姫子は励ましの言葉をかける。
「ごめん、ヒメ。それにしてもすごいね、あの21番、相変わらず」
そう言いながら恵も寄ってきた。
「あの人は?」
「あれが向こうのエース。21番、レベッカ・テーラー。通称、ファイアシャーク」
真希奈の質問に、姫子が答える。
「ファイアシャーク?」
「そう。彼女のドライブが凄すぎて、止めに入ったディフェンダーをかわす時に、かすめた肌が摩擦熱で焼ける事から、ファイアシャークって呼ばれてる」
「さらに言うと、攻守交代から一気に得点まで持っていくことをファストブレイクって言うんだけど、彼女の場合だけは、その凄まじさからファイアクラッカーって呼ばれてる」
姫子の説明に恵が付け加える。
「なんかスゴい人なんですね」
「そうね。メグ、彼女には私がつく」
「わかった」
「真希奈、あなたは気にせず前にいきなさい」
「わっ、わかりました」
姫子の指示を受け、皆が散っていく。
フィールド中央、姫子の前には、2番、クロエ・クラークがやってくる。
(レベッカは右サイド)
視界の端で捉える。
ドロー。
ボールは小さく跳ね、エンプラ校陣地へ飛んでいく。
(この2番、うまいな。うまく自陣へボールを飛ばした。普段、この子がドローをやっているのか。じゃあさっきレベッカが出てきたのは、彼女の酔狂か)
そんなことを考えながら、すぐさまレベッカの方へと向かう。
レベッカのマークについていた恵と変わって。
ボールは11番のアメリアがキャッチすると、すぐさまレベッカへとパスを出す。
「おっともう来たね。アークロイヤル」
レベッカはボールをキャッチすると、姫子をかわそうとするが、うまくかわせない。
「さすが。そうそう上手くはいかせてもらえないか」
レベッカはすかさず、パスを出す。
キャッチしたのは、先ほどドローしたクロエだ。
クロエはすぐさまそのボールをレベッカへと返球する。
姫子がパスに気を取られているスキに、レベッカは姫子をかわすと、クロエの返球を受けようとする、が、ボールは届かない。
姫子が後ろ手にクロスを伸ばし、ボールを奪う。
「インターセプト!」
どこかで誰かの声が聞こえる。
「アークロイヤルゥゥゥ!」
姫子は、すかさずそれを前線へとパスする。
キャッチしたのは真希奈だ。
真希奈はそれをキャッチすると、自分についていたエミリアのクロスを、自身のクロスを回転させながらかわし、抜いていく。
「ほーうまいじゃないか、あの6番。だが、、、」
レベッカがつぶやく。
エミリアを抜いた真希奈の前に、長身のディフェンダー、68番イザベラ・スミスが立ちはだかる。
真希奈は、先ほどと同じように、巧みなクロスワークで抜こうとするが、イザベラのクロスが一閃され、ボールが落ちる。
「え?」
「そう簡単にはやらせない」
イザベラがニヤリと笑う。
「ベルのクロス捌きは高速かつ精確無比でね。確実にチェックすることから、ヘルハンマーと呼ばれてる。そんな彼女には、ハンマーシャークなんてあだ名もついてるのさ」
「そう。なら!」
レベッカの、聞いてもない情報に、答えると、姫子は一気に加速する。
真希奈のクロスからこぼれ落ちたボールは、先ほどかわされ、その後、後ろに迫っていたエミリアに拾われる。
しかし姫子は、エミリアのクロスをチェックすると、浮いたボールをすかさずキャッチ。
後ろから迫るレベッカをかわしつつ、身体を回転させながら、クロスをムチのようにしならせ振るう。
放たれたシュートは、遠心力により高速の弾丸と化し、ゴールへと突き刺さった。