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飛龍をやっつけよう

第三十四話 飛龍をやっつけよう


 戦斧物語 著 エージ


 ガレンドール公は代々伝わる、青白く光る宝剣を抜きました。


 「よくも我が領を荒らしてくれたな! お前の好きにはさせない、邪竜よ!」


 公は伝来の宝剣を真っ赤なワイヴァーンに振り抜きます。ワイヴァーンは腹部に伝来の宝剣を突き刺します。


 「死ぬが良い、邪竜!」


 「ぐぬぬ、噂以上の強さよ。我ではそちに勝てぬ! だが見よ!」


 「きゃぁぁ! あなた! 駄目よ、私ごと斬り殺して!」


 「ガレンドールよ、剣を捨てよ!」


 ワイバーンは巨大な体から血を流しています。息も絶え絶えです。しかし、かぎ爪にはお后が握られていました。


 「卑怯な・・・」


 公は剣を投げ捨てます。卑怯なワイヴァーンは剣を折りました。公の顔は苦痛に歪みます。ワイヴァーンは公もかぎ爪で握りました。かぎ爪が公に食い込み、血が流れます。


 「后よ、我の傷を治せ。ガレンドールを殺すぞ」


 「止めるんだ!」


 后が魔法を掛けると、ワイヴァーンの傷が治っていきます。


 「ふははは! もううぬ等に用は無いわ!」


 ワイヴァーンは二人を投げ捨てると飛んで行きました。公は口から血を吹き出しています。后も地面に打ち付けられ、全身の痛みに襲われる中、祈り始めました。


 「女神よ、ガレンドールの地をお守りください。勇気を持つ者を、勇気で魔を打ち払い下さい。希望を持つ者を、希望が焼け落ちた街には必要です。慈愛を持つ者を、すさんだ心に慈愛を。至誠を持つ者を、正しき心で魔を払ってください。不屈を持つ者よ、何度でもたちあがり、魔に負けないでください」


 后は天に向かって矢を放ちます。矢はまばゆい光を放ち、五つに別れ、飛んで行きました。后は気を失い、倒れてしまいました。一本の矢は若い騎士の足下に突き刺さりました。


 「おおーい、ここだ、薬を持ってこい! うわっ! なんだ?」


 コニーエディはびっくりして尻餅をついてしまいます。


 「コニーエディか。剣を抜いてみろ」


 公は苦しい息で話しかけます。コニーエディが剣を抜くと、剣に勇気という言葉が浮かび上がりました。


 「こ、これは・・・」


 「后が護領の魔法を掛けたのだ。先祖様が残してくださった偉大な魔法だ。后は全ての魔力を失い、法を掛けた。コニーエディは勇気か。お前は勇気を持ってワイヴァーンを打ち倒せ。お前の他に、希望、博愛、至誠、不屈の文字を持つ者がいるはずだ。彼ら、蒼穹の五戦士を集め、ワイヴァーンを倒し、ガレンドールを救ってくれ・・・」


 「それより手当を!」


 「ならぬ! 早く行くのだ。我も后も死にはせぬ。行け!」


 「は! 護衛騎士コニーエディ、若輩ながら勇気の蒼穹士として戦いに挑みます!」


 「エージ君、何しているの?」


 俺は家庭教師から帰ってきてから、一心不乱に羊皮紙にペンを走らせている。ガッコフルーグとミセコール卿でワイヴァーンを倒した話を物語化しているのだ。物語を書く、というのは日頃創作のマンガ、ドラマ、映画、小説になれている現代人は書けと言われたら書けると思う。不得意はあるけどね。しかし、創作文化が未熟な時代では非常に難しい事なのだ。小説にすると個人の精神的内面をえぐり出さねばならず、文字数も増えて行くので物語としてさらっと書く。娯楽の少ない世界だ、ウケる気がする。


 「あ、フレヤさん。ガッコさんの人気が高いので、ワイヴァーン退治の物語を書いているのですよ。あ、フレヤさんのパーティ、後誰がいましたっけ?」


 「んん? 死んだエンレの他には、神官のペリンスワとハーフリングのキッリじゃな」


 「いけ好かないキザ男のペリンスワと年増のキッリが生きているわ。死ねばいいのに」


 ん? フレヤは酷い言われようだが仲間じゃないのか?


 「エージ様、結構スペルが間違っているんです・・・もうこんなに文章が書けるとは驚きなのですが」


 「あ、じゃぁ清書はセリーリアにお願いするよ。ゲルとロキは書き写してね。ヨロシク」


 え、止めてとかいう声を無視しして俺は物語を書いていく。因みに南総里見八犬伝の丸パクリである。ガッコフルーグとフレヤは物語を読み始めた。二人は主役級だから楽しみだろう。

 

 コニーエディはお屋敷の中で蒼穹士を捜すために牢屋に来ています。牢屋に光の矢が飛んだという話を聞いたからです。


 「騎士様、どうかわっしを連れて行ってください。私はキッリというハーフリングです。ほら、矢がナイフに変わりました。至誠と書いてあります。どうせなら、最後くらい人様の役に立ってみたいのです」


 キッリはハーフリングの女盗賊です。数々の悪事により捕らえられていたのです。コニーエディは至誠の蒼穹士、キッリを仲間にします。


 神殿では神官が治療に当たっています。男性の神官が、メイスを持って立ちすくんでいます。


 「騎士様、私は神官のペリンスワ。光る矢が飛んできたかと思うと、メイスを持っていました。博愛と書かれています。私は使命を感じます。騎士様はおわかりにならないでしょうか」


 「おお、博愛の蒼穹士、ペリンスワよ。お主はお后様の偉大な魔法により、私と共にワイヴァーンを倒すために選ばれたのだ。さぁ行こう」


 三人はガレン山目がけて歩き始めました。後二人、不屈と希望の蒼穹士が居るはずですが、見あたりません。ワイヴァーンは配下を連れて、ガレンドールを荒らし、ガレン山に帰るという事を繰り返しています。


 ガレン山はガレンドールの北西にあります。三人は強力しながら魔物達を倒していきます。ゴブリン、コボルドは易々と倒しましたが、オークが出て来た時にはかなり苦戦をしました。しかし、ガレン山の麓にある洞窟の前でゴブリンの大群に囲まれてしまいます。ゴブリンは一匹一匹は弱いのですが。目の前には五百を超えるゴブリンがいました。斬っても斬っても減らないゴブリンに、三人の力が尽きようとしていました。


 「これまでか・・・」


 コニーエディは片膝をついてしまいました。ゴブリンは臭い口を開きながら襲いかかって来ます。


 その時です。巨大な斧を持ったドワーフがあれよあれよという間にゴブリンを切り捨てます。コニーエディは見逃しませんでした。斧には希望と書かれています。


 女魔法剣士が呪文を唱えると、火の玉が何発もゴブリンに打ち込まれました。あっという間にゴブリンは焼き払われ、少しのゴブリンを残すのみです。ドワーフと女魔法剣士は逃げるゴブリンを切り伏せていきます。コニーエディは再び目にします。不屈と書かれた細身の剣を。ドワーフは希望の蒼穹士、女魔法剣士は不屈の蒼穹士だったのです。ドワーフの鎧はミスリルでした。小さな国なら買えてしまうほど高価な鎧です。


 ゴブリンを倒した後、五人は焚き火を囲みます。三人は寝かされました。


 「ワシはガッコフルーグじゃ。相棒はフレヤじゃ。ワシ等はワイヴァーンを退治しに冒険者ギルドから派遣されたのじゃ。ギルドの連中も恐れをなして、受けたのはワシ等だけじゃ。まぁこれでも飲め。紅茶というお茶じゃよ。ワシの家にはな、ビールという酒が有るのじゃが、ワイヴァーンを倒したら飲ましてやるぞい。旨いぞ」


 三人は紅茶を飲みました。良い香りとほのかな甘みと苦みに癒されます。コニーエディは紅茶を飲むのは初めてでした。そして、ビールというお酒は聞いた事がありませんでした。ドワーフらしいと、三人は笑いました。コニーエディはワイヴァーンを倒して飲むビールは旨いだろうと思うのでした。


 「さぁ、ご飯よ。私が焼いたパンにハーブチキンを挟んだの。おいしいでしょ」


 翌朝、五人は洞窟へ向かいました。勇気の蒼穹士コニーエディ。武器は大剣です。至誠の蒼穹士キッリ。武器は短剣です。慈愛の蒼穹士ペリンスワ。武器はメイスです。不屈の蒼穹士フレヤ。武器は片手剣です。最後は希望の蒼穹士ガッコフルーグ。武器は両手斧です。


 「ふう。あと少しだ」


 俺はペンを止める。なかなかの出来だ。「ぐぬぬ」と「くっ殺」を組み込んだ。物語の基本フレームは南総里見八犬伝をパクリ。仁義礼智忠信孝梯という八つの玉でなく、それっぽいカッコイイ言葉に置き換えた。蒼穹士など中二臭いけどいいだろ。


 ガレンドール公もお后も格好良く活躍させておいた。しかもだ。ワイヴァーンアックス商会の商品、紅茶とビール、パン、ハーブチキンを出しておいた。


 物語を読んだ人は飲み食いしたくなるであろう。テレビアニメで良くある商法だ。アニメに出てくるロボットのプラモデルを発売する手法である。読んだ人は勇気の大剣、至誠の短剣、慈愛のメイス、不屈の片手剣、希望の両手斧は作れば売れそうな気がしている。ワイヴァーン商会でお土産として売ってもいいかもね。


 演劇は大変そうなので、朗読会ならやってみたい。朗読出来るような長さに抑えているからね。メディアミックスを推進する。朗読に合わせて紅茶とチキンサンド、ビールを出すのだ。フハハ、俺って頭良いな。


 「ワ、ワシが希望の蒼穹士じゃと・・・フレヤ、ワシのミスリルの鎧は何処じゃ」


 「あるわよ! 持ってくるわ」


 フレヤが走って俺の家を出て行く。あ、山に取りに戻ったのね。


 「ぬおお、ワシの斧に希望など書いていないぞ! どういう事だ、エアドール殿!」


 ガッコフルーグが興奮している。想像以上にウケが良いぞ。


 「落ち着いてください。俺が適当に作った設定ですからね! どうしても入れたかったら明日でも鍛冶屋で入れてくださいよ!」


 「成る程、そうじゃの。鍛冶屋に行かねば!」


 「ほら、ガッコ。あんたの鎧だ。着る?」


 「フレヤ。久しぶりに着るかの。あせもが出て苦手なんじゃが、着るぞい!」


 フレヤはガッコにミスリルの鎧を着せる。ミスリルの鎧は銀色に輝き、眩しかった。と言うより光を反射しすぎで目が痛い。魔法的な効果があるのだろうが、出来れば脱いで欲しい。


 「ああ、あっしの剣にも不屈の文字が書いていない! どういう事、エージ君!」


 フレヤまで何と言うことだ。いや落ち着け。書いてあるわけ無いだろ。


 「早く続きを書くのじゃ!」


 「いや、もう遅いし、ご飯にしましょう、ね?」


 俺の言葉でセリーリアとゲル、ロキがほっとした表情を見せるのだった

本日二話目です。

今後ともよろしくお願いいたします。


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