魔法を使おう
第二十六話 魔法を使おう
「朝ご飯付きだったんですね。超嬉しっす。紅茶? 初めて飲みますし」
「メェー」
エルフのロキが一心不乱にパンを食べ、紅茶を飲んでいる。ゲルに慣れたのかヤギも来た。俺の家で昨日の残りのパン、チキンのハーブ揚げ、ポトフを食べている。
「僕とゲルはしばらくは朝からグエルターク商会通いです。帰ってきたら山に行ってお茶の木を見たいんですよ。ついでに茶葉を収穫しましょう」
「あら、案内すればいいかな? ロキちゃんも来るのよ。エージ君はグエルターク商会で何をするの?」
フレヤさんが不思議そうな目で俺を見る。ゲルを連れて行くのは単にデートがしたいだけなのは言わないでおこう。俺の個人的なメイドだしいいだろう。
「文字を習っているんです。ついでに細かな事を打ち合わせしています。ロキ、ダンジョン二階層のホップと、山に自生しているお茶の木を増やしたいんだ。お願い出来るかな」
「うむ。確かに我らの生命線じゃのう。道具はなんか必要なのか?」
「そうねぇ。スコップ、シャベル、鎌、ロープ、じょうろ、肥料かな。まぁ肥料はそのうちでいいわ。ホップって私の家の前の蔓状の草でしょう。あれを増やすには蔓を巻き付ける場所を作らないとね。杭を打ってロープでも張ろうかしら。木材もいるわね」
ガッコフルーグの問いに、ロキはすらすらと答える。農作業はロキで問題ないだろう。
「ロキ、ホップは雄と雌があるんだけど、鞠花が咲くのは雌なんだ。受粉するとビールには使えないらしいんだ。あ、多年草だから」
「あら。わかったわ。受粉、受粉・・・蜂が欲しいわね。蜂蜜、蜂蜜」
「養蜂したいな。ロキ頼んだ。花とか自由に植えていいから。そうしたら、資金がいるよね。金貨百枚出しておくよ。巣箱も木工屋で作って貰って」
「うむ。じゃぁワシとフレヤで百枚づつだそうか。フレアにお金の管理を頼もうかの」
「じゃぁみんなでガレンドールに行きましょう」
「むう。鶏肉を買えばいいかの?」
ガッコフルーグは空になったチキンの皿と俺を見比べている。気に入ったのかな?
「そうねぇ。食事は売り上げからだそうかな。いい? まだ金貨一枚しかないけど、相当贅沢な暮らしをしていると思うのよ。まぁいいか。うふふ」
「賛成!」
「賛成!」
「メェー」
フレヤの提案にロキとゲルが息のあった声を上げる。ヤギ、君はいつでも草を食べていいぞ。
「ねぇ、私は金貨百枚出さなくていいの? もちろん無いけど」
ロキが俺を見る。
「ああ出さなくていいよ。さっきの金貨百枚というのは出資金で、払った人がオーナーとなって、ロキは従業員となるね。お給料はどうしよう?」
「夕ご飯もあるの? 有るのなら売り上げが安定してからでいいわ。っていうか、王様みたいな食事よ。夜はビールを飲んでいいのかしら?」
「むう。無くなってしまったのじゃ。夕食前に仕込むので集合するように。じゃぁガレンドールに行こうかの」
ガッコフルーグの言葉で朝食を切り上げた。俺とガッコフルーグは金貨百枚をフレアに払い、ガレンドールへ向かった。
「メェー。メェー」
「うんうん。あらー」
「メェー。メェェェェ」
「本当? ウフフ」
今、ガレンドールへ行く道をみんなで歩いている。ヤギとロキが楽しそうに話している。スゲェなエルフ。ヤギの世話は任せた。
ガレンドールの門が見えてきた。いつもの衛兵がいる。俺たちを見つけて挨拶をしてくれる。
ん? 違和感。
ガッコフルーグとフレヤが身構える。
「魔物だわ。用心して」
フレヤの言葉に、ロキが身構える。
「ロキ、魔物が出たら風を当てるんだ。竜巻がいいかな」
「ええ? 私の風は量が多いだけで魔物に致命傷を与えられないのよ。駄目よ」
「風で体勢を崩すだけでいいんだよ。とにかく量を当てるんだ。できれば転ばせてくれるといいな。転べば、ガッコさんは一撃で倒してくれるよ。戦いの肝は、いかに相手の体勢を崩す事だからね」
「来たぞい。オーガじゃな。三体じゃ。白龍、フレヤ行くぞい。エアドール殿はロキのお守りじゃ。ロキの風魔法の発動後に一斉に行くぞい」
「蒸着!」
ゲルが空中で一回転してフルプレートアーマー姿になる。流石に名乗りは上げないらしい。オーガがこちらに気が付いた。衛兵も気が付いたらしく、腰が抜けている。
「ロキ、呪文の詠唱準備。まだ引きつけろ」
ロキは頷くと、呪文を唱え始める。オーガが走ってきた。
「ロキ、魔法を打て」
「風よ、強く舞いオーガを打ち倒せ」
ロキの声と共に光る魔方陣がロキを中心として現れる。おお、魔方陣なんて初めてみたぞ。魔方陣がまぶしい。
俺たちの前に強風が吹いた。台風並だ。オーガは体勢を崩し、二体が転び、一体がよろけた。ゲルは一番早く走って行き、よろけたオーガに後ろ回し蹴りを喰らわす。オーガは防御も出来ない。そのままハイキック。オーガは倒れ始める。
「ドラゴンブレスボンバー!」
ゲルはしゃがみ込むと渾身の力でアッパーカットを放つ。ゲル、戦いの最中に技の名前を叫ばなくていいからな。と言うか、放ち終わってから叫ぶことになるからな。ほら、技を放つ前に叫ぶなんて無理だから。叫んでいる間に攻撃されてしまうからな。ほら気恥ずかしくなっているぞ。
ガッコフルーグとフレヤは倒れたオーガに淡々と止めを刺していた。ガッコフルーグとフレヤがにやにやとゲルを見ている。ゲルは空中で一回転してメイド服に戻ると、慌てて俺の元へ駆け寄ってくる。ほら恥ずかしいだろう。
「ありがとう、ロキのおかげであの三人はオーガの攻撃を受けることなく倒せた」
「私が・・・」
ロキが感慨深くオーガを見つめている。成功体験を積み重ねて欲しい。それが自信というやつなんだ。ガッコフルーグが衛兵を助け起こしている。
「ガッコ、後始末は任せたわよ。冒険者ギルドから報酬と素材の買い取りね」
ガレンドールに入ると、俺とゲル、フレヤとロキに別れてた。俺たちはグエルターク商会に入る。今日も文字の勉強だ。
「おはようございます。奥に入ってください」
セリーリアが笑顔で迎えてくれる。俺たちは会議室っぽい部屋に入っていく。
「エロご主人、今日もいいおっぱいでしたな」
ゲルがにやにやと俺を見る。
「俺が触るのは生涯ゲルの胸だけだ」
俺は宣言すると、ゲルは黙ってしまった。フフフ、今日も勝ったぞ。
「エージ様、ゲル様、昨日はありがとうございました。大勢で押しかけてしまってすみません。お祖父様もお祖母様もとても喜んでいました。お祖母様ったら、フレア様と話せて嬉しかったって言っていました」
セリーリアは紅茶を淹れてくれている。かなり手つきが慣れてきている。カップに置かれたストレーナーが目に入った。早速作ったのか。カップは紅茶用ではなく、コーヒーカップのように直径より高さが高いカップだ。
紅茶用のカップは背が低くて直径が大きい。香りを楽しむのと同時に、冷めるのを促進させるのだ。
「どうぞ。少しは淹れ方が上達したでしょうか?」
「うん、美味しいよ。いつもは俺が淹れているから、淹れてくれると嬉しいよね」
「ありがとうございます」
今日は数字を教えて貰った。数字は大変だった。ローマ数字と同じで、シンボルが違うだけだ。アラビア数字だと、たとえば2432と書くとする。ローマ数字で書くと、MMCDXXXIIと書く。Mが1000、MMで2000。Cが100、Dが500、CDでDのまえにCが来ているので400となる。XXXで30、IIで2だ。これで計算は無理だ。というか、良く計算していたなと思う。これは、計算出来るだけで特殊技能だな・・・
教えて貰うだけでもの凄く時間が掛かった。ローマ数字なんか覚えている訳無いからね。
「数字は難しいな・・・計算は難しいよね。というか出来る方がおかしいな」
「そうなんです・・・苦手なんです」
「算盤みたいな物はないのかい?」
「算盤?」
セリーリアは不思議そうな顔をする。俺は絵に描いて説明するが、理解出来ていないようだ。
「うん、計算をする物があるんだけど、今度作ってくるよ」
「はぁ」
セリーリアは理解出来ていないので生返事だ。
「あ、そうです。明日はミセコール卿の奥方であるエステル様とお茶会を開く予定なんです。カップは間に合いませんでしたけど、このストレーナーでしたっけ、これは銀細工で作れました。結果を楽しみにしていてくださいね」
「なるほど。じゃぁ明日の朝にパンを焼いて持ってくるよ」
「あの、パンはまだいいです。小出しする事に決めました。ビールはエステル様と相談しますね。お披露目のタイミングを考えます」
俺たちは礼をしてグエルターク商会を後にした。とりあえず木工屋に行って、そろばんを作って貰おう。
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