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地獄から天使を呼ぼう

第二十一話 地獄から天使を呼ぼう


 「では、今回はパンと紅茶、金貨一枚で引き取ります。実際の価格はこれから考えさせて下さい」


 ヘンリッキが俺を見るが、会頭のガッコフルーグを見る。ガッコフルーグはフレアを見る。


 「いいんじゃない?」


 フレアの適当な台詞で価格が決まった。パンと紅茶の代金だ。原価率が非常に高い。ほくほくだ。ボロ儲けである。ガッコフルーグとフレアは帰って行ったが、俺は残っている。


 「ヘンリッキさん、この娘のメイド服が入手出来ないでしょうか」


 「ん? その子はエージ君のメイドでしたか? 背丈はセリーリアと似ているのでお下がりでいいならあげますよ」


 「本当ですか! ありがとうございます。あとですね、俺は字が読めないんですよ。家庭教師を紹介して貰えませんか」


 「おや? 君は読めないのですか? セリーリアに言っておくので習って下さい。いや、読めないようには見えないんですが?」


 俺はドキドキしながらグエルターク商会を後にする。そりゃぁ「メモれ」と言っておきながら字が読めないなんて無いよね。


 「ご主人様、ウチはドキドキしてびっくりしたよ! 打ち合わせってやつ? 龍は話し合いなんかしないからね! 五月蠅い! って火を噴いて終わり! あははは」


 白龍のゲルのテンションが高い。グエルターク商会との打ち合わせに出て興奮しているんだ。恐らく、火を噴いたり戦いで物事を決めるのであろう。打ち合わせが成功に終わると、妙に興奮する時がある。


 打ち合わせは、打ち合わせのシナリオを考える人間と、実際にスピーカーとなる人間の二人がいる。この二人は打ち合わせが無事終わると、「終わった」という安堵感の方が大きいのだが、新人だとかが勉強で出席すると、先輩社員が成功するのを見て興奮してしまうのだ。今のゲルがそんな感じだ。お前は何もしていないだろうと言いたいが黙っておこう。


 「あれ何、あれ! ご主人様見に行こう!」


 ゲルは走って工房街に入って行く。ああ、ゲルは街に入る事が余り無いはずだ。龍だしね。走らないで欲しい。


 「ね、ね、剣作ってる! 剣作ってる!」


 大声で俺に報告をしてくるのは止めてめて欲しい。ちらちらと通行人が俺を見る。


 「あれは鍛冶屋さんだ。ゲルにも剣がいるかもね。フレヤだったら魔剣ぐらい持っているんじゃないかな? 後で貰おうよ」


 「うーん、わかった。あっちは?」


 ゲルが俺にくっついてくる。というか、俺を向かいの防具屋に体を向けようと俺の正面から体を密着させ、向きを変えてくる。ちょうど正面から抱き合った形だ。胸がデカイ。龍のくせにいい匂いがする。でも前に生理的に嫌って言われて、酷く傷付いているので蹴飛ばして離れさせた。


 「くっつくな。前に俺のことを生理的に嫌と言ったくせに」


 「うん。生理的に嫌だよ? でも蹴らなくても」


 「ほれ、防具屋に入るぞ」


 防具屋に入ると、鎧と盾が所狭しと並んでいる。ほとんどが革の鎧か、革の鎧に補強の金属片を張った鎧がほとんどだ。フルプレートアーマーなどはほとんど無い。一つ、重そうなフルプレートアーマーが置いてあった。ゲルは立ち止まって眺めている。


 フルプレートアーマーは銃の出現と共に生まれた鎧だ。初期の銃、種子島などは竹の束を持っていれば貫通しなかったらしいのだが、銃の進歩とともに飛距離、貫通力が増して行くと、騎士はフルプレートアーマーを着た。薄い鉄板で出来た全身鎧である。鉄板の厚さは一ミリか二ミリくらいだろう。製造は大変だと思う。鉄の塊をひたすら叩いて薄く伸ばすのだ。


 フルプレートアーマーは非常に重く、歩くのも困難で、馬に乗るのも一苦労だったらしい。問題なのは、銃弾は十ミリくらいの鉄板ならまだしも、薄くのばした鉄板では楽々と貫通するのだ。銃の出現と共に、軍人は鎧を脱ぎ捨てることになる。銃弾では、鎧の破片が体に突き刺さるのも理由の一つだ。


 「かっこいい・・・」


 うん? ゲルがフルプレートアーマーから離れない。奥から親父さんが出てくる。


 「嬢ちゃん、悪いがそれは店の飾りなんだ。薄くのばしていないので重たくて人には使えないよ。嬢ちゃんはこっちの方がいいよ」


 親父さんは革の鎧を指差す。当たり前だろう。でもこいつは龍だし、重くても平気かも知れない。着させてみよう。


 「着てみていいです? 現実をわからせてやって下さいよ」


 「かまわないが・・・どれ。嬢ちゃん着させてあげよう。まずは下鎧の鎖帷子からだ。兄ちゃん、あっちで服を脱いで鎖帷子を着てくれ。


 親父は俺にくさり帷子を手渡す。裏の小部屋に二人で入る。


 「さ、脱げ」


 「えー。ご主人様なんでいるの? スケベね。わかっていたけど。いつも胸ばかり見るし」


 酷い言われようだが、真実を言われているので辛い。でもゲルの胸は見るなと言う方が無理だ。


 ゲルは淡く光ると、ワンピースが消えていった。タンクトップと、パンティ姿になる。ヤバイ。モヤモヤする。締まったヒップラインが堪らない。


 「側にいるだけでも生理的に嫌なのに、下着姿をみせるなんて・・・」


 「綺麗だな、やっぱり。ほら、着るぞ。右足あげろ」


 「ちょっと、綺麗って。ちょっと、足触らないでよ」


 俺はチェインメイルのレギンスを着せる。なんだかモヤモヤするな。くそ。チェインレギンスは、チャップスに似ている。ズボン状ではなくて、太ももまでの構造だ。カウボーイが着ているお尻の出た革のズボンみたいなやつだ。チェインメイルの上を着せる。重そうだ。


 「うん、軽いよ」


 親父さんの所に行き、次々にプレートメイルを着させて貰う。展示用なので部品一つ一つが重い。親父さんは大量の汗を搔いている。なんか申し訳無い。


 着終わると、ゲルは特に重さは感じないようで、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。


 「だ、大丈夫のようだな、脱がすの大変だから買ってくれると助かる。金貨十五枚だ」


 「何で俺が払うのか・・・買って行きます」


 支払いを終えて外に出る。ガシャンガシャンと非常に五月蠅い。でも凄いカッコイイ。でも羨ましくない。


 「やった! 嬉しい! ありがとうご主人様!」


 工房街で木製の皿やカップ、広場の店で鶏肉を買ったが、行く先々で注目を浴びたし、音はうるさいし、大変だった。


 門番の衛兵に驚かれながらガレンドールを後にした。


 「おい、戦い方を教えてやる。これがジャブ、ストレート、フック、アッパー。フックとアッパーは顎を狙え。そうだ。顎を打ち抜くと脳震盪になって立てなくなるからな。左でジャブを二回打って、相手を牽制しながら右ストレート。そうだ。隙が出来たら左でフック。相手がよろけるだろ。右アッパーだ。そうだ。筋がいいぞ」


 「ふん、ふん、ふん」


 流石龍、あっという間にボクシングっぽい形になる。一所懸命シャドーボクシングをしている。・・・早い。パンチが早い。


 「ガードはこういう風に、さらに上体を反らせて相手のパンチをかわすんだ。そうだ! ローキック、ミドルキック、ハイキック。ローキックで相手の足にダメージを与えて動けなくする。ミドルキックでダメージ増加! ハイキックで相手を打ち倒せ! カッコイイキックは回転回し蹴り! 超必殺技は飛び膝蹴りだ!」


 ガードもキックもマスターしたっぽい。いいぞ。


 「ね、次は?」


 「ゲル、元のワンピース姿に戻れるのか?」


 ゲルは淡く光り、ワンピース姿になる。魔法で服やプレートアーマーを何処かに収納しているのだろう。


 「ジャンプして、一回転しながら強く光れ。光ながら鎧に着替えろ。そうだ! 着地は左手を敵に向け、右手は水平に。片膝でな。そうそう。いいぞ。立ち上がれ。ここででだな・・・」


 ゲルにワンピース姿に戻って貰い、フレヤの家を訪れた。二人はエールを飲んでいる。


 「ゲルに鎧を買ってきたんですよ。見て貰えます?」


 「ん? 鎧? エアドール殿の家にあるのか? 見せてみるのじゃ」


 ドワーフのガッコフルーグは興味を示してきた。やはりドワーフは鍛冶に関係した事に興味があるのだろう。


 「ゲル、行け」


 「イエッサー、指令!」


 俺の指示でゲルは俺のことを指令と呼んだ。先ほど仕込んだ芸をお見せしよう。


 「とう! 蒸着!」


 ゲルは叫ぶと飛び上がり、空中で一回転する。光ると同時にフルプレートアーマーに着替える。魔法で何処かに収納されている鎧を着るようだ。片膝で着地。左手一差し指でガッコフルーグを指さし、右手は水平に。


 「この世に悪がはびこるとき現れる希望の勇者!」


 ここで立ち上がる。いいぞ。ガッコフルーグもフレヤも目が釘付けだ。俺は死ぬほど恥ずかしい。顔が赤くなる。ゲルは両手をくるくると回し、左手が胸の位置、右手は斜め上。あのライダーのポーズ。いいぞ決まったぞ。恥ずかしく無いのだろうか。


 「地獄の天使! ドラゴンナイト!」


 ゲルは大声で叫ぶ。凄い恥ずかしい。仕込んだときは我を忘れてしまったが、もうやらないように言っておこう。


 「おおお、カッコイイぞい・・・」


 ガッコフルーグは立ち上がると同時に手からジョッキが落ちる。


 「素敵」


 フレヤも目を輝かせてゲルを見る。


 「とう! ふんふんふんふん!」


 ゲルはシャドーボクシングを始める。ジャブを売ってスエーバックで躱しながら右フックを打つ。ミドル、ハイキックを入れて回転回し蹴り。最後に飛び膝蹴り。決まった。


 「フー」


 息を整えるゲルにガッコフルーグが近づく。


 「歓迎しよう、ドラゴンナイト!」


 ガッコフルーグは感激の余り涙を流している。嘘だろ?


 「ゲルちゃん、早く実践で見たいわ。人型との戦闘が楽しみね」


 フレヤも立ち上がり、熱い目でフレヤを見る。調子にのったゲルは何回も鎧を着たり脱いだりしている。毎回地獄の天使、ドラゴンナイト!と叫んでいる。


 「あ、あの」


 俺の声はもう届かない・・・楽しそうだからいいか・・・娯楽が少ないんだろうな・・・


 「ガッコさん! 超必殺技ですよ!」


 「むむ、来い!」


 ゲルはしゃがみ込み、回転しながらジャンプし、ガッコフルーグにアッパーをお見舞いする。昔流行ったゲームの技だ。


 「ドラゴンフレイムボンバー!」


 「つ、次は負けぬ・・・」


 ガッコフルーグが倒れる。勝負は付いたようだ。十回目の勝負だけど。もう繰り返さないで欲しい。恥ずかしいのは俺だけか。

皆様お読み頂きありがとうございます。

引き続きよろしくお願いいたします。

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