ダンジョンに潜ろう
第十一話 ダンジョンに潜ろう
ミコドール、実際には俺の家とフレヤの家しか無いのだが、二つの家の間には川が流れている。たいして大きくない川だ。でも飲み水を貰っているので大切な川だ。この川をたどって上っていくと、すぐにぽっかりと洞窟があった。崖崩れの跡がある。何かの拍子で入口が現れたのだろう。
「ああ、凄い魔力だね。気が付かなかったよ。ダンジョンがあるなんてね」
おお、魔法使いのフレヤさんの発言だ。俺がダンジョン持ちになったのか。出世した気がするぞ。俺は背中にザックを背負ってきた。パンと干し肉、ランプ、飲み水が入っている。フレヤも背負っているが、軽そうだ。ガッコフルーグのザックは重そう。尻に敷かれている気がするのは俺だけかな。
ガッコフルーグはランタンに火を付けた。赤い宝石を取り出して息を吹きかけるとランタンに火が付いた。火が付いた? 俺は驚きのあまり声が出なかったよ。魔道具とか言う奴だ、きっと。
「なんじゃ? 火吹き石が珍しいかの? ほら、取っておけ。火打ち石で火を熾すのはやっかいじゃからな」
俺は拳大の大きな赤い石を受け取る。息を吹きかけると炎が伸びる。ガストーチくらいの炎の大きさだ。
「その大きさだと百年は使えるんじゃない? 金貨五十枚はするわよ? 気前良いわね、ガッコ」
「ふふふ。襲名祝いじゃよ。さぁいざ進まん、エアドール殿!」
ああ、本当にエアドールになってしまった。でも超嬉しい。俺はザックに大切にしまい込む。旨い物を食わせようと心に誓ったね。ん? フレヤがもごもごと何かを唱えている。
「明るく照らせ」
フレアの命令で洞窟内が明るくなった。魔法だ。凄い。ガッコフルーグがどんどんと歩いて行く。洞窟は入口は狭いが、すぐに広くなった。奥に通路が見える。俺には天然の洞窟にも見えたし、誰かが掘った洞窟にも見えた。
「フム・・・ダンジョンじゃな。天然の洞窟は滅多に広い部屋が出てこんからのう」
ガッコフルーグはランタンで壁を照らしている。
「罠も無いようじゃ。行くぞい」
ガッコフルーグが先頭、フレヤが二番目、俺が三番目で進んで行く。右に曲がった通路はすぐに広い空間に出た。
「静かにするんじゃ。コボルドが四匹。ほれ、ランタンを持っとるんじゃ」
ガッコフルーグとフレヤは勢いよく飛び出すと驚くコボルド達を切り伏せていった。
「歯ごたえがないのう」
ガッコフルーグとフレアの足下には頭が犬っぽい鬼っぽい魔物が倒れている。
「見ておれ」
地面を濡らしていた血は消えて無くなった。コボルドの死骸も消えて無くなった。
「ダンジョンが死骸を吸収するんじゃ。ダンジョンでは魔物から肉は採れんのじゃよ」
「魔物の肉を食べるんですか? 羊の肉でさえ癖があって、食べにくいのに」
俺はジンギスカンを思い出した。北海道民のソウルフードである。匂いのある羊肉はそのままでは食べにくい。ジンギスカンのタレを使うと匂いが気にならなくなる。羊でさえ食べにくいのに、魔物を食べるのが信じられない。
「ああガッコ。よくオークとか食べたけど、ガレンドールに来てからは臭くて食えたものじゃ無かったわよ。不思議ね」
「そんなもんかのう。フレアは良い物を食っておるんじゃよ。流石にコボルドじゃお宝は無いな。行くか」
ガッコフルーグは大広間の奥にある通路を進んで行く。すぐに大広間に出るが、何もいない。ガッコフルーグはどんどんと歩いて行く。二股にでた。
「右も左もコボルドがいるのう。右から行くか。エアドール殿、ランタンをよこせ。頼んだぞい」
俺は背中を押され、大広間に出る。コボルドが三匹、驚いた顔で見ている。コボルドは子供の背丈程度だ。武器も錆びた短剣、短い棍棒、ナイフだ。俺は右足を大きく踏み込み、上段から手前のコボルドに振り下ろす。コボルドを袈裟斬りした。右肩にめり込んだ剣は斜めにコボルドの体を斬った。コボルドは血を吹き出して倒れる。コボルドは余りの戦力差に逃げようと後ろを向く。俺は再び上段から袈裟斬りに斬った。背中を斜めに切られ、コボルドは血を吹き出して倒れる。
コボルドは逃げようとするが、行き止まりで逃げることが出来なかった。コボルドは決意を決めたのか、錆びた短剣を振り上げて来た。俺は右足を踏み込み、コボルドよりも遙かに早く、突きを喉元に繰り出した。コボルドは血を吹き出し、倒れた。しばらくすると、二匹の毛皮を残して消えて行った。
「お見事じゃ。エアドール殿。ドロップは毛皮かの。エアドール殿はいるか? 鞣さないと駄目じゃぞ」
俺は首を振る。要らない。段々魔物を斬る事に慣れてきた気がする。今なら鶏も絞めれるぞ。多分。
「次はあたいね。フレヤは別れ道まで戻り、左側を歩くが、すぐに二股に出る。
「右は、行き止まりで落とし穴があるわね。左に行きましょう」
フレヤは左に歩くと、広い通路にでた。通路は大王右に曲がっている。
「ふふふ、大回廊だわ。曲がった先にいるわね」
フレヤは剣を左に持つと、右手に大きな火の玉を作り始める。火の玉はどんどん大きくなる。今では直径五十センチにまでなった。
「む、いかん。逃げるぞ」
ガッコフルーグは最初の二股まで走り、大広間に飛び込んだ。途端に炎が通路を走っていった。背中を炎が走って行った。
「うひゃぁ。フレヤさんは俺まで殺す気ですかね。フレヤさんは大丈夫なんですか」
「む。炎耐性があるのか、障壁を張っているのかわからんが大丈夫じゃの」
大丈夫かよ・・・酸欠にならないのだろうかね。
戻ると、コボルドの丸焼きが二十体あった。大きい個体もある。フレヤは大きい個体の肉を削いでいた。
「ほらガッコ。オークの肉よ。やっぱり臭いわね。こんな臭い肉を食っていたのね。信じられないわよ」
「うむ・・・臭い。確かにいらんな。昨日までは旨いと思って食っておったぞ」
コボルドとオークの死骸は消え失せ、大量のコボルドの毛皮とオークの牙が残った。
「エージ君、オークの牙いる? 冒険者ギルドに持って行けば小遣いになるわよ」
「へぇ。幾らくらいですか?」
「うーん、銅貨五枚かな?」
「冒険者ギルドには行きたくないけど、貰っておきます」
俺は牙をザックに入れる。牙は掌ほど有る。判子を作るのに良さそうだ。象牙ならぬオーク牙。
「一階層で珍しいな。宝箱じゃぞ、これ。フレヤ、罠を確認出来るかの」
ガッコフルーグは木箱を指差す。
「いいわよ」
フレヤはもごもごと呪文を唱える。
「罠よ外れよ。鍵よ開け」
特に反応が無い。
「罠も鍵も無いわね」
フレヤは木箱を開けると、白い石が入っていた。
「ほう。珍しいのう。一階層で珍品が出たな。ワシも見るのは二回目じゃ」
「そうね。珍しいわね。一応鑑定するわね」
フレヤはもごもごと呪文を唱えている。
「真実をみせよ・・・うん、腐れ石だわ。ガッコ要らないわよね? 私も要らないわ。エージ君にあげる。一応魔法の石よ」
俺は白い石、腐れ石だかを受け取った。普通の石に見える。
「ザックの中にしまうとね、パンは黴びるし、干し肉は腐るしね。良いことない石だわ。捨てた方がいいわよ」
「腐る、んですか?」
俺は興奮の余り声が震え出す。
「ええ、そうよ。腐るというより、腐るのが早くなるのかしらね。多分嫌がらせに作られたのよ。非常に珍しくて、Sランクパーティでも見たことが無い人の方が多いと思うわ。でもゴミ扱いね。売れないしね。エージ君、どうしたの。泣いているの? どうしたの?」
俺はうれしさの余り泣いてしまったらしい。素晴らしいアイテムだ。大地の女神、ありがとう。帰ったらお祈りをするよ。
「これで酒が造れるし、おいしいパンも焼ける」