ダンジョンに行こう
第十話 ダンジョンに行こう
「それでは、天空の人形の再会を祝して、乾杯!」
爆炎の人形フレヤと、髭モジャのドワーフ、ガッコフルーグが大声で乾杯をしている。何故か俺もいて、乾杯をしている。天空の人形はパーティの名前か? 中二臭いがカッコイイ。正直羨ましい。要らないけど。
「フレヤさんて爆炎の人形っていう二つ名だったんですね。ガッコさんから聞きましたよ」
俺はエールのジョッキをテーブルに置き、作ってきたサンドイッチに手を伸ばす。買って来た田舎パンに干し肉を挟んだだけだ。なかなか旨い。ちなみに火を熾すのが大変だった。何しろ火打ち石だからな。火花は小さいし、何か良い物がないかなと思ったぞ。
「ガッコ! お前は何を言っているのか!」
「お? Sランク君は知っていたぞ」
ドワーフのガッコフルーグは意外そうな顔をしている。
「へ? 衛兵さんが爆炎の人形が住んでいるからって言っていましたよ。有名人なんだなぁって。あ、俺は冒険者じゃ有りませんので、ランクはありませんから。エージって呼んでください」
俺も意外そうな声を上げる。
「なぬ? 冒険者でもなくて、ランクも無いのか。それであの剣なのか? すごいのう」
ガッコは髭を触りながら関心している。
「で、飛龍斧殿がなんか用事なの?」
ん? ガッコさんも二つ名があるようだ。飛龍斧? カッコイイ。
「近くでダンジョンを見かけたのじゃよ。そうしたらフレヤがこの辺にいるって聞いてな。エージ殿に案内して貰ったのよ。お手合わせ願ったら斧を振り下ろす間も無く負けたぞ。びっくりじゃわい」
「ほう、ガッコもエージ君に負けたのか。そうだよねぇ。あたいは魔法使いだから良いけどさ。で、ダンジョンって聞き捨てならないね」
ほうほう、ダンジョンが近くにあるのか。
「ほら、あの山だ。中腹に洞穴があるぞ。あれはダンジョンだと思うな」
「え? ちょっと待ってください。あの山は俺が買った山ですけど」
「え? エージ君あの山買ったの? 本当? じゃぁ薬草とか山菜とか獲れないじゃない」
「あ、良いですよ別に。今まで通りで。少し分けてくれたら嬉しいです」
「エージ殿はその年でダンジョン持ちじゃのう。凄いのう」
「そうねぇ。滅多にいないわよ」
フレヤとガッコフルーグが感心しているが、俺は心が定かじゃない。
「本当にダンジョンなんですか?」
俺は当然の疑問を吐き出す。
「入った訳じゃないが、そんな気がするのう」
「そうですか・・・Aランクのガッコさんが言うからにはダンジョンの可能性がありますね。明日でもみてこようかな」
俺は山の所有者としての発言をする。
「お、行くかの? 新生天空の人形じゃの」
ガッコフルーグが嬉しそうに髭をさする。この人は骨の髄まで冒険者なのだろうな。
「あの、天空の人形ってパーティの名前ですか?」
「ああ、ちょっと待ってね。確かあたいが預かっていたんだ。ああ、あったあった。エージ君にあげる」
フレヤは棚を探ると、埴輪みたいな人型の像を持ってきた。フレヤの家は広くない。家の中は薬草やら何かの瓶やら、気味の悪いペンダントやらが散乱している。柱には舌の飛び出た気持悪い面が飾ってあった。散乱と言ったら怒られるかも知れない。部屋の中は確かに魔法使いっぽい。
「これを天空の人形と名付けたのよ。何処だっけ、随分高い所にあるダンジョンで拾ったんだっけ。ガッコは覚えてる?」
「うーん、海の下の洞窟じゃぞ、確か」
俺は像を受け取る。二人とも記憶が曖昧だ。天空の人形なのに海にあるダンジョンはないだろう。っていうか、海の下のダンジョンに潜ったのか? 凄いな。
石で出来ている。削って製作された像だ。かなりデフォルメされているが、くびれた腰、膨らんだ腰、大きなお腹から女性の像であることがわかる。アラフォーになると歴史に嵌るんだぜ。
「大地の女神の像でしょうね。ほら、女性は出産するじゃないですか。お腹がでているでしょう。これは妊娠している事を表していますね。女性の出産は永遠の命の象徴です。生まれ変わりと言うことでしょうね」
「ん? 大地の神スクートは男性神じゃぞ」
ガッコフルーグはエールを飲み干した。
「まぁ、誰かが必要があって変えたんじゃないですか。基本的に、信仰は自然現象への畏怖と、先祖崇拝から始まりますからね。時代時代で変化していくものです」
「ほう? じゃぁ誰が変えるんだ?」
フレヤも口を挟んでくる。
「為政者ですよ。王様とかですかね。王は基本的に男がなるんで、女性が神だとつじつまが合わなくなるんですよ。国が大きくなってくるとね。この像は国がまだとても小さく、王がまだいなかった時代の物でしょうね。歴史的価値が高い逸品です」
俺は自信満々に話す。二人は不思議そうな顔をして聞いている。
「んんん? 太陽の神エスルートと、大地の神スクートが争った破片が人間やドワーフになったのじゃぞ。傷ついた太陽はそのために半日は大地に沈むんじゃぞ」
「ああ、それそれ。まさしく夫婦神ですよ。間違い無いですって。はっはっは」
「言われて見ると夫婦げんかっぽいのう」
「エージ君は理屈っぽいね。まぁいいよ。それを持ったらエージ君の二つ名は天空の人形ね。エアドール・エージ。痺れるわね。うくくく」
「要りませんよ。返します・・・あっ」
天空の人形が一瞬光った。ああ、これで俺はエアドール・エージだ・・・
「お、光ったぞ。決まりじゃな。大事にするんじゃぞ。まぁ我々には引き受けがたい像であったのじゃろうな。どう見ても女性神じゃし。頼むぞエアドール・エージ。女神様を護るのはエージ殿の役目じゃ」
俺は盛り上がる二人を残して自分の家に帰る。帰り際、明日、朝からダンジョンに行く事に決まった。ダンジョンか。少しわくわくする。
さぁて、買って来たランプに火を付けないとね。火打ち石で付けるのか? 無理じゃないかと思うんだよ。・・・。何回やっても火打ち石なんかでランプに火は着かないぞ。参ったな。女神さん、お願い! って着かないよね。まぁいいや。飯も食ったし、寝てしまおう。お休み。スマホいじりたい。北海道のばあちゃん俺は元気だからね。
翌日、革の鎧を着て家の前で素振りをしていると、フレアとガッコフルーグが来た。フレアは腰に剣を差し、革の鎧を身につけている。どう見ても剣士だ。
「ガッコ、ちょっと眠いわね」
「フレア、大丈夫か、ってワシもじゃけどな」
うーん、二人は昨日の夜はお盛んだったのか?
「随分仲良いですね」
「飲み過ぎじゃよ飲み過ぎ」
「そうそう、飲み過ぎなのよ。久しぶりだったからね」
二人は少し焦っている。隠す必要も無いのに、ねぇ。
「エアドール殿は随分いかしたレザーアーマーじゃな」
「良いでしょう。王都で買ったんです」
俺は居合いの素振りをする。革なので軽く、動き安いアピールだ。エアドールは諦めた。
「王都? ガルーグ工房の新作か? おい、あたしによこせ。背丈同じだしいいだろ」
フレアが俺の鎧を脱がそうとしてくる。
「嫌ですよ。金貨十枚もしたのですから」
「ひょー。良く買ったねぇ」
フレアが驚いている。
「だってカッコイイですから」
「おい、行くぞ。個人所有のダンジョンなんて初めてじゃな」
ガッコフルーグの先導で、裏山に向かって歩き始めた。裏山? 結構大きいぞ。有珠山くらいあるんじゃね? 思わず古里の山を思い出してしまったよ。ばぁちゃん元気かなぁ。北海道は雪が降っているのかなぁ。
「おい、エアドール殿は何が欲しいんじゃ? 魔素溜まりダンジョンだと願いが叶う事があるぞい」
「そうですね、トマトと馬鈴薯とホップとお茶の木とコーヒーの木と胡椒とサトウキビですね。これは譲れないです」
「なんじゃ? トマト? ジャガ?」
「食い物です、食い物」
「あはははは。エージ君ははお宝とか凄い武器とかいらないのかな?」
「要らないっす。旨い物が食いたいっす」
俺は胸を張って言い返したら二人は大笑いした。仕方ないんだ。世界で最も旨い物が食える国から来たんだ。旨い物を食いたいよね。
お読み頂き、ありがとうございます。
徐々に登場人物も増えて来ました。
今後ともよろしくお願いいたします。