召還させられた
第一話 召喚魂された
「こいつですじゃ」
ローブを纏って、怪しげなどくろの付いたネックレス、違うな・・・首飾りをした老婆が俺を指差す。そこまでは覚えていたんだ。気が付いたらもの凄く立派な建物の中にいた。
大広間のようだった。大広間で寝かされている。首を曲げると、寝かされているのは二人のようだ。
「どう? 定着した?」
偉そうな女が近づいてくる。俺は帰って仕事に行かなきゃならないんだ。今日は大事な設計打ち合わせがあったはずだ。この前、風邪で寝込んでしまい、設計会社の鳴海さんに電話し忘れたら「いいんですよ、大変だったですね」って言われてしまったんだ。一部上場企業の平社員でも、子会社いや孫会者かな? 立場が違いすぎて、もの凄く気を使われたよ。
女は金髪だ。ん? どうして金髪が目の前にいる? 染めた金髪じゃないぞ。マリー・アントワネットみたいな服装をしている。傘みたいなスカートだ。偉く胸を強調している。見せたいなら見てやるぜ。一度言ってみたいな、ハッハッハ。この女に言ったら殺されるだろうな。気が強そうだし。
「はい。こちらの方は大成功です。強い魔力を感じますね。あ、オーブにヒビがが・・・凄いですよ、サイサ様。魔力を測るオーブにヒビが入ったなど、聞いた事がありません。この魔力、古の白の導師に匹敵するかと。加護も色々とありそうです」
全身ローブの男が中二臭い事を言っている。報告を聞く女はとにかく偉そうだな。聞いた事がないのに白い導師と魔力が同じってどうしてわかるんだろうな。おい、ちょっとまて、魔力って何言っているんだ?
「ではこちらの男はどう?」
女が偉そうに俺を指差している。俺の順番か。少しドキドキするな。昨日、SF映画を見たから、夢で魔力とか考えているのだろうな。ハッハッハ。当然俺は、「こ、この魔力は・・・ウワー」とか言って魔力を測るオーブとか言う奴が割れてさ。隣にいる女が「ムキー」とか言うんだぜ。さ、いいぜ。俺に都合の良い夢よ。
「うわー、魔力がゼロ、加護も全くありません。おかしいな、魔力がゼロなんて、召喚魂に有るわけが無いのです。おい、違うオーブ持ってこい」
「おい、召喚魂の魔力ゼロなんてあり得ないわ。魔力が無かったら魔法陣から出てこれないわよ。ちゃんとして」
「は。すみません」
ローブの男が怒られている。原因は俺? いや、でも俺の夢で俺が魔力ゼロってどうしてよ。
下っ端のローブ男が違うオーブを持ってきた。ヒビが入ったオーブより大きい。女がひったくると俺を測る。
「あら、ホントだわ。この男魔力ゼロ。ウワー失敗作じゃん。一回の儀式で魂が二つ来るとはおかしいと思ったのよ。ああそうね。巻き込まれね」
女は眠り続ける俺の隣の女の子に再びオーブをかざすと、青白く光り始める。今度は割れない。さっきから、ウワーと何回も言われてしまった。俺は失敗作らしいぞ。召喚魂って言葉に引っかかるけど、失敗作と目の前で言われるとショックが大きいな・・・早く夢が覚めてくれないかな・・・
「おい、起きろ」
俺と隣の女の子が起こされる。
「ん? ここは?」
女の子が起き上がる。当然の疑問を放つ。
「王都の城だ。お前達は召喚魂の秘術により、我が国に魂だけ呼び寄せ、こちらの肉体に魂を定着させたのだ。お前達がどこから来たのかわからんが、元の世界では死んでいるはずだ。死んだ直後の魂を召喚したのだ。夢ではないぞ。名前を教えては頂けないか、白の導師の再来よ」
偉そうな女は俺をガン無視し、隣の女の子に話しかけている。銀髪で華奢な女の子だ。年はまだ子供と言っていい年だ。可愛い。俺にも娘がいたらこんな年かって思ったよ。超可愛い。
「ファイヤーボール」
女の子は掌にサッカーボール大の火球を作ると、壁に向かって撃ち出した。
「おおお、無詠唱で、ファイヤーボールを」
「魔術の起動が恐ろしく速い」
隣の女の子を称える声が聞こえてくる。見まわすとギャラリーが沢山いる。髭を生やした王様みたいなきんきらきんのローブを纏った男が来た。男が纏っている雰囲気が違う。王様みたいでは無く、王様なのだろうな。
「おお、魔道師殿、お名前をお聞かせください。私は王のアルマンと申します。我が国を導き下さい」
王様は女の子に手を差し伸べた。女の子は左右を見て、自分の手を見て、それから王の手を取った。ちらりと俺の方をみる。軽蔑の目だった。
「私はミサキ。ミサキ・イトウ」
ミサキはほくそ笑む。王の手を取り、立ち上がる。再び俺の方を見た。見下した目だった。俺は段々と記憶が鮮明になってきた。確か、缶コーヒーを飲みながら電車を待っていたはずだ。突然高校生風の女の子が抱きついてきて、驚いていたら線路に落ちて・・・
「お、お前、線路で俺を突き飛ばした・・・」
俺はうわずった声を出してしまった。俺は衛兵達に腕をつかまれ、体を拘束された。
「離しなさい」
アルマン王は静かに言い放つと、衛兵は俺を掴む手を離した。
「あなたには大変申し訳ないことをした。そうだな、南のガレンドールに行くがいいだろう。ガレンドールは暖かいから暮らしやすいと思う。家を用意しよう。金貨三百枚を渡すから、贅沢をしなかったら生活には困らないはずだ」
「あ、あの」
俺はなんて言ったら良いかわからず、変な声を出してしまった。アルマン王は立ち上がると俺に対して行けと手で合図する。俺は衛兵に連れられ、別な部屋へ連れて行かれる。
「金貨三百五十枚だ。何処にでも行け。情けだ。鞄もやる。大金だからな。金貨五十枚は家の代金だ。名を言え。手形を発行する。クソッ。お前が羨ましい。大金を貰ってな」
衛兵は背負い袋と金貨の入った麻袋をくれた。
「あの、王は家をくれると・・・」
「馬鹿。金貨五十枚もあれば家が買えるだろう。自分で好きな所に買え」
家は自分で用意するのか・・・面倒なんだろうな。自分でガレンドールとかいう土地まで行くのか・・・
「名前はエージです」
「うむ」
衛兵は返事をすると木の札に名前を書く。よく見ると若い。兵に成り立てか。
「色町とか、女郎は幾らですかね」
「ん? お前はもう遊ぶのか? 陛下から頂いた金貨で。やめておいた方がいいと思うが、ミルスーリ通りの裏道だと銀貨五枚だ。表通りは貸し切りになるから、金貨が幾らあっても足りないぞ。真面目に働いたらどうだ」
ふふふ。俺は中年だったんだ。言われなくてもわかるさ。この金貨は大事だってな。しかし、俺はこの世界の常識がわからないのだ。今の話だと、銀貨1枚が一万円程度か。ミルスーリ通りが有楽町とか中州とかすすきのなんだろうな。
「遊ぶのは俺じゃありませんよ。騎士様、これで遊んできてくださいよ」
俺は金貨を一枚取り出し、握らせる。
「馬鹿言うな。俺にはな、俺にはな」
騎士は握った金貨を俺に返そうとしてくる。あれ? 恋人がいるのか?
「じゃぁ婚約の時に指輪でも買ってあげてくださいよ。彼女さんも喜びますよ」
俺は金貨を握り手で握らせる。
「金貨一枚は俺の給金よりも高いんだ。急に羽振りが良くなるとばれるだろ」
「大丈夫ですって。半年くらいお酒を控えて、お金を貯めている振りをすれば良いんです。大丈夫」
兵士は酒を飲むだろう。飲むだろうな。
「ぐむ・・・禁酒か・・・」
俺は静かに首を振る。
「違いますよ。酒場で飲むなと言っているんです。部屋でコッソリと飲む分は良いんじゃないですか」
「わかった・・・で、俺に何をしろと言っているんだ」
話が早くて助かる。