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スノーマンの絆

作者:

 とある雪国に一人ぼっちの少年がいました。両親は朝から夜まで働いており、日中はいつもひとりなのです。

 でも、少年は寂しくありませんでした。なぜなら庭には、少年の作った友達がいるからです。

 一緒に遊べなくても、話せなくても、隣にいるだけで少年は満足でした。しゃがんだ少年と同じくらいの大きさの雪だるま。彼の唯一の友達でした。

翌朝、少年が目を覚まし、庭をみると驚くことが起きていました。

「やぁ!おはよう!」

 元気に飛び跳ねながら、こちらに向かってくるのは、少年が作った雪だるまでした。

「今日はクリスマスだよ!サンタさんから君へのプレゼントってわけさ!」

 足もないのに、雪だるまはくるりと回ってお辞儀しました。

 喜ぶ雪だるまとは反対に、少年は悲しそうな顔をしました。

 雪だるまが不思議がっていると、しゃがみこんだ少年が、地面に文字を書きました。

「“上手くしゃべれない?”」

 少年は小さく頷きます。ものごころついたときから話すことができず、気味悪がったり、同じくらいの年の子たちから少年は避けられてしまい、今では誰も少年に近寄らなくなってしまったのです。

 だから少年は一人でした。そして、雪だるまが怖くなりました。話せるようになってしまえば、話せない少年と一緒にいても、つまらないと思われてしまう、そう思ったからです。

「そっかー。耳は聞こえてる?」

 少年は頷きます。

「なら大丈夫さ!」

 俯いた少年の視界に、木の枝がすっと現れました。それは雪だるまの手でした。

「話さなくったって遊べるよ!」

 丸い石でできた目が、三日月の石になったように一瞬見えた気がしました。

 それから少年は、一人ではなく、雪だるまとたくさん遊びました。

 ある日は近くの山でソリ滑りをして、またある日は鎌倉を作って遊びました。雪だるまの手は木の枝なので、動きはとてもぎこちないですが、それを気にすることなく、雪だるまは笑っていました。

 それから数日後、久しぶりにお母さんとお父さんが早く帰ってきました。二人とも、笑顔の少年に驚き、そして優しく笑いかけました。

 少年は雪だるまのことを伝えたくて、書いていた手紙をお母さんに渡しました。お父さんも横から覗き込んで手紙を読んでくれました。

「あらあら。サンタさんからそんなプレゼントが…」

 お母さんとお父さんを引っ張って庭に出ましたが、雪だるまは動きませんでした。

「きっと、大人には見せてくれないのかもしれないな」

 二人は少年を馬鹿にすることなく、動かない雪だるまを優しく見つめました。

 そして三人は手をつないで家の中に帰っていきました。

 次の日から、三人は久しぶりにお出かけすることになりました。雪だるまに日の当たるところにあまり出ないように注意しました。

「大丈夫さ!君も楽しんでおいで!」

 手が取れんばかりに大きく振って、雪だるまと別れました。

 雪だるまが現れてから、いいことが起きていて、少年は幸せでした。

 三日後、家に帰ってきた少年は驚きました。雪だるまが最後に別れたところからいなくなっていたからです。

 周りを見ても、家の後ろにも、雪だるまはいません。

 地面をよくみると、丸いくぼみが点々とどこかへ続いているのが見えました。

 少年がそれを追いかけると、着いたのは少し離れた誰かの家の前でした。雪だるまがいないか、周りをくまなく探しましたが、見つけることはできませんでした。

 肩を落とし、帰ろうとしたとき、家のドアがそっと開き、同じ年くらいの男の子が出てきました。

「君が、雪だるまさんのお友達?」

「!」

 雪だるまを知っているの?どこにいったの?聞きたいことはたくさんあるのに、言葉にならずに、少年はとてももどかしくなりました。

「僕ね、と、友達が欲しいってずっと思ってたんだ」

 そうしたら、雪だるまが家の前に現れて、僕の友達はすごく優しくていい子だから、きっと君と友達になれるよ。そう言い残し、どこかへいなくなってしまったそうです。

「君が話せないってことは、雪だるまさんから、聞いたんだ」

 少年は俯きました。また、何か言われてしまうかもしれない、そう思ったからです。

 俯いた少年の視界に、男の子の足が入りました。それを見て、驚き、顔を上げると、気まずそうに笑う男の子がいました。

「僕はね、片足がぎそくだから、友達がいないんだ」

 太ももより下には、足の代わりにぎしぎしと音を立てる細い金属がくっついていました。

「君も、僕が怖いかい?」

 男の子の声は、少し震えていました。少年は、男の子の気持ちが痛いほど分かりました。しゃべれない少年がみんなから遠巻きにされてしまったように、男の子も、きっと気持ち悪がられてしまったのでしょう。

 少年は強く首を横に振って、笑顔を浮かべました。

「ありがとう」

 少年は男の子と握手をして、その日は家に帰りました。家に帰ると、いつの間にか雪だるまが玄関の横にありました。でも、雪だるまはもう動きませんでした。

 少年の目から、涙が溢れました。新しい友達ができて嬉しいはずなのに、涙は止まりません。

 こんな気持ちは、初めてでした。

 突然現れた雪だるまは少年にできた初めての友達でした。

 少年に幸せと、友達との出会いを運んでくれました。

 そして別れの辛さを、悲しみを教えてくれました。

 短い間に、少年は今までの分を取り戻すかのようにたくさんのことを知ることができました。

 涙を拭い、自分のマフラーを雪だるまに付けてあげると、少年は家の中へ帰っていきました。

 それからは少年は一人ではなくなりました。男の子と一緒にいろんなところへ行きました。

 そして毎年雪が積もれば雪だるまを二つ、玄関の隣に作るようになったのでした。


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