8
俺はとある噂を聞きつけこの地域にやってきた。なんでも最近来たサーカス団に関してだ。
犬ならどんな種類、雄、雌、年齢関係なく言い値で引き取ってくれるらしいという。
最初は眉唾もんだったが、その地域に来てみて驚いた。とある敷地にあるサーカス団に犬を売り渡そうとして行列が出来ていた。行列の1人に声を掛けてみたらもう欲望の塊という様な目付きをして順番をまだかまだかと待っていると語ってくれた。
「この行列はいったいどうしたんだい?」
「どうだ、すげえだろう?みんな犬の引き取りの順番待ちだ。しかも言い値で引き取ってくれるという話だ。」
「いったいどこまで列をなしてるのかな?」
「さあ、言い値で引き取ってくれるなら少しぐらいの順番待ちも苦にならねえさ。あんたも1匹でも持ってきてみなよ。今からどれだけふっかけようかわくわくしてるぜ。」
「そうか。ありがとな。」
「いや、どうって事ねえよ。」
俺はひとまずその場を離れ、行列の面々の様子を観察してみた。
ペットの犬との別れを惜しむ者、何匹も引き連れて売り払う気満々の者、他の人に盗られないか周りを警戒する者。それぞれ目先の金欲しさの為と引き取られた後の元飼い主という誇りが入り混じった顔を浮かべていた。
中にはどこでにもいそうな他人の犬目当てで因縁を付けては奪い去る光景も見受けられた。
弱者は強者に財産になりうる犬を奪われ泣き尽くす者、とほうに暮れる者。まさに無法地帯とも呼べる惨状であった。
そんな俺は何食わぬ顔をして列に並ぶ人々の様子を見ていた。




