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ある日、自分の住んでいる地域にサーカス団が来た。
そして地域住民に対しそのサーカス団長は言った。
「あなた方の飼われているペットの犬、サーカス団の1員として引き取りますよ。」
「対価は言い値で引き取ります。」
「悪い条件ではないでしょう。」
今から思えばこれが悪魔のささやきの最初の一言であったのかもしれないと考える。
最初は怪訝そうにしていた地域住民も、その甘い誘惑に飲まれていく人が続出していった。
自分はもうとう渡す気は起らなかった。
これさいわい大金が入ると嬉々としてサーカス団に愛犬を渡す人々の姿を横目に帰宅した。
のちにこれがあんな大事に発展するとはつゆ知らずに・・・。
それから数日が過ぎ、ある事件というか騒動が起こった。
サーカス団の付近住民のペットの犬が忽然と消え去ったのだ。
とうにサーカス団に売り払っていた人達はほくそ笑んでいた。
『我々は先見の明があった。』のだと。
そして愚かにも大事にしていた愛犬を失った人達に対し、
侮蔑のまなざしを向けていた。
『なぜ我々の様にサーカス団に言い値で引き取ってもらわなかったのか。』と。
『大金が舞い込むチャンスを愚かにも拒んだ愛犬家達は自分の手でつぶし、
その愛犬が忽然と姿を消した。滑稽にも程がある。』等々。
自分も含め、サーカス団に引き渡さなかった愛犬家達は自分の行為に後悔しそうな気持ちを持つ事に次第となっていった。
『どうせ失うなら売ればよかったかもしれない。』
これが愛犬をこつぜんと失った愛犬家達の総意と言える程までこの問題は深刻であり、
心をやんだ人達もいた。




