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俺様は今ご機嫌だ。
つい先ほど絡まれていた子を助けて、お礼をもらいにその家に向かっているのだから。
それというのも、前々から愛犬家の子供が散歩してるのをマークしていた俺様は数人の大人達に囲まれて困っている所にさっそうと現れ窮地を救ってやった。
これは手下達との共同作戦であり前々から用意されていたシナリオだ。
で、かわりに俺様が代表としてお礼をもらいに行くという魂胆だ。
あいにく救ってやった当初はお礼を言ってきたが、形のある礼が欲しいと俺様が言った所泣く泣くといった表情を浮かべていたのはご愛敬だ。
ひとまず、救ってやった恩を返して貰う為目的地の愛犬家の家に向かっている最中だ。
後で手下達と山分けするのが楽しみでならねえぜ。
まあ、取り分の大半は俺が貰い受けるがな。
それからしばらくして目的の家に到着した。
「ただいま。」
「おかえりなさい。あら?お客さん?」
「うん。まあ・・・。」
「やあやあ、この子が犬の散歩中に数人に囲まれて絡まれていた所を助けてあげたんですよ。」
「まあ、それはありがとうございました。」
「いえいえ、当然の事をしたまでですよ。」
「そうでしたか。なにかお礼をしなくてはいけませんね。」
俺様は待ちに待った言葉を聞き出し言質を取った事に内心ほくそ笑んだが、
表情に出さないよう心がけるのであった。
横を見ると表向き助けた子供は「あっ!」という表情を浮かべていたが時すでにもう遅いという物よ。
こちらのペースで話を進めさせてもらう事ができて満足していた。
「こちらのお宅は大変な愛犬家とお聞きしております。
つきましては、礼のしなとしましてはここにいる犬1匹で構いません。
ただし、血統書のついた最高のやつですがね。」
「えっ?犬を1匹ですか?」
「はい。犬1匹で構いませんよ。」
「もちろんくださるのならこちらといたしましても何匹でもかまいませんがね?」
「なにしろそれぐらいの被害に遭いそうな所を助けたわけですからね。」
「そう・・・ですか。子供を助けてくれたかたをむげには出来ませんね。」
しめしめ、こちらの思うつぼだぜ。笑いをこらえるのが精いっぱいだぜ。
後はお礼として何匹くれるか心待ちしながら待っていればいいって事よ。
「ではこちらの血統書のついた高級犬を差し上げます。」
俺様は内心、どのくらいの価値が出るか売値はどこまで行くか皮算用していた。
しかし1匹しかくれなかった。
全く期待外れにも程がある。
俺様は、『たったこれっぽっちかよ!』と、怒りの声が出そうになったが言葉を飲み込んだ。
先のビジョンを見据えたからだ。
『今はまだあわてなくてもいい。
どうせまた襲われてるのを〖偶然〗助けてまたお礼をもらえばいい。
その時にまたもらえばいい。
余りにもがめついと悟られるかもしれないからな。
今はまだな。』
ひとまず俺様はお礼の礼を言った。
「ありがとうございます。
また何か縁がありましたらお会いする事もあるでしょう。」
「どういたしまして。これくらいのお礼しか出来ませんが、このたびはどうもありがとうございました。」
「ではこれで失礼しますね。」
「ではごきげんよう。」
「兄貴、やりましたね。愛犬家として有名なあの家から高級犬をせしめてくるなんて。」
「まあな。お前たちもご苦労だったな。
次もまた頼むぞ。今度は別動隊があたれや。
くれぐれも感ずかれるなよ。」
「へいっ!がってんでさ~。」
「で、兄貴これからいつもの所に行きやすかい?」
「ああ、そうだな。
ひとまず、この犬の相場を調べてくれ。
血統書付きだからすぐわかるはずだ。
後は言い値で引き取るらしいからどのくらいふっかけてやるか腕の見せ所だぜ。」
「兄貴、頼みます。
おこぼれ俺達にも分けてくださいね。」
「当たり前よ~!
精々期待するといいさ。
前祝いにこの前の売り上げが有ったろう?
景気よくそれで飲むぞ!」
「へいっ!
今若いもんに準備させております。
相場の結果が出るまで今しばらくお待ちしてくださるのと、前祝いにパァ~!と行きましょう。」
今からワクワクしながら相場の結果待ちをしていた。
手下達も前祝いだっていうのにどんちゃん騒ぎをしている。
ひとまず俺様もその輪に加わり飲んだ。
さあ、明日にでも今日もらいたての犬を売りに行くぜ。
帰りの荷物の量を想像し、一人ほくそ笑んでいた。
よい金ずるとのパイプも出来たからな・・・。




