11
僕はいわゆる愛犬家の子供として過ごしてきていた。小さな頃から犬達に囲まれた日々を送っている。
それは今までより続いており、これからもそうやって過ごしていくだろうと思っていた。
家の庭にはたくさんの犬達が放し飼いにされ元気に走り周っている。
その為逃げ出さないように高いフェンスで庭を囲っており、平和な日常を過ごしてきた。
近所からは鳴き声の苦情がたまに来るものの、良好が関係を築いていた。
たまに子犬が産まれては近所の希望者に譲渡してたりしてたからだと思う。
ここ最近、犬の譲渡申し込みが多くなってきた。初めは『犬好きが多いな。』等と感心していた。
だが少しずつではあるが、見知らぬ者まで押しかけてきては「犬を譲ってくれ。」と言う人々が増えてきた。中には今まで散歩中挨拶しても犬達に無関心であった者も心代わりしたかのように犬達をせがんできた。あからさまに様子がおかしい事になんとなくわかったがその時はまだここまで深刻な事態に陥ってるとは思いもよらなかったんだ。
ある日いつもの様に家の近所を数匹散歩させていたら、目の前に数人の人達が寄ってきてこう言った。
「どれ、可愛い犬さん達だね。どうだい1匹でもいいから譲ってくれないかい?」
「え?いやだよ。」
「まあまあ、いいからさ。1匹くらい譲ってくれても罰は当たらないさ。」
「無理な物は無理だよ。」
「そんな事言わないでさ~、何匹もいるんだから1匹くらいくれてもいいじゃん。」
「だからダメだってば。」
「そんな事言って周りに迷惑かけるもんじゃないよ?あまりにもひどいとこちらにも考えがあるよ?どうだい?1匹でも譲ってくれないかな~?」
「駄目なものはだめだってば。」
「ふんっ!そうかいっ!こちらが下手に出れば生意気な事言いやがって!後悔しても知らないからな?」
「これこれ、よってたかって子供相手にすごむのはちょっと見逃せないね~。」
「なんだ、てめ~!」
「いや、ただの通りすがりのもんだよ。ほら周りも見てるしここはひとまずひいたらどうだい?」
「ちっ!仕方ね~!ここはひとまずずらかるぞ。」
「「「へいっ!」」」
ひとまず犬をたかってきた人達はこの場を去っていった。
だがこの親切にしてきた人が僕の耳元によりこうささやいたんだ。
「どうだい?あんちゃん。助かったならそれをしてくれた人に対してそれ相応のお礼をするもんだよ?」
僕は不思議そうな顔をしていると、続けてこう言って来たんだ。
「まだわからないのかい?君は相手に対しお礼をまだしてないよね?」
「すみません、ありがとうございました。」
「あのね~君。こちらはね、言葉だけじゃなくもっと形の有る物が欲しいんだよ。例えばその犬とかね。」
「すみません、僕だけじゃ決めれません。親に相談しないと。」
「そっか~。そうだよね~。うん。うん。親に相談。当たり前だよね~。では今から君の家に行こうか~。」
僕を助けてくれた人は、満面の笑みを浮かべながら僕に先を急がせ家に行く事を勧めてきた。
助けてくれた人の心深くに潜む、欲望の渦をこの時僕は気が付かなかったんだ。




