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第4章 2011年10月 チャレンジレース 第98話

第98話【山口 輪太郎】


 なにやってんだよ、ムサシ。そりゃないだろ。その瞬間、俺は泣きそうになった。

予想通りに山頂をダンシングでトップで通過していくムサシの後ろ姿は、こいつだけ重力を感じてないのかと思うくらいだった。俺だってこれくらいの距離ならパワーにまかせて登りきれるけど、ムサシのヒルクライムは違う。


 ムサシのヒルクライムのダンシングには、コイツにはついていけないと思わせるオーラがある。フォームはめちゃくちゃだし、ハアハアしていて息も粗い。もう限界なんじゃないかと思える。だけど、そのまま重いギヤを踏み込み続けて重力の束縛から逃れるように登っていく。


 限界かと思わせといて、タレない。そのうちどこまでも登り続けるんじゃないかと思わせる。相手の戦意を喪失させる位に。


 普通、ダンシングだったらバテてくるはずなんだ。それなのに、ガムシャラで必死に登ってるくせに、ずっとそのまま登っていきそうな、そんなオーラを感じる。本当に登りが好きなんだな。いったい、どこまで速くなるんだ。


 そんなことを思いながら山頂から下り始めて、俺はムサシのちょっと後ろ、5番目くらいだった。ムサシが先頭で下るかと思ったら、下りの上手い選手が3人くらい前に出て、なかなかのペースで下り始めた。


 最初の九十九折の区間を抜けて短い直線に出たところで、後ろからひとりの選手が加速していく。右コーナーが来るのにイン側の右から追い抜きをかけている。 


 カーブが近づいているのに減速があまい。ドライ路面なら問題ないけど、今日はあれじゃオーバースピードだと思った瞬間、その選手は後輪をロックさせた。その後、スローモーションの様に横倒しに転倒した。


 そして右コーナーの入口で転倒しコース上を滑りながら、外側からコーナーに侵入しかけていたムサシをすくう形になった。ムサシも避けきれずに転倒。さらにもう1人も避けようとして急ブレーキをかけた際にスリップして転倒していた。ムサシを含め3人の選手が左側の山際にコースアウトした。


「ムサシ!」

大丈夫か! 起き上がれ! 

 先頭集団は先行する3人と、落車を逃れた俺を含めた4人で中切れを起こしそうになった。俺は動揺してチギれそうになっていた。


 あのバカ、なにやってんだよ、今日の今日に限って落車なんてしやがって。いつもムサシは落車しなかったろ、なんで今日なんだよ。今日は俺達が主役になる日だろ。主役がいなかったらドラマも盛り上がらないだろ。青春ドラマには主人公とライバルが必要だろ。


 第99話に続く


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