表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
97/109

第4章 2011年10月 チャレンジレース 第97話

第97話【宮本 健】


 輪太郎は鶴カンの登りの小さな登りで加速して人数を絞りに入った。後ろの3人がついていけないで下がっていく。平地でドラフティングでついていけても、登りではてきめんに脚の差がでる。


 僕は先行する集団の後ろでアタックする準備をしておく。登りに入ってから加速し始めた僕は、鶴カンの登りの中間あたりから、最後尾から加速して輪太郎をかわして先頭に出た。集団後方からペースアップして先頭に出た僕に反応してきたのは、輪太郎だけだった。


 斜度があると急な加速に対応するのが難しい。輪太郎は僕が来るのを知っていたから反応できたけど、他の選手は対応が遅れて一気に差が開く。


「おいおい、俺までチギれそうだったぜ」

「何を言ってんだよ、この前の練習の方がきつかったぞ」

 二人で先行しながら後続を引き離しにかかる。負荷がかかって心臓も脚も腕も疲れてきたけど、まだまだだと脳内のもうひとりの自分が言っていた。


 まだいける。限界はまだ先にある。もっと踏め。踏める。

 そう言っていた。今まで2回、チャレンジレースに出てきたけど、先頭で勝負しているなんて初めてだし、こうやって勝負できていることが気持いい。


 鶴カンの登りのあとは、ちょっと下ったらスタート・ゴール地点だ

「一気に行くぞ。古賀志林道までに後ろを引き離す」

 下り始めると輪太郎が宣言する。登りと下りでは、例えば同じ1秒差でも、距離感が全く違う。僕らは鶴カンを下り始めてから、下りを利用して全開で加速した。


 そこが狙いなんだ。後続の選手は思うはずだ。登るときには見えていた僕らの後ろ姿が、登りきったら視界から消えている。同じ秒差でも、下り始めるとあっと言う間に距離が開く。そこから誰が追走するか。誰が追走に脚を使う? 


後続に同じチームのジャージはなかった。誰と誰が協調する? 

そんな風に追走集団が躊躇しているタイミングを生かす。


 鶴カンを下ったあと、スタート・ゴール地点から赤川ダム湖畔を抜けて、釣り堀脇のコーナーを抜けると古賀志林道だ。林道までの区間は、平坦なので、一旦、脚を緩めたくなる。選手にとってつなぎの区間だ。だからこそ、差をつけるのに絶好の区間なんだ。輪太郎が強力に前を引きながらコーナーをクリアしていく。


「輪太郎、調子に乗って引き過ぎるなよ」

「うるせえ、ムサシこそ登りで張り切り過ぎてゴールまでにバテるなよ」

「ここを2人で登りきったら、あとはお互い気合だな」

「後ろを引き離して、下ってから追走を諦めさせたら、俺達の勝負だ」


 2周目の先頭通過は山岳賞だ。山岳賞って、かっこいい。そして僕は律ちゃんのヒーローになりたい。

 僕は限界ギリギリのダンシングで登っていく。1周目よりもペースを上げる。ほんとは疲労も溜まっている。

 コース上には1組でスタートして遅れている選手もいる。みんな辛いのだ。辛くなかったらレースじゃない。速いから強いから余裕がある訳じゃない。優勝する選手も、最後尾の選手も同じように辛い。


 限界は自分の意志が決めている。まだ限界じゃない。まだいける。中腹を過ぎて、僕はアンダーバーに持ちかえてダンシングで加速する。ここから頂上まで限界で登る。僕は山岳賞を取る。一番で山頂を通過するんだ。


 第98話に続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ