第4章 2011年10月 チャレンジレース 第95話
第95話【宮本 健】
萩の道への登りを登り切る手前で先頭集団の最後尾に追いついた。
ほんとに追いついたのだ。僕は信じられなかった。諦めたら終わりだと思っていたけど、追いつける自信は全くなかった。無理だと思いたくなかっただけで、ひとりだったら可能性はほとんどゼロだったと思う。五十嵐さんと田代さんがいなかったら、追いつけなかった。
タイミングも良かった。萩の道へのアップダウンで追いつけなかったら更に苦労したのは間違いない。登りや下りなら、集団の威力は半減する。下りきってしまったら平地メインになって、集団の威力にはかなわなかったろう。
五十嵐さんと田代さんの強力なアシストのおかげでこのタイミングで追いつけた。その証拠に後続集団からの追走の気配はない。人数が多い後続集団からの追走ができなかったほど、2人のペースが速かったということだ。2人は自分のレースを捨ててこの区間だけ全力で走って僕をアシストしてくれんだ。
優勝はこの先頭集団の中の8人で決まる。その中で僕と輪太郎が2人。僕は転倒して脚も余分に使ったけど、作戦としては振り出しに戻った。御の字だ。勝負できる舞台に復帰できたことに感謝だ。
下り区間ではおとなしくして脚の回復を待った。自分が先頭だったらもっとペースを上げるのになと思ったけど、勝負するのはここじゃない。最後尾から観察してると輪太郎は4番目くらいでペースを上げることなくおとなしくしていた。
僕が下りで転倒したのを見てたから、作戦実行不可能になったかと思ってるかもしれない。このまま走って、最後のスプリントになっても輪太郎なら勝てるだろう。下り終わったあとの平地区間は、平地とは言っても微妙にアップダウンがある。緩い登りでペースが落ちたところで僕は前に出た。
第96話に続く。




