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第4章 2011年10月 チャレンジレース 第93話

第93話【宮本 健】


 落車してから我に帰ると、後続の選手達が通過していく。

 一度、チギれてしまったら平地で先頭集団に追いつくのは、不可能とは言えないけどかなり難しい。このレースは距離が短いからなおさらだ。そして先頭集団はモチベーションが高い。つまり僕が狙っていた作戦どおりで、後続集団をできるだけ引き離したいのだ。


 後続集団は、登りで先頭についていけなかった集団だ。距離が短いアマチュアレースだったら、後続集団は最初から先頭集団に脚力で敵わないチギれた集団だ。協調できなければ、誰も無理して先頭を引いて追いつこうとはしない。


 つまり、先頭集団に追いつくのに必死で走っても、他の選手がついてきて脚をためていて一緒に合流したら、自分が引いただけ損なのだ。


 アシストがいるプロのレースなら、アシストはエースのために自分を犠牲にして集団を引くのが仕事だ。でも、このレースは違う。アマチュアのレースほど、協調して追走したりするのは難しい。


 追いつけるものなのか。

 つい数分前まで感動で泣きそうになっていたのに、今は、正反対のこの状況に泣きそうになった。


 九十九折が終わって直線にでた。追いつけるかどうかなんて分からない。ダメかもしれない。でも全力で走る。あきらめたらおしまいだ。まだ可能性はある。泣きそうというより、すでに僕は泣きながら走った。涙と鼻水でグショグショになっていた。


 先を見ると、先頭から遅れた後続集団の先頭が見える。まずは後続集団の先頭に出ないと手遅れになる。もうすでに手遅れかもしれないけど、まだ可能性はる。ペダルをめちゃくちゃ踏む。そんだけ踏んだら次の登りまで持たないんじゃないのというくらいペダルを踏む。


 できるだけ早く後続集団の先頭にでて、モチベーションのある選手でローテーションをうまく回して、先頭を追走するんだ。


 かなり足を使ったけど、県道への直角コーナーで僕はなんとか後続集団の先頭にでた。問題はここからだ。ひとりで追走を仕掛けて追い付ける訳がない。何人かで協調しないと。気持ちは焦るけど、一緒に強調できる選手はいるだろうか。


「ムサシ、何を焦ってんだ。コケてたろ」

「五十嵐さん!」


 五十嵐さんが追いついてきた。後続集団にいたのか。気がつかなかった。後ろには田代さんもいた。

「ムサシ君、なんて顔してるの。行くぜ! 追撃開始だ。絶対に追いつく!」


 田代さんが宣言してそのまま先頭に出た。その加速はちょっとした緩い登りを利用したアタックになった。その後ろに五十嵐さん、そして僕も慌てて反応して追走する。そのアタックはけっこう強烈で、僕ら3人で追撃するという意思表示になった。


 緩い登りだったのも幸いして後続は中切れを起こして、追走してブリッジをかけようとした選手も僕ら3人には届かない様子だった。


 果たして3人で追いつけるのかと不安はあったけど、その不安は正確じゃなかった。田代さんが引いたあと、僕が前に出ようとすると「足ためとけ!」と五十嵐さんが先頭に出る。下がって来た田代さんが言った。

「僕らは、とても最後まで勝負して走れるコンディションじゃない。最初から今回は順位は捨ててる。でもさ、1周くらいなら全開で走れる。なんとか萩の道までに追いつく。そこからはムサシ君の勝負だ。僕らのエースがムサシ君だ」


 第94話に続く

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