第4章 2011年10月 チャレンジレース 第88話
第88話【香川 律子】
「行こう!」
晴ちゃんが言う。確かに、私たちは持久力で言えば普通の女子じゃないわね。晴ちゃんに比べたら私はランは苦手だけど、そんなこと言ってる場合じゃない。私たちは勝利さん達に先に行ってますと言葉を残して坂を下り始めた。歩いていたんじゃ間に合わない。私たちは急斜面を駆け下りた。
気持ちは駆け下りていた。でもとてもじゃないけど、駆け下りているとは程遠かった。箱根駅伝てすごいわねと生粋のランナーの晴ちゃんも言う。なんとかゴールに間に合って。
私だって、トライアスロンで走っていたじゃない。体が悲鳴をあげていた。今日だけ、あとちょっと頑張って。
必死に登ってくる後続の選手や応援しているほかのチームの関係者に邪魔にならないように必死に走って、なんとか間に合った。肩で息をしながら晴ちゃんとほっとして顔を見合わせた。
勝利さんが渡してくれたラジオが実況を伝えてくれている。
「2組の先頭はゴール前1km地点。2人の高校生が逃げています。後続の5人が追走していますが、追いつくのは難しそう。2人の争いになりそうです」
「よく2人で逃げましたね。勇気が要りますよ。途中で1組の選手も混じって3人での走行になりましたが、それもレースの展開ですからね」
「ラスト1000mを切りました。1人がアタックしています。距離が開いています。このままロングスプリントか」
実況では1人の選手がロングスプリントを仕掛けたと言っていた。きっとムサシ君だ。そして追走するのが輪太郎君。私はもう十分よ。勝ってくれたらそれは嬉しいけど、もう十分。ありがとう。もう私は走りながら涙が止まらない。
第89話に続く




