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第4章 2011年10月 チャレンジレース 第86話

第86話【香川 律子】


 いったんラジオを切ったけど、周囲の応援団も同じようにラジオを入れているから、実況が微妙に聞こえる。結局、気になって仕方がないので再び勝利さんがラジオのスイッチを入れた。


「2組目の先頭が、2周回目のスタート・ゴール地点を通過します。2人の選手が飛び出しています。鶴カンの登りでアタックがあったようで、集団から今の段階で50mくらい飛び出しています」

「このアタックは逃げ切りを意識してますね。集団もここで追走を仕掛けないと、逆にゴールを意識して牽制が入って協調が取れなくなって2人に逃げ切られてしまいますね」

 実況は、2人の選手がアタックしていることを伝えていた。私は鳥肌が立った。鳥肌が立っているのに、心臓の鼓動が早くなって熱い血が体をめぐり始めた。


「ねえ、ムサシ君と輪太郎くんかな!」

 思わず声に出してしまった。一周目の落車には巻き込まれなかったのかな。もし、2人だとしたら、こんなにうまくドラマみたいな事が有り得るのだろうか。確かに輪太郎君のインターハイの実績と、それに張り合うことができるというムサシ君となら今日のレースの優勝候補なのは間違いないと思う。


 でも、レースは何があるか分からない。私はお父さんとお兄ちゃんのレースを観ていて現実を知っている。お父さんが言っていた。強いだけじゃ勝てない。強くても勝てないときは勝てない。運や展開も味方にしないと勝てない。


 それでも、気持ちも体も強ければ、運や展開という気まぐれな勝負の女神も味方になってくれる。それらを全部ひっくるめて一番強かった選手がその日のレースで勝つことができるんだ。そう言っていた。お願い、勝負の女神さま、2人に微笑んで。


 1組目の選手でまだ登りきれていない選手が通過していく。ほんとうに辛そうだ。その後ろから、2組目の先導のバイクが登ってきた。いよいよだ。あのコーナーを誰が一番先に抜けてくるの?

 歓声が、コーナーの向こう側で上がる。晴ちゃんも、晴ちゃんのお父さんも、勝利さんも恵子さんも、おじいちゃんも、その瞬間を待っていた。


「ムサシ君!」

 私は青春ドラマの中のヒロインになった。もちろん私のヒーローはムサシ君。コーナーから一番最初に現れたのはムサシ君だった。なんてすごいんだろう。ダンシングなのにドロップハンドルを握って低い体勢でスプリントに入っていた。2周目の登りなのに、まだまだ加速している。どれだけすごいの、ムサシ君。


 だけど、ドラマはそこで終わらなかった。青春ドラマにはライバルがいるんだよね。強敵が。


第87話に続く


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