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第4章 2011年10月 チャレンジレース 第84話

第84話【香川律子】


「1組目が通過したし、いよいよ2組目のスタートの時間だな」

 勝利さんが時計を見ながら緊張気味に言う。私も緊張してる。あのカーブからムサシ君が現れるのを待っている。ほんとうにムサシ君が先頭で現れるのかは分からない。みんな速そうだったもの。でも、期待してしまう私がいる。


 1組目の古賀志林道を登る選手達の先頭グループの登ってくる速度は、とてもアマチュアレースとは思えなかった。そして、そのあとに苦しそうな選手も続いていく。レベルの差はあっても、やっぱり頑張っている選手を見ていると応援するほうも熱くなる。知り合いはいないけど、ついつい応援してしまう自分がいる。


 地元のラジオ局が実況中継していた。

「チャレンジレース2組がスタートしました」

「1組は比較的牽制して集団で登りをクリアしましたね、2組目はどうでしょうか」


 実況と解説の2人の声を私たちは聞き逃すまいと、じっと黙って実況を聞いていた。

「中腹までは集団でしたが、アタックで集団がバラけてますね。10人くらいが先行して、そのあと少し離れて後続集団です」

「2組目は積極的な展開ですね、ここで差が開くようだと、脚が揃った先頭集団で勝負は決まってしまいますから、後続の選手はここで差をつけられると厳しいですね。下ってから協調して追走しないと勝負できないですから」


 誰が先頭かは分からない。でもきっと先頭の10人にいるはず。ムサシ君も輪太郎君も。

 2組目を先導しているイエローのコミッセールカーがすごい勢いでクラクションを鳴らして登っていく。こういうのも本場のレースみたいだ。


 私の緊張は最高に高まってくる。歓声もだんだんコースを登ってくる。坂道を先頭集団と一緒に。もうすぐだ。先導のバイクが見えた。私はまだ見えないムサシ君に無我夢中で叫んだ。ムサシ君。ムサシ君。


 そして、先頭で現れたのは、ほんとうにムサシ君だった。

 お父さんがそうだったように、ムサシ君が先頭で登ってきた。私は思わず叫んだ。


『ムサシ君!』 

 本当にムサシ君が一番で登ってきたんだ。私はこの感情を表すことができない。誇らしい気持ち、あなたが好きだという気持ち、あなたを応援することで私は生きることを実感できる気持ち。生きることを幸せに思える。自分の好きな人を応援して、その人が頑張っている。なんて素晴らしい場面に私はいるんだろう。


 もうすぐ登りきるところで、ムサシ君のおじいちゃんが『ムサシ!』と応援した。ひと言だけの気合の入った声援だった。


 ムサシ君が一瞬驚いたのは間違いない。それはそうだろう。でもそれはほんの一瞬。ムサシ君は視線を前に向けて再び加速していく。私たちの声援は力になっただろうか。


 第85話に続く


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