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第4章 2011年10月 チャレンジレース 第82話

第82話【宮本 健】


 僕は落車しない。転倒しない。

 そういう思い上がりがあったのかもしれない。


 今までのレースでも割と冷静に周囲を見ていて、危なそうな選手がいたら、踏み込んでかわすか、かわせなかったら距離をとっていた。


 今日はウェットだったから前にも行くのも躊躇したし、かと言って後ろに下がるのは気持ちが乗り過ぎていた。うかつだった。倒れながらスローモーションの中で思ったけど、もう遅い。


 幸い、ウェットだと転倒するリスクは高いけど、転倒した際のダメージは少なくて済む。先に転倒した選手のように、ウェットで滑りやすい路面を『滑る』からだ。これがドライコンディションのアスファルトだったら、擦過傷だけでもかなりのダメージを受ける。ヤスリの上に転倒するようなものだから。


 転倒した先が杉林の山際の赤土と下草の部分でダメージを吸収してくれたのも幸いだった。路肩がガードレールや縁石やフタのない側溝だったりしたら、想像しただけで恐ろしい。倒れる瞬間は冷静にそんなことを考えていた。


 転倒後、すぐに起き上がる。まずは立ち上がれた。次にバイクを確認する。フレームもフォークもホイールも無事だ。ハンドルも曲がっていない。シフターに泥はついてるけど、シフト操作も問題なさそうだ。


 肝心の体も再確認する。大丈夫だ。腕も足も動く。興奮しているのか痛みもあまり感じない。ここで転倒したのは最初に転倒した選手と僕、そしてもう1名の3名だった。


 先に転倒した選手が、僕ら2人にすいませんすいませんと謝ってくる。

 そのとき、僕の脳裏にあったのは、転倒に巻き込まれた怒りではなく、この転倒でいったいどれだけタイムロスするのかという焦りだった。


 転倒して起き上がるまでの時間。

 乗車して再び加速していく時間。


 その時間が永遠に思えた。先頭集団は何秒先に行ってしまったのか。

 後続集団が続々と通過していく。かなりの人数に飲み込まれながら、僕はサドルに飛び乗り再びペダルを踏み込んだ。


 前後左右に選手がいるのでコーナーのある下り区間では思うようにペースが上がらない。気持ちが焦る。焦ってはダメだという自分と早く追いつかないとと焦る自分。


 そして、もう追いつけないんじゃないか諦めそうになる自分。

 なんで今日になって、ここで転倒するんだ。追いつけるのか。


 第83話に続く。


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