第4章 2011年10月 チャレンジレース 第79話
第79話【宮本 健】
スタート直後の小さい登りを他の選手も勢いよく飛び出していく。僕もスムーズにスタートしたけど、更にダッシュしていく選手達が何名か先行する。
周囲の選手達は、雨の中を一緒に最前列に並んでいた選手達だから、モチベーションも高いし、脚力にも自信がある選手が多いのは間違いない。でも僕だって遅れる訳にはいかない。山頂には律ちゃんが待っている。スタート直後の小さい登りをクリアすると、僕は10番目くらいか。
輪太郎もスムーズにスタートして先行して先頭付近で走っている。相変わらず位置取りがうまい。僕も登りに入る前に輪太郎の位置まで追いつかないと。ダム湖の脇の比較的幅の広い場所を利用して加速して、登りが始まる手前で5番目くらいを走っている輪太郎に並ぶ。一気に心拍を上げたので、スタートの待ち時間で冷えた体がびっくりしている。
「最初から行くか」
「先頭に出た方がペースをコントロールできる。今日は濡れているから登りでもスリップして転倒する選手がいるかもしれない。ムサシ、前に出るぜ」
落車に巻き込まれるのはリスクとしてはレースだから仕方ないけど、距離の短いチャレンジレースで落車したら一気に不利になる。リスクを考えたら先頭でクリアするのが一番確実だ。
その分、体力は消耗するけど、それを承知の上で僕らは今日の作戦を立てている。輪太郎の言うとおりだ。積極的に走るんだ。体も登るうちに暖まるだろう。
古賀志林道の登りが始まる。古賀志林道は、登り口の急斜面~緩斜面~急斜面~山頂付近で緩斜面、という感じに斜度が変化していく。僕は最初の急斜面でペースをあげるて先頭に出る。まだ僕はシッティングだ。輪太郎も前に出てきて並走している。他の選手が前に出ない程度のペースで負荷を上げていくけど、まだ限界じゃない。昨日のペースの方がよほどキツかった。
いったん斜度が緩くなると他の選手が3人くらい前に出てきた。みんな有力どころのチームジャージだ。みんながみんな勝ちに来ているんだ。僕の最大のライバルは輪太郎だけど、当然ながらこのレースはふたりだけの勝負じゃない。
いま5番手くらい。もうちょっとで中腹からの急斜面に入る。振り返ると輪太郎もすぐ後ろにいる。普段、僕らが走っている社会人対象の地味なシリーズ戦だと、コースからの応援なんてそれほどいない。
でも今日のレースは別格だ。次のオープンレースも控えてるし、地元の自転車乗りや有力チームの応援団からの声援が飛んでくる。僕たちへの応援じゃなくても、その声援は励みになる。そして、山頂では律ちゃんが待っているはずだ。そんな風に思っていると、格段に大声で応援してくれる声が届いた。
第80話に続く




