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第4章 2011年10月 チャレンジレース 第78話

第78話【宮本 健】


「第2組、スタート5分前」

 前方では、1組がスタートした。530ジャージの荒井さんもあの中で走っている。アナウンスを聞いて僕らはウインドブレーカを曽根さんに預けた。スタートラインには、次のオープンレースに出場するおじさん達や、一緒に走ってる朝練仲間が応援してくれている。


 レースの前で雨だと体が冷えちゃうかもしれないのに応援してくれている。テンションが上がる。誘導員の指示で、スタート位置に移動した。僕らは最前列だ。前には誰もいない。そしてゴールでも先頭でゴールする。スタート前、輪太郎の集中力はすごい。とても話しかけられない。僕はというと、レースに集中するというより、いろいろな事が脳裏に浮かんできていた。


 夏休みに律ちゃんと出会ったこと。

 あっという間に律ちゃんにひと目惚れしたこと。

 震災で家族をなくした律ちゃんのつらさに触れたこと。

 トライアスロンでみんなで参加して優勝したこと。

 今日に向けての輪太郎とのトレーニング。

 律ちゃんのお父さんとお兄さんの形見のバイクに乗ることになったこと。

 律ちゃんのお父さんの自転車や地元のレースにかける思い。 

 輪太郎の自転車にかける真剣な態度。

 僕は一体何になりたいのか。自分はいったい何者なのか。

 じいちゃんの余命半年の宣告。

 今、律ちゃんと恋愛していること。


 今年の夏はジェットコースターみたいな季節だった。秋になってもジェットコースター状態は続いている。このジェットコースターのゴールは終着駅になるかな。いや、これからもジェットコースターは続いていくのかな。


「スタート1分前」

 そのコールや観客席からの応援で、僕は現実に戻ってきた。

「ムサシ、勝てよ!」

「山岳賞だろ、ムサシ」

 朝練仲間のおじさんたちの威勢のいい応援は嬉しい。たぶん、スタートラインに並んだ100人以上の選手への応援としては、僕への応援が一番派手で賑やかな応援だ。僕は手を振って応える。みんなの応援に応えるんだ。


「スタート30秒前」

 あと30秒でスタートだ。過去2回のチャレンジレースのスタートとは緊張感がまったく違う。


「いよいよだな」

 僕はさすがに緊張してきて、となりの輪太郎に話しかけずにいられなかった。

「ああ、いよいよだ」

 雨はちょうど上がったけど、フルウェット状態のままだ。

「ムサシ、アシストできないけど、頑張れよ」

 後ろから五十嵐さんが声をかけてくれた。

「こんな前からのスタートだけど、僕らはゴールできれば御の字だわ。行けるとこまで張り切るか」

 田代さんが自嘲気味に言う。ほんとなら一緒にゴールまで張り合いたかったに違いない。


「スタート10秒前」

 ここから古賀志林道の山頂まで2km弱。まずは先頭でクリアする。山頂で律ちゃんが待っているんだ。カウントダウンののち、スタートの号砲が鳴る。一発でペダルのクリートをキャッチできた。一気にペダルに力を込める。輪太郎もスムーズにダッシュしている。とうとう勝負だ。


 第79話に続く


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