第4章 2011年10月 チャレンジレース 第74話
第74話【宮本 健】
僕らはスタート&ゴールになる会場に戻った。チャレンジレースは2組に分かれて出走する。チャレンジレースの1組には荒井さんがエントリーしている。僕らがスタートするのはチャレンジレースの2組。
一緒の組には五十嵐さんと田代さんがエントリーしているけど、2人はスタートしないかもしれない。五十嵐さんは落車した怪我がひどそうだし、田代さんは来月の関西への転勤の準備で今日も休日出勤になるかもしれないって言ってたから。
「ごめんなさい。遅くなっちゃって」
「律ちゃんたちがごめんなさいっていうことないって。僕らがごめんなさいだよ。雨の中、ありがとう」
律ちゃんと晴ちゃんが到着した。
小雨の中、ここまで応援に来てくれた2人に感謝だ。僕は律ちゃんの応援でどこまで頑張れるのか、自分自身が楽しみになる。
「調子はどう?」
晴ちゃんも晴ちゃんなりに雨模様というのが不安なのかな。ちょっと不安げな表情で輪太郎に聞いていた。
「おお。絶好調だよ。スタート前にチューでもしてくれたら、ブッチぎって勝っちゃう」
輪太郎のこういう神経が分からない。唇をタコみたいにしてチューチューしている仕草をしている輪太郎を無視しながら晴ちゃんが言った。
「ねえ、なんだか不思議ね、自転車のレースってこんなに人気があるものなの?」
雨でもそこそこ人が集まってきて、物販のブースもスタッフが準備を始めていた。
「そうだね、エンデューロっていうお祭りみたいなイベントとかヒルクライムのイベントだったら数千人が集まったりするよ。マラソンと違って、人数分の自転車も一緒に集まるから雰囲気が独特だよね。しかもヘルメットとかジャージとかレーパン姿とかって、知らない人から見たら違和感ありまくりかもね」
僕はロードレースの知識があまりない晴ちゃんに、いろいろと解説したいのを極力抑えて冷静に客観的に説明した。ロードバイクのレースにもいろいろあって、数千人規模のイベントから、僕らが普段参加するホビーレーサーを対象にしている体育会系くさいストイックなシリーズ戦まで、いろいろある。
「この大会は貴重なんだ。ムサシはいかにもロードレースが人気がありそうなこと言うけど、俺達が走ってるのは普段はもっと地味なレース。すごく地味でオッサンくさい。
オレたちが走れるレースで、こんなにスタンドやテントや大画面液晶が設置されててブースの出店があるなんてほかにないんだ。そうだな、やっぱりこういう舞台で勝たないとな。勝つけどさ」
「ほんとに勝てるの? なんだかみんなすごく強そうな選手ばかりね」
確かに集まってきている選手たちは速そうに見える。バイクで言えば、ちょっと見ただけでも1台で50万円コースなんてザラだ。自転車の値段を知ったら、晴ちゃんはひっくり返っちゃうかもしれない。そして、こんなにたくさん(と言ってもまだ数百人のレベルだ)のロードレーサーを見たのはおそらく晴ちゃんは初めてだろう。
第75話に続く




