第4章 2011年10月 チャレンジレース 第72話
第72話【宮本 健】
雨は霧雨程度になってきたけど、まだ路面はフルウェットだ。もちろん晴れた方が良いけど、僕は1年中自転車通学してる訳だから雨には慣れてる。そして、輪太郎の言うとおり、コンディションが悪ければ悪いほどコースを知っている地元の僕らには相対的に有利になると思う。そう思うことでモチベーションを上げていこう。
ただ、応援する側にとってみれば雨は面倒だ。その意味ではレースの前には雨が上がってほしい。駐車場から山頂まで雨の中を歩くのは大変だ。約束の7時前に森林公園のセブンに到着すると輪太郎が先着していた。
「朝ごはん、律ちゃんからもらってきたから、オニギリとかサンドイッチとかならあるぞ」
「ていうかさ、律ちゃんと晴美はどうしたのさ」
「うちで朝ごはん食べてる」
「なんだそりゃ、ムサシだけ来ても俺のモチベーションあがらないだろ」
「じゃあ、晴ちゃんのオニギリや卵焼きあげない」
「なんでそうなるんだよ」
輪太郎はブツクサ言ってるけど、それはそれ。今日のレースの作戦を再確認つつ受付のある会場の駐車場に2人で向かう。
「やっぱり雨だったな」
「ああ、これくらいなら俺達は全然問題ないけど、ちょっとでも雨が降ると応援する方が大変だな」
輪太郎も同じことを考えている。僕らは選手だから良いけど、雨になったら応援する律ちゃんと晴ちゃんは大変だなと2人で心配する。レースは10時スタートだ。スタートまでに雨がやむと良いな。受付をしたあと、僕らはまだ代理店のスタッフが来ていない物販ブースのテントで雨宿りしながら律ちゃんのサンドイッチと晴ちゃんのおにぎりと卵焼きを食べた。
「調子にのって食べ過ぎちゃいそうだな」
輪太郎が卵焼きをほおばりながら言った。僕はクリームチーズと生ハムのサンドイッチを食べながら、こういう美味しいサンドイッチを作ってくれる律ちゃんに毎度のことながら惚れ直していた。ブラックペッパーが効いてるのがちょっと大人っぽくて僕は嬉しい。おにぎり1つと卵焼きとサンドイッチをお互い食べたけど、まだ半分残っている。
「どっちもうまいな。全部食べちゃうとやっぱり食べ過ぎだな」
全部食べちゃうのは全然平気だけど、食い過ぎで胃袋がいっぱいじゃ全力は出せない。数時間を走るレースならともかく、チャレンジレースは40分ちょっとだ。胃袋はカラにしておきたい。そういう点は輪太郎がすごくストイックだ。
「走り終わったらご褒美で残りを食べようぜ。そうだな、勝った方が食べられることで」
「なにそれ、輪太郎との2人の勝負でってこと?」
「そういうこと。俺達2人の勝負で、勝った方の賞品。きっと優勝もついてくる。負けたほうは飲み物もおごりで、昼飯はその辺の屋台の焼きソバとか食えってことで」
優勝を前提の勝負っていうのが輪太郎のすごいところだ。
「負けたら最悪だな」
「勝てばいいだろ」
第73話に続く




