第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第66話
第66話【宮本 健】
「香川さん」と表示されるディスプレイに僕は泣きそうになった。「パソコンの方に送信しました」と表示されたメールをみて僕は眠気と寄り添いながらパソコンを立ち上げた。
「夜遅くに返信ごめんね。でも今日中(もう明日だね)に何か伝えたかったの。うまく言えないけど。私も震災のあとのつらさは言葉にできないし、それは誰かに分かってもらえる種類のつらさじゃない。そのことをムサシ君が分かってくれていて私の支えになってくれていることにすごく感謝してるの。
私も今のムサシ君のつらさを分かることはできないと思う。でも、ムサシ君がそうしてくれたように、私が何か支えになれれば嬉しいの。
だから、ほんとのことを言うとね、私にメールしてくれたことが嬉しいの。私を頼りにしてくれている。私が力になれることがあるって。
だって、今まで私は震災のあとは誰かに支えてもらってばかりで、それは仕方がないことだったけど。だんだんそれがちょっとずつマイナスの感情になってどこかで溜まってきて素直になれなくなってくる自分がいたの。いつまでも誰かのお世話になっていてばかりで、私はただの世間のお荷物なんじゃないかって。
ムサシ君の力になれるということは、必要とされることは、こんなに嬉しいことだとは思いませんでした。ムサシ君の悲しい状況を聞いて、私が嬉しいというのはひどい話かもしれません。
でもね、素直に言うね、ムサシ君のなにかの役に立てたら、私は嬉しい。今までたくさんの人にお世話になってきて、少しでもそれを誰かに返したい。だったら、私が好きな人にって。
何かが出来る訳ではありません。でも、私は少しでもムサシ君の支えになりたい。夜遅くにごめんなさい。おやすみなさい。レースは出るよね、応援するから」
第67話につづく




