第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第60話
第60話【宮本 健】
家に戻ると、律ちゃんと晴ちゃんが既にじいちゃんばあちゃん、お母さん、勝利さんたちと朝ごはんを一緒に食べているところだった。
それが普通に自然に楽しそうな雰囲気で僕は嬉しくなってしまった。急いでシャワーを浴びて着替えてきて、僕も朝食に参戦する。
「ムサシ君ちのご飯て、すごく美味しいわ。うちで使ってるお米も自信があるけどね、ムサシくんちのお米はとても美味しい。お米が美味しいのって、最高」
晴ちゃんに言われて、またじいちゃんがニタニタしている。お寿司屋さんの娘さんにそう言われたら、そりゃ米を作っているじいちゃんが嬉しくないはずがない。
「野菜も美味しいです」
律ちゃんが茄子とかぼちゃと油揚げの味噌汁と、オクラのお浸しを食べながら言う。そうすると今度はばあちゃんが嬉しそうに笑う。みんなが笑顔になる。こいうのって、幸せだなあと改めて思う。
ご飯を食べ終わってから律ちゃん達を見送ると、ちょっと寂しくなった。また今週末に会えるけど、寂しい。これが恋愛なのか。
「タマにはジャンクなのも食べたくなるんだよ」
学校の帰り道でマックで待ち合わせして輪太郎が食べてるのは、単品のノーマルなハンバーガーとオレンジジュースだ。シンプルなハンバーガーがバーガー類では一番カロリーが低い。合計200円なり。
「そんなこと言って単品かよ。おごりなんだろ。オレはセットにしてポテトも食べるぞ」
「不節制なやつだな。ひとのおごりだと思って」
たまにはジャンクなものも食べたくなる。その通りなのだ。マックのポテトくらいなら可愛いものだと思う。それすら食べない輪太郎のストイックさには驚く。
「で、なんだよ、血液の検査結果って」
「見せてみろよ。占いしてやるよ」
朝に聞いたときは半信半疑だったけど、ほんとにやるのか。血液検査の結果通知で占いするなんて、聞いたことないぞ。
「血液型占いか。僕はA型だけど、全然几帳面な訳じゃないぞ」
「いいから黙ってろって」
輪太郎は僕の検査結果をしばらく眺めてから口を開いた。
「なあ。ムサシは何になりたいんだ。何を目指したいんだ」
「なんだよ、血液型占いから人生相談か」
何をいきなり訊いてくるんだ。僕は輪太郎が何を考えてるか全く分からなくなった。
「ああそうだ、人生相談の回答だよ。迷えるムサシ君へのな。
ムサシ、お前は強くなるよ。どんどん強くなるさ。井の中の蛙になってる場合じゃないぞ。井戸は日本だよ。にっぽん。ジャパンだよ。お前はさ、世界を目指せって」
「何を言ってるんだか、さっぱり分からない」
どうしてそんな話になるんだ。
「あのなあ、ムサシってさ、強いんだよ、もう既に。ハードなトレーニングをどんだけ積もうが、普通なら到達出来ないようなレベルにいるんだよ。努力の塊の俺が言うんだから間違いない。ムサシには素質があるんだよ。素質があるんだ。」
いったい、僕のどこに素質があるんだ?
第61話 に続く。




