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第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第59話

第59話【宮本 健】


 僕は楽しくなってきた。先頭で登りを通過する。そうだよな、楽しみだ。苦しけどきっと楽しいに違いない。律ちゃんと晴ちゃんも応援に来てくれると言っている。脚に力が湧いてくる。

 まずは今日、ここで輪太郎を引き離して山頂に先着する。バイクが軽い。2kgの差は大きい。バイクの反応も良くなっている。このバイクは確かにすごい。更にダンシングするペダルに力を込めた。


「ムサシ、頑張り過ぎだろ。なんていうか、レンアイドーピング。やっぱり昨日の晩に律ちゃんとチューでもしていちゃついてたんだろ」

 必死にお互い併走しながら気の抜けることを言う。

「何を言ってんだか」

「チューで強くなれるなら、俺も晴美にどんどんチューしてもらいたいぜ」

 とまあ、くだらない話をしている。だけど、すでに限界MAXだ。最後の山頂に向けての加速を張り合う。


 今回は辛かった。僕は古賀志の山頂もなんとか先着した。

 練習でこんなに辛かったら、本番のレースではどんだけ辛いのだろう。なんて言っても輪太郎はインターハイのロードレースのチャンプだから、こうやって2人で追い込めるのはトレーニングになる。


 1人じゃとてもここまで追い込めない。輪太郎に感謝だ。しかしまあ、「レンアイドーピング」には思わず苦笑してしまった。最後、今まで以上に踏み込めたのは、頂上に律ちゃんを思い描いたからだ。律ちゃんが山頂で応援してくれると思ったから、加速できた。


「下りはなあ、練習でコケてもしょうがないからな」

 ジャパンカップ前になると、古賀志林道の下りの路面はきれいに清掃されて、やっかいいな日陰のコケとかも除去されている。ついついペースをあげたくなるけど、そこでリスクを犯してもしょうがない。


 この時期になると「コケでコケた」というオジさんたちが必ずいた。自分達も気をつけないと。そういうところは輪太郎は慎重だ。コーナーを確認するようにペースを抑え気味にして走る。


 それでも違いははっきり分かる。このバイクは驚く程、下りが安定している。登りの反応の良さと軽さにも驚いたけど、下りのブレーキングやコーナーリングの違いにはもっと驚いた。フロントフォークの剛性が高いのかまったくブレない。


 ブレーキのグレードも上がってるから、当然ブレーキングも安定している。

 タイヤの限界まで安心して攻められるってのは、ほんとすごいことだ。


 九十九折の下りが終わって緩いコーナーでつないでいる直線区間にでた。見通しが効く区間だ。対向車が来ないのが目視で分かる区間だ。

「そりゃあ、リミッター解除だ」

 後ろから輪太郎がぶっ飛んでいく。対向車も歩行者にも心配が要らなくなると輪太郎の走りはキレまくる。緩いコーナーもキレている感じでクリアしていく。本番のレースだったらどこまでリミッターを外すのか。


 下り終わって僕もペダルを踏み込む。輪太郎相手に先頭に出るのはホントにツライけど、いつもと感覚が違う。フレームの違いはすごい。安定感があって、もっともっと前に前に進めとフレームが要求してくる。どこまでも進めと。


 登りや下り、コーナーリングも凄かった。それは性能差は出るだろう。

 だけど、平地を走っていてもこんなにも違うものかと驚いた。

「おいおいムサシ、スピードのノリが違うぞ」

「すげえよ、これは。キツイけど、もっとスピードを出せってペダルを回せってフレームが要求してくるんだよ」

「羨ましいこと言うね。そんなら要求に応えるしかないだろ」

 輪太郎が先頭に出て更に加速していく。僕らはそのあともお互いほとんどチギリ合いのようなローテーションで森林公園の駐車場のゴールに向かった。

 辛いけど楽しい。もし輪太郎をチギれるならチギってゴールしたい。今朝は勝負をかける。チャンスは登りしかない。そう思って走った。


 ゴール手前1000mにあるちょっとした登りでアタックして輪太郎を引き離したものの、やっぱりゴールでは最後の最後にかわされた。今朝も輪太郎にかなわなかった。流石だよな、輪太郎。でも、「勝てない」とは思わない。今日、初めて勝つ可能性があると思えるようになった。


 帰り際の際に輪太郎が言った。

「ムサシ、言ったろ。夕方、占いしてやるよ。晩飯がわりにマックでも良いだろ」

 そう言って輪太郎は帰っていった。訳が分からないけど、それはそれで興味がある。夕練後、献血結果を持ってマックに行くか。


59話に続く

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