第3章 2011年10月 何のために走るのか。なぜ走るのか。第55話
第55話【宮本 健】
「俺達、風呂は晴ちゃんとか律ちゃんの後かな」
とかバカなことを言ってる輪太郎に、明日は早いから早く寝ろと言い聞かせて、僕の部屋に連れて行って布団と毛布を出して歯磨きして寝る準備をさせた。すぐに寝息を立て始めた輪太郎の横で、僕は寝付けなかった。
しばらく寝付けなかったので、明日の朝練の準備を兼ねて納屋にあるバイクのポジションを確かめることにした。茶の間では、まだ母さんや恵子さん、律ちゃん晴ちゃんの話し声が聞こえたので、気づかれないように勝手口から出てローラー台にセットしたC50にまたがった。
ローラー台の良いとろはポジション出しにも使えることだな。バイクやローラー台、律ちゃんに感謝だ。ローラー台は実走とはちょっと感覚は違うけど、セットしたまま微調整がすぐできるのは良い。実走しながらだと乗ったり降りたりが意外と面倒なのだ。夜中の納屋の蛍光灯の下で、今まで乗っていたビアンキのポジションをコルナゴで再現してみた。ステムやらサドルの高さをいじっているとあっという間に時間が経ってしまう。
最終的にサドルの前後位置を微調整して終了。ポジションを出すためにペダリングしていてかなりの汗をかいてしまった。シャワーを浴びたかったけど、起きている女性陣に気がつかれそうでやめといた。
そう言えば。ケミカル類やパーツや工具をなどの小物と一緒に収納ボックスに収まっていた数冊のノートがある。ロードバイクとローラー台と一緒に律ちゃんが一緒に持ってきてくれたんだ。そのノートはお父さんのトレーニングノートだった。
汗が引くまで、律ちゃんのお父さんの練習メニューでも見てみようかなと思った。そしたらその中で1冊だけ、内容が違っていたのが気になって手にとってみた。「りくぜんたかたロードの復活」と表紙には書かれていた。
冒頭を読んでみると、それは、陸前高田市が開催していてたけど、4年前に中止になった「りくぜんたかたロードレース」を再開させるために、律ちゃんのお父さんがアイデアを書き溜めていたノートだった。何気なくページをめくっていたのに、僕はそのノートに引き込まれてしまった。
第56話につづく




